ついに、代表選考試合の日がやってきてしまった。
私と玲名は鬼道がキャプテンを務めるBチームに振り分けられ、ヒロトとは敵対チームになってしまったけれど、それはまあ致し方ない。例えチームメイトであったとしても、私達はみんな日本代表を狙っている。そう、ここにいるみんながライバルなんだ。
ゴクリ、と生唾を呑み込む。日本代表がかかった試合であるため、観戦席には多くのサッカーファンが集い、選手達に声援を送っていた。
うわああ、本当にこれで代表が決まっちゃうんだ。私なんかがこんなところに立っていて良いのかな…!?緊張と不安で真っ青になっていると、そんな私の肩をトントン、と誰かが軽く指で叩いた。
振り返れば、そこにはBチーム用のユニフォームを着用した玲名が真顔でこちらを見据えている。彼女が自分と同じユニフォームっていうのは何だか新鮮だな。そんなことを思いつつ、私はおずおずとした調子で彼女に尋ねた。
「な、なに?玲名…。」
「お前専属の応援団が来てるぞ。」
「へ?」
私の肩を叩いた指が、スッとある方向へ向けられる。なんだろう、とそちらへ視線をやれば、そこにいた子供達に私は目を見開いた。
「なっ、お、お前達…!」
予期せぬ出来事に、声が裏返る。なぜか当然のようにそこにいたジェミニストームのみんなは、私の視線に気がつくと、嬉しそうにこちらへ手を振ってきた。
いやいや、どうしてお前達がここに来てるんだ!聞いてないぞ!?……いや、それに関しては別にいい。問題は、お前達が手に持っている“ソレ”だ!!!
『ガンバレ!緑川ユウナ!!』そうデカデカと書かれた大きな垂れ幕に、私は思わず口元を引きつらせる。まさか、今日のためにわざわざ作ってきてくれたんだろうか。
その……気持ちはものすごく嬉しいんだけど、かなり目立っていて恥ずかしいので、できれば今すぐやめてもらいたい。あと、その顔写真付きの団扇もやめてくれ…!私はアイドルかなんかか!?
多分、ここまで応援に力を入れているのは彼らくらいだろう。周囲からとても浮いているように見えるが、少し前まで世間を騒がせていた元宇宙人であるためか、彼らはあまり他人の目を気にしないようであった。私は気にするけどね!
応援幕を広げている副キャプテンの大夢に、今すぐやめるよう目で訴えれば、彼は目をぱちくりさせた後、なぜかグッと親指を上げる。ダメだ、約5年もチームを組んでいたというのに意思疎通が全くできていない。
頭を抱える私に、「お前のチームは本当に仲が良いな」と玲名は半分笑いながら言った。……うん。ほんとに、仲が良すぎて困っちゃうくらいだよ。
でも、ジェミニストームのみんなのおかげで、緊張の糸が解けたみたいだ。ふっと顔を上げた私は、ジェミニストームのみんなに向かって手を降った。これ以上、お前達の前でみっともない姿は見せられないからね。
「応援してくれているみんなのためにも、頑張らないと。」
「ああ。お互い、悔いのない試合にしよう。」
「うん!」
私は、玲名のその言葉に大きく頷いた。よーし、“故郷へ錦を飾る”ためにも、絶対に代表選手になってみせるぞ!
自分のポジションに着いた私は、試合開始のホイッスルが鳴るのを静かに待ち続けた。
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代表選考試合は各々が自身の力をぶつけ合い、一進一退の攻防が続く、とても白熱した試合となった。
結果は3対2で円堂率いるAチームの勝利。残念ながら私達のチームは負けてしまったけれど、やれることはやったというか。久しぶりに『アストロブレイク』も決められたし、私自身は悔いのないプレイができたと思う。
そして、再び集められた代表候補達。ついにお待ちかね、代表選手の発表である。しかし、その前に響木さんから、日本チーム監督の紹介をされた。
監督の名は久遠道也。全く知らない人物だった。円堂達の知り合いかとも思ったが、見る感じそうでもないようで。一体どんな人なんだろう、とそんなことを考えていたが、久遠監督の「代表選手を発表する」という言葉で、そんな考えは一瞬で頭から吹っ飛んでしまった。
鬼道有人、豪炎寺修也、と次々に名前が呼ばれていく。もう心臓がドキドキし過ぎて壊れてしまいそうだ。……あ、ヒロトも呼ばれた。いいなぁ、すごく嬉しそう。でも、ヒロトは円堂とサッカーするのすごく楽しみにしていたし、代表に選ばれてほんと良かったな。
「……緑川ユウナ。」
「!?はっ、はい!」
なんて考えていたら、久遠監督に名前を呼ばれ、私は動揺しつつも大きく返事をした。うそ、信じられない。私が日本代表選手に選ばれるなんて…!
久遠監督は17人目の選手の名前を呼ぶと、「…以上だ」と言い、後ろへ下がった。その途端、わっとそれぞれの反応を見せる選手達。代表入りを果たし喜びを顕にする者もいれば、当然落ち込む者もいるわけで。
落選してしまった玲名にそっと視線を向ければ、彼女は残念そうな顔をしつつも、その口元に笑みを浮かべていた。
「ユウナ。代表入りおめでとう。私の分まで、いや、ーー私達の分まで頑張ってくるんだぞ。」
「……うん。ありがとう。」
差し出された玲名の手を、私はしっかり握り返す。エイリア学園の頃は、マスターランクとセカンドランクの選手として階級に大きな格差があったため、私達は気軽に話すことさえ許されなかった。
……でも、あの事件の後から私達は変わっていった。まだ少しぎこちなさはあるけれど、今ではこんな風に笑って話ができるまでに関係が修復している。私達だけじゃなく、お日さま園のみんなもそれは同じだった。
みんな、気づいたんだ。お父さんがいない今、私達は力を合わせて生きていかなければならないということに。
「ユウナ。」
「あ、ヒロト!代表入りおめでと!」
「ユウナもおめでとう。また一緒にサッカーができるなんて嬉しいよ。」
口元を緩ませ、心から嬉しそうな表情を見せるヒロトに、「私もだよ」と笑って返す。そうだ。これからはまた昔のようにヒロトと一緒のチームでプレイができるんだ。それも世界を相手にだなんて、こんなに嬉しいことがあるはずない!
「よーし!」と私は拳を作り、ヒロトの前に突き出した。
「応援してくれているお日さま園のみんなのためにも、今まで迷惑かけた人達に改心したところを見せるためにも、一緒に頑張ろうね!ヒロト!」
「ああ、もちろんだよ!」
コツン、と拳同士がぶつかりあう。ーーこうして、私達の世界への挑戦は始まったのである。
残した者の思いを受け継いで
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