『そうです!ジェネシスは最強であらねばならないのです…!』

「……そんな、」


2対3で再びジェネシスに勝ち越しを許してしまった。なんて、強烈なシュートなんだ。私を含め、雷門イレブンのみんなは唖然とした表情で、グラン達を見つめる。すると、急に彼らは自分の身体を抱きしめ、痛みに唸りだした。


「っ!?うっ……ああ!」

「くっ、うぅ…っ、」

「お、お前達…!」


青褪めた円堂がウルビダに手を伸ばす。しかし、彼女はその手を振り払った。きっと限界以上の力を出したことで、身体が悲鳴を上げているのだろう。ウルビダ達は苦しみながらも鋭い語勢で言った。


「っ、これくらい…!お父様のためなら!」

「そう…っ、父さんのため…!」

「う、ウルビダ…、グラン…。」


彼らの名を呼ぶ声が、頼りなく震えてしまう。不意に水をかけられたみたいだった。自分にとって何より大切だと思える家族が、目の前でこんなにも苦しみ悶えている。全てを壊してでも、お父さんの望みを叶えようとしている。
そんな現実を、私は信じたくなかった。今すぐにでも目を背けてしまいたかった。けど、ここで目をそらしてしまったら、今度こそ本当に大切な宝物を失ってしまうと思ったから。

私は身体を怒りで震わせながら、上階にいるお父さんーー吉良星二郎を睨みつけた。


「やっぱり、お父さんは間違ってるよ…。ジェネシスのみんなは、お日さま園のみんなは……っあなたの道具なんかじゃない!」

『ジュピター。雷門に負け、エイリア学園を裏切ったお前には理解できないでしょう。私の素晴らしい考えが。
グランにどうしてもと頼まれ、そこまで言うのならとお前のエイリア学園再加入を認めましたが、それすらも無下にするとは……全く愚かな人間です。お前はもっと利口であると思っていたのに。』

「っ、私だって、私だって…!お父さんはもっと人の気持ちを理解できる、優しい人だと思っていたのに…。」


ギュッとユニフォームの裾を握りしめる。私はグランが用意してくれた、あの部屋に集められた思い出の品々を脳裏に思い浮かべた。

楽しいこと、嬉しいこと、つらいこと、いろいろなことを共有しながら、お日さま園のみんなと生きてきた。みんなで助け合いながら生きてきたんだ、ずっと。
時には喧嘩もしたけれど、それも含めて幸せな思い出ばかりがお日さま園にはあった。


その場所を作り上げてくれたのは、親のいない私達を本当の子供のように愛してくれたのは、

他ならぬ、あなただったのに…!


「……っ私は絶対に負けない!そして、ジェネシスのみんなだけじゃなく、お父さんの心も変えてみせる!」

『ほう、できるものならやってみなさい。』


お父さんは、私の強い決意を嘲笑うようにそう応えた。そんなこと、絶対に不可能だって思ってるんだろう。お父さんは知らないんだ。エイリア石を超える力存在を。人の心が生み出す力の強さを。


「円堂!」

「遅い。……っ!?」


ウルビダのスライディングを、円堂が躱す。続いてグランが立ち塞がるが、円堂は視線を前に向けたまま、真横にいた私へとパスを出した。
「なに!?」と目を見張るグランを抜き去り、再び円堂のもとへボールを回す。そのままジェネシス側のゴールへと驀進する私達を追いかけながら、ウルビダとグランは信じられないといった表情を浮かべた。


「リミッターを解除した私達を躱すだと!?何が起こっている…!」

「まさか、これも…、」


「豪炎寺!」

「!」


円堂が豪炎寺へとパスを出す。しかし、ジェネシスも必死であり、滑り込んだゾーハンがボールを外へ向かって蹴り飛ばした。だが、


「このボールは絶対に繋ぐ…!」


ギリギリ間に合った吹雪が、豪炎寺へとパスを繋げる。そして、豪炎寺と吹雪の新必殺技『クロスファイア』がジェネシスのゴールを突き破った。これで、3対3。雷門はまたもジェネシスに追いついた。
豪炎寺と吹雪が拳を合わせる。「これはみんなでとった1点だね!」という吹雪の言葉に、雷門イレブン全員は大きく頷いた。仲間がいるから強くなれる、これが雷門のサッカーだった。


しかし、グラン達も諦めない。「最強なのはジェネシス」「父さんのサッカーだ!」そう叫び、次々と雷門イレブンを抜き去って行く。そして、あっという間にゴール前へと辿り着くと、彼らは再びあの『スペースペンギン』を打ち込んだ。
立向居は『ムゲン・ザ・ハンド』でボールを必死に抑え込む。恐ろしいほどの威力を持つ強烈なシュートだが、立向居は決して怯んだりなどしなかった。


「っ、止めてみせる…!もう1点も……っやるわけには、いかないんだ!!!」

「「「!?」」」


立向居はがっしり両手でボールを受け止めると、すぐさま綱海に投げ飛ばした。


「綱海さん!」

        「壁山!」

    「小暮くん!」

「緑川さん!」

        「財前!」

「一之瀬!」

         「鬼道!」

   「円堂!」


みんなで、たった一つのボールを繋いでいく。

パスの一つ一つにみんなの思いが感じられた。ここにいる人達だけじゃない。サッカーを愛する、みんなの思い。互いに仲間を思う心の力が、雷門イレブンをキラキラと輝かせているのだ。


(これが雷門の、みんなのサッカーだ!)


ゴール前までやってくると、円堂、豪炎寺、吹雪が目を合わせ、同時に頷く。そして、彼らは飛び上がり、みんなの思いが込められたボールを、全力で蹴り上げた。


「「「『ジ・アース』!!!」」」

「「「「うわあああ」」」」


「ーーグラン!」

「っ、」
 
 
他のジェネシスのメンバーは、円堂達の新必殺技の威力によって吹き飛ばされてしまったが、ウルビダとグランは最後の最後まで諦めなかった。二人だけでボールを蹴り返そうと、ゴール前に立ち塞がる。


「ぐっ、お父様の、ために…!」

「負ける、わけには……いかないっ!」

『止めるのです!なんとしてでも…!』


お父さんの焦った声が聞こえてくる。二人は、父親の思いにこたえるべく、必死にボールを蹴り返そうとした。


しかし、



《ゴーーーール!!!雷門逆転!勝ち越しだぁああ!!!》

「そ、そんな…!」


円堂達のシュートは威力を落とさないまま、彼らを吹き飛ばし、ゴールを決める。そして、そこで試合終了のホイッスルが鳴り響いた。結果は4対3で雷門の勝利。

ついに、雷門イレブンはエイリア学園を倒すことができたんだ。



私とエイリア学園



「っく、勝ちたかった…!お父様の、お父様のために…っ」


膝をついたウルビダの、涙の滴が地面を濡らす。グランは勝利を喜び合う雷門イレブンのもとへ歩み寄ると、とても落ち着いた声で円堂の名を呼んだ。
全員の視線がグランへと集まる。彼はまるで吹っ切れたように、穏やかな表情を浮かべて言った。


「仲間って、すごいんだね。」

「!そうさっ。ヒロトにもそのことがわかってもらえて嬉しいよ。」


円堂が差し出した手を、グランはしっかりと握り返す。二人が握手する姿を見て、雷門イレブンはみんな嬉しそうに笑った。あの瞳子姉さんでさえも口元が緩んでいる。漸く仲間の大切さが彼にも伝わったのだ。
私は静かに二人のもとへ近付く。すると、それに気づいたグランは目を細め、申し訳なさそうに言った。


「ジュピター。俺、ずっとジュピターの気持ちがわからなくて、傷つけるようなことばかりして、本当にごめん。……けど、やっとジュピターの気持ち、少しだけどわかった気がするよ。」

「…………はあ。全く、いい加減にしてよね?」

「え、」

「何度も言うけど、私の名前は緑川ユウナ!次また宇宙人ネームで呼んだら、『アストロブレイク』の刑だからね。わかった?“ヒロト”。」

「っ、うん。ありがとう、“ユウナ”。」


意地悪そうな笑みを浮かべてそう言うと、ヒロトは幸せそうに私の名前を呼んでくれた。

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