「あのときは本当にごめんなさい。謝ってすむ話ではないけれど、私も、お日さま園のみんなも、心から反省しているんだ。もう二度と、あんな愚かな真似はしないと誓う。本当にすまなかった。」

 
私は許されないことを覚悟しつつも、深々と頭を下げた。すると、白恋中サッカー部の子供達はとても焦った様子で、私に頭を上げるよう言った。


「そんな、謝らなくていいよ!俺達、別に気にしてないから。」

「そうそう。うちは誰一人怪我してないし、学校だって壊されなかったしね。」

「それにキミは雷門イレブン達と一緒に戦ってくれたじゃない。私達、テレビの向こうでずっと応援してたんだから!」


白恋中サッカー部の女子は「むしろ、地球を守ってくれてありがとう!」とニコニコしながら言った。他の部員達も彼女と同様、曇りのない笑顔をこちらに向けている。
なんて、優しい子供達なんだろう。私はほっと胸を撫で下ろすと、「こちらこそ、ありがとう」とお礼の言葉を口にした。

ギイッと音を立てながら扉が開く。扉の外から肌を刺すような冷気が入り込み、私は思わず身震いした。やはり、この季節になっても北海道は超絶寒い。開かれた扉の向こうからひょっこり顔を出した吹雪は、私と目が合うとその表情をぱっと明るくさせた。


「いたいた。ユウナちゃん、謝罪行脚はもう終わったの?」

「……一応、破壊した学校の関係者や、怪我を負わせてしまった選手達には全員謝り終えたけど。」

「そっか!それなら、これから僕と一緒に雷門中へ行こうよ。」

「えっ、雷門中に?どうして、」


突然のことに驚き、そう尋ねると「それが僕もよくわからないんだけど、」と吹雪は困った笑みを浮かべて言った。


「さっき響木さんから電話があって、明日雷門中へ来るよう言われたんだ。それで、もし白恋中にユウナちゃんが来ているなら、キミも一緒に連れてきてくれって頼まれてね。
お日さま園にも連絡したみたいなんだけど、ユウナちゃん暫く留守にしてたでしょ?」

「ああ、なるほどね。でも、響木さんから呼び出しかぁ。私達に一体何の用だろ…。」

「うーん、なんだろねぇ…。」


顎に指を添えて考える。しかし、いくら考えてみても思い当たる節はなく、とりあえず私達は言われたとおり雷門中へ行ってみることにした。“案ずるより産むが易し”と言うしね。
それにしても明日だなんて、随分と急な話だな。北海道からだとかなり時間がかかるから、今夜中には出発しないとならない。大忙しだ。

有難くも白恋中サッカー部顧問の先生が車を出すと申し出てくれたので、そのお言葉に甘えて、私達は空港まで送ってもらうことになった。本当にここは優しい人達ばかりだ。
車の窓から顔を出し、見送りに来てくれた白恋中のみんなに手を振り返す。彼らの姿が見えなくなった頃、吹雪はニコニコしながら隣に座る私に言った。


「雷門中に行ったら、またキャプテン達と会えるかな。」

「きっと会えるよ。一緒に楽しくサッカーするっていう円堂との約束もまだ果たせていないしね。」

「そっか、楽しみだなぁ…。」


吹雪は本当に嬉しそうにそう呟く。そんな吹雪を見て、私もフッと笑みをこぼした。あの出来事からまだ数ヶ月しか立ってないのに、彼らと旅をしていたのがずいぶんと昔のように感じられる。
早く、みんなに会いたいな。そして、またあの胸が熱くなるようなサッカーがしたい。

これから何が始まるのかなんて知らない私達は、期待に胸を躍らせながら、雷門中へと歩を運んだ。



選ばれた者たち



「ふー、やっと着いた!」

「良かった。ギリギリ間に合ったね。」


途中で何度か迷いながらも、なんとか無事に雷門中へ辿り着いた私達は、休日にも関わらず賑やかな体育館へと足を向ける。きっと私達と同じく、響木さんに呼ばれたメンバーがそこにいるのだろう。
既に少しだけ開いていた扉から中を覗けば、そこには予想通り、円堂達が楽しそうに話に花を咲かせていた。


「わあ、懐かしい顔ぶれに……知らない人達もちらほらいるね。」

「ほんとだ。やっぱり、私達が最後なのかな…。」

「ああっ!吹雪、ユウナも!」


私達に気づいた円堂が、嬉しそうに声を上げて駆け寄ってくる。体育館にいた人達の視線が一斉に私達へと集まり、私は少し照れつつも円堂に笑顔で挨拶した。


「やあ、円堂。久しぶり!」

「元気そうだね、キャプテン。」

「なんだ、お前達も呼ばれてたんだな!」


そう言って、円堂はニカッと笑う。相変わらず、太陽に負けないほど眩しい笑顔だ。「ほらほら入ってこいよ!」と円堂に招かれて、私達は体育館の中へと足を踏み入れた。

体育館内を改めて見渡せば、そこには本当にいろいろな学校の子供達がいて、一緒に旅をした立向居や綱海、小暮に、木戸川清州の武方勝。それから、沖縄で出会った土方もいた。
そして、男子に比べれば少ないけれど、女子もちらほら立っていて……浦部や財前、大海原中の喜屋武。それから、あの青と白のロングヘアは……、


「えっ、玲名?!」

「遅い。一体どれだけ待たせるんだ。こいつと二人で待つことになるなんて、ここは地獄かと思ったぞ。」

「酷いな。玲名が一人で寂しそうだったから、話し相手になってあげてたのに。」

「ふん、余計なお世話だ。」

「……驚いた、ヒロトまでいる。」


玲名の後ろから顔を出したヒロトは、目を丸くする私を見て、クスクス笑いながら「久しぶりだね」と言った。どうやら、この二人も響木さんに呼ばれてきたらしい。

本当にこれは何の集まりなんだろう。こんな豪華な顔ぶれを揃えたわけだし、何か大きなことが始まりそうな予感はするんだけど…。
そんなふうに考えていると、ガラガラッと扉が大きく音を立てて開かれた。視線をそちらへと向ければ、そこには私達をここに集めた張本人である響木さんが、雷門のマネージャーを引き連れて立っていた。


「みんな揃っているか。」

「監督!」


子供達がぞろぞろと響木さんのもとへ集まっていく。響木さんは子供達の顔を見渡すと、ニヤッと怪しげな笑みを浮かべる。そして、「いいか、よく聞け!」と声を張り上げて言った。


「お前達は日本代表候補の強化選手だ。」

「日本代表…?一体なんの、」

「今年からフットボールフロンティアの世界大会、フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIが開催される。少年サッカー世界一を決める大会だ。お前達はその代表候補に選ばれた。」

「世界…、」

「俺達が日本代表候補だって…!?」

「す、すっげー!」


まさか、自分達が日本代表候補に選ばれるとは。響木さんの話を聞き、わっと盛り上がる子供達。私はというと、あまりに急な話にいまいち実感が湧かないため、ぽかんとみんなを眺めていた。

世界と戦える喜びを顕にする者や、緊張や不安に顔を強張らせる者がいる中、響木さんは厳しめの口調で説明を続ける。
ここに集められた26人は、あくまで“候補”であると。そして、この中から17人に絞り込むため、今から各13人ずつの2チームに分かれ、二日後の日本代表選手選考試合に出てもらうと、そう彼は言った。


(たった17人しか選ばれないのか…。)


私は静かに周囲へと視線をやる。見渡す限り、強者揃いだ。円堂達だけじゃなく、今回はヒロトや玲名もいるわけだし、元セカンドランクの私が代表選手になれるんだろうかと不安になる。でも、


(ーーでも、私だって世界と戦いたい。みんなと一緒にサッカーがしたい…!)

 
ギュッと拳を握りしめる。私は胸をドキドキさせながら、チーム編成を発表する木野さんの声に耳を澄ませた。
それから、二日後。私達の日本代表をかけた運命の選考試合が行われたのだった。

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