「ヒロト、お前達を苦しめてすまなかった。」

「父さん…!」


ついに雷門イレブンがエイリア学園に勝利し、ヒロトとも和解した後、グラウンドに姿を現したお父さんーー吉良星二郎は眉尻を下げ、申し訳なさそうに頭を下げた。そして、彼は言った。自分はあのエイリア石に取り憑かれていたのだと。


「瞳子。お前の、……いや、お前のチームのおかげでようやくわかった。」

「お父さん…。」

「そう、ジェネシス計画そのものが間違っていたのだ…。」

「っ、」


それは本心なのであろう。お父さんは本当に反省している様子で、自分の今までの行為を否定した。しかし、お父さんのその言葉は地面に座り込み、未だ悔し涙を流しているウルビダの癇に障ってしまう。彼女はフラリと立ち上がると、恐ろしい剣幕でお父さんを睨みつけながら叫んだ。


「ふっざけるな…!これほど愛し、尽くしてきた私達を、よりによってあなたが否定するなぁ!!!」


激昂した彼女が、転がっていたサッカーボールを父さんに向かって勢いよく蹴り上げた。あまりにも突然のことに動くことのできない私達。そんな中で一人だけ、父さんを守るために身を挺した者がいた。


「っ!ぐあ……!」

「「「!?」」」


父さんの前に飛び出したヒロトは、強烈なボールを腹で受け止めると、そのまま地面に崩れ落ちた。


「っヒロト!」


はっとした私は、急いでヒロトのもとへ駆け寄る。ヒロトはお腹を抱え、その痛みに悶えていた。あんな威力の高いボールを受け止めたのだから当然だ。私は目に涙を溜めながら、彼の名前を何度も呼び続けた。
私の必死な呼びかけに、ヒロトがうっすら目を開く。そして、弱々しく私の名を呼び、「大丈夫だよ」と笑みを作るヒロトに、私は「何が大丈夫だよ、バカヒロト!」と涙声で怒鳴った。もう、ほんとにバカ。心配かけ過ぎだっての。

痛みに耐えながらも、なんとか起き上がろうとするヒロトに手を貸していると、ずっと黙って見ていたウルビダが、理解できないといった様子で口を開いた。


「……なぜだ、グラン。なぜ、止めたんだっ!そいつは私達の存在を否定したんだぞ!?そいつを信じて、戦ってきた私達の存在を…!
私達は全てをかけて戦ってきた。ただ強くなるために…!っ、それを今更間違っていた!?そんなことが許されるのか、グラン…!」


悲鳴にも似たウルビダの咎める声がグラウンド中に響き渡る。そんな彼女の瞳はとても不安げに揺れていた。グランはフラリと立ち上がり、そして静かに口を開く。


「……確かに、ウルビダの言うとおりかもしれない。お前の気持ちもわかる。」

「………。」


私達のお父さんは、とても許されないことをしてきた。私達のことをまるで道具のように扱い、この地球を侵略しようとした。それでも信じて着いてきたウルビダ達のことまでも、彼は否定した。
恨まれても仕方ない。ウルビダのように怒りをぶつけたくなる気持ちもわかる。……けど、ヒロトはそうしなかった。ヒロトも被害者だというのに、加害者の彼を、ヒロトは体を張って守り抜いた。

みんなの視線がヒロトへと一身に集まる。ヒロトはウルビダの気持ちも肯定した上で「でも、」と続けた。


「でも、それでもっ!この人は、俺の大事な父さんなんだ…!」

「「!」」


ヒロトのその言葉に、ウルビダとお父さんは目を見開く。ヒロトはゆっくり後ろを振り返ると、そこに立ち尽くすお父さんに視線を向けた。


「もちろん、本当の父さんじゃないことはわかってる。ヒロトって名前がずっと前に死んだ、父さんの本当の息子だってことも……うっ、」


ふらつくヒロトを慌てて支える。ヒロトは腹を抑えながら、切なくなるほど誠実な声で話し続けた。


「……それでも、構わなかった。父さんが、俺に本当のヒロトの姿を重ね合わせるだけでも…!」

「ヒロト…。」

「父さんが施設に来る日が楽しみでしょうがなかった。父さんの喜ぶ顔を見ているだけで、嬉しかった。」

「……。」


幼い頃、誰もいないブランコに座って、漕ぐこともせずにただじっと地面を見つめていたヒロトの姿を思い出す。彼はいつもあそこでお父さんが会いに来てくれるのを待っていた。いつ来てくれるのかなんて明確な時間はわからないのに。
それでも、大好きなお父さんに少しでも早く会いたかったから、あそこでずっと待ち続けていたんだ。


「例え存在を否定されようと、父さんがもう俺達のことを必要としなくなったとしても、それでも父さんは……俺にはたった一人の父さんなんだ。」

「……ヒロト、お前はそこまで私を…。私は間違っていた。私にはもうお前に父さんと呼んでもらえる資格などない。」


お父さんは地面に転がっていたボールを、ウルビダに向かって投げる。そして、両手を広げ、無防備に彼女の前へ飛び出した。


「さあ、打て。私に向かって打て、ウルビダ。こんなことで許してもらおうなどとは思っていない。だが、これで少しでもお前の気が治まるのなら。」

「……っ、」

「さあ、打て。」

「……うっ、うわああああ!」


荒々しい叫び声を上げ、ウルビダが足を後ろへ振り上げる。「ウルビダ!」円堂が彼女の名を呼び、止めに入ろうとするが……
ウルビダは再び膝をつき、ポロポロと涙をこぼしながら悲痛の声をもらした。


「………打てない。打てるわけ、ない…。だって、だって、あなたは…!私にとっても大切な父さんなんだっ!」


ウルビダのその言葉を聞き、お父さんは感慨に打たれる。ウルビダだけじゃない。ジェネシスのみんなが泣いていた。
エイリア学園のみんなはお父さんのことが大好きで、お父さんの喜ぶ顔が見たくて、今まで苦しみに耐えてきたんだ。ジェミニストームのみんなだって、私だって、お父さんのことを本当の父親のように思っていたんだから。

グラウンド中に子供達の泣き声が響き渡る。お父さんは地面に視線を向け、心の底から悔やんでいる様子で呟いた。


「私は人として恥ずかしい。こんなにも私を思ってくれる子供達を、単なる復讐の道具に…。」

「お父さん…。」

「話してもらえませんか、吉良さん。なぜ、ジェネシス計画などというものを企てたのか。どこで道を誤ってしまったのか。……巻き込んでしまったあの子達のためにも。」


いつの間に来たのか。鬼瓦刑事はお父さんのもとへ歩み寄り、事件の真相を尋ねる。子供達をじっと見つめていたお父さんは、やがて覚悟を決め、ぽつりぽつりと話し始めた。

ヒロトが話していたとおり、お父さんには“ヒロト”という息子がいたこと。彼はサッカー留学をした海外の地で謎の死を遂げ、その事件は事故死として処理されてしまったこと。
息子に何もしてやれなかった悔しさと、大事な息子を失った喪失感に生きる気力さえ失っていたとき、瞳子姉さんにお日さま園を勧められ、お日さま園の子供達の笑顔に、だんだんその心の傷も癒えていったこと。

そして、5年前ーー
富士山麓付近に謎の隕石が落下した。その隕石こそがエイリア石であり、お父さんは分析している内にその石の魅力に取り憑かれてしまったのだと言う。
『エイリア石さえあれば息子を奪った連中に復讐できる』。それまで心の奥底に押し殺していた復讐心が再び蘇り、お父さんはその恐るべきエナジーを使い、自分の思うがままに世界を支配することを思いついてしまった。

そうして、お父さんは私達に宇宙人を名乗らせ、ジェネシス計画を決行した。それが今回の事件の真相だった。



私のお日さま園



「……すまない。本当にすまなかった。私が愚かだった…!」

「お父さん、」


お父さんは石のように項垂れ、何度も謝罪の言葉を口にする。幼い頃は大きく見えたお父さんの身体が、今では前より小さく感じられた。


(……知らなかった。お父さんの息子のことも、お日さま園が作られた理由も、お父さんがこんなにも苦しんでいたことだって、私は何も…!)

「っ、」


お父さんから目を背け、ぐっと涙を堪える。それに気づいたヒロトが、私の背中を優しく撫でようとした。ーーそのときだった。

突然、建物が大きく揺れ出した。


「きゃっ、なに!?」

「地震か!?」

「いかん!建物が崩れるぞ…!」


揺れはおさまるどころか、どんどん大きくなっていく。もはや立っているのもやっとの状態だ。鬼瓦刑事がみんなに避難するよう呼びかける。降ってくる瓦礫によって逃げ道を塞がれてしまう前に、早くここから脱出しなければ…!

出口に向かって走り出す子供達の耳に、だんだん聞こえてきたエンジン音。そして、暗い出口の先から見えてきた二つのライトは、困惑した表情の私達を明るく照らした。


「みんな、早く乗るんだ!」

「古株さん!」


すごい速さでやってきたイナズマキャラバンは、私達の目の前で急ブレーキをかける。そして、運転席の窓から顔を出した古株さんは、とても焦った様子でそう叫んだ。
雷門もジェネシスのみんなも急いでキャラバンに乗りこむ。私とヒロトも乗り込もうとしたところで、ヒロトが座り込んだまま動かないお父さんに気がついた。


「父さん!」


ヒロトがお父さんのもとへ走り出す。円堂の呼ぶ声を無視して、私もその後を追いかけた。

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