星の使徒グラウンドでは、既に地上最強チームと宇宙最強チームの試合が行われていた。これがエイリア学園との本当の最終決戦である。
しかし、試合開始早々グランの『流星ブレード』に先制点を奪われ、動揺する雷門イレブン達。さらに、豪炎寺や円堂の必殺シュートはジェネシスのGKネロにより、あっさりと止められてしまった。
必死のディフェンスでかろうじて追加点を防いではいるものの、雷門イレブンはなかなか点を奪うことができない。
苦戦する仲間達を見て、ついに覚醒した吹雪士郎が『ウルフレジェンド』でゴールを決め、続いて立向居も進化した『ムゲン・ザ・ハンドG2』でグランのシュートを止めたのだが……
「キミ達に崇高な考えの父さんを理解できるわけがない。我らジェネシスこそが最強なのだ…!」
「っ、ヒロト!」
グラン達の本気のシュート、『スーパーノヴァ』が決まり、雷門は再びジェネシスの逆転を許してしまった。それからジェネシスの猛攻に、防戦一方の雷門イレブン達。一体どうすれば、彼らの強烈な攻撃と鉄壁な守備を崩すことができるのだろうか。考えてもなかなか良い策が浮かばない。
そうして、ジェネシスが1点リードしたまま前半が終了。ハーフタイムも残りわずかとなった、そんな頃だった。
ーー星の使徒グラウンドにあるたった一つの扉が、大きな音を立ててゆっくりと開いた。
「遅くなってすまない。」
「「「「!」」」」
扉の先で揺れた若葉色に、円堂達だけでなくグランまでもが目を見開く。荒い呼吸のまま中へと入ってきたユウナに、すぐさま声をかけたのは綱海で、彼は「おっせーよ!」と笑みを浮かべながらユウナの頭を小突いた。それに続き、他のメンバー達も笑顔で彼女を迎え入れる。
「待ってたぜ!ユウナ!」
「ホンマに大遅刻やで。」
「元気そうで安心したよ。」
「連れ去られたときはどうなるかと思ったッス…。」
「早く着替えてこい。もうすぐ後半戦が始まるぞ。」
「……うん。心配かけて本当にごめん。少し出遅れちゃったけど、ここからは私もみんなと一緒に戦うよ。」
マネージャーの音無から手渡された雷門ユニフォームをギュッと握りしめ、ユウナは意を決したような面持ちでそう告げた。
吉良瞳子監督が、後半は土門の代わりに入るようユウナに指示を出す。雷門ユニフォームに着替えたユウナは、「後は頼んだぜ」と言う土門とハイタッチを交わし、グラウンドへと足を踏み入れた。そして、漸く顔に深い悲しみの色を浮かべたグランと視線を合わせる。
「……どうしたって、ジュピターとは敵同士になってしまうんだね。そんなに俺のことが嫌いかい?」
「グラン、違うよ。そうじゃない。私は、昔のみんなに戻ってほしいから戦うんだ。サッカーはこんなことに使う道具じゃない。父さんの考えは間違ってる…!」
「っ、父さんを否定することは許さない!例え、それがジュピターであろうと…!」
グランが目尻を険しく釣り上げ、声を荒らげる。やはり、グランはいつでもお父さんの『味方』。彼が自分を選んでくれることはないのだ、とユウナは内心自傷めいた笑みをこぼす。けれど、諦める気は更々なかった。
(それなら、サッカーで証明してみせよう。何を言っても駄目ならば、私は自分のプレイで、彼らの間違いを正してみせる…!)
「よし、これで全員揃ったな!みんなの力を合わせて、この試合絶対に勝つぞ!!」
「「「「おう!!!」」」」
円堂の掛け声に全力で応える雷門イレブン達。同時にホイッスルが鳴り響く。豪炎寺からのキックオフで後半戦がスタートした。すぐさまボールは円堂のもとへと渡るが、その先に立ち塞がったのはグランだった。
「キミに俺を抜くことはできない。」
「それはどうかな!」
「っ、なに!?」
円堂がフェイントをかけて、グランを抜き去る。前半とは動きが変わった雷門。次々と味方にパスを繋げ、ジェネシスにはボールを触れることすらさせない。
前半とは全く逆の展開に、グランは「バカな…!」と焦心する。ゴールに向かって走りながら、円堂は言った。
「俺には仲間がいる。ここまで一緒に戦ってきてくれた仲間がいる。新しく加わってくれた仲間がいる。いつも見守ってくれた、仲間が…!」
円堂の言う仲間には、途中で脱落してしまった者達や、元エイリア学園で最初の敵であったユウナも含まれている。これまでに一緒に戦ってくれた全ての仲間を思い浮かべながら、彼は一語一語力を込めて言った。
「俺達の強さは、そんな仲間達と共にあるんだ!!!」
鬼道とユウナが円堂に追いつく。三人は同時に地面を蹴りあげると、回転しながら高く飛んだ。空中でボールを中心に紫の三角形が作りだされる。そして、ユウナ達は全力でボールを蹴り落とした。
「「「『デスゾーン2』!」」」
「『時空の壁』ーーなにっ!?」
ボールはネロの『時空の壁』を突き破り、雷門側に追加点が入った。これでジェネシスと同点だ。手をたたき、歓声を上げる雷門イレブン達を見つめ、グランは信じられないといった様子で呟いた。
「ジェネシスが、2点も失うなんて…。」
「仲間がいれば、心のパワーは百倍にも千倍にもなる!」
「“人生意気に感ず”。…これが、私を変えてくれた雷門のサッカーだよ。」
円堂と私の言葉に、グランは微かに目を揺らす。けれど、彼はすぐさま首を振り、迷う心を振り払おうとした。
「っ、俺には父さんがいる…!父さんさえいれば、仲間など必要ない!!!」
グラン達が再び必殺シュート『スーパーノヴァ』を放つ。しかし、それは皆の思いを背負い、再び立ち上がった立向居の『ムゲン・ザ・ハンドG3』によって、止められてしまった。
更なる進化を遂げた立向居を目にし、士気を上げる雷門イレブン。対して、ジェネシスはこのままではまずい、と冷や汗を浮かべた。
ーーそんなときだ。吉良星二郎が、モニター越しに指示を出した。『リミッターを解除しなさい』と。
「父さん!そんなことをしたら、みんなが…っ、」
『怖気づいたのですか、グラン。あなたにはがっかりです。』
「……え、」
『ウルビダ。お前が指揮を取りなさい。』
「はい。お父様。」
「っ、父さん…!」
グランの声に耳を貸さず、無残にもモニター画面は消されてしまう。納得のいかないまま、それでも父さんの命に背くことなど考えられず、グランは憂鬱な気持ちのままポジションへと立った。
試合が再開されると、すぐさまウルビダは冷ややかな声色で言った。「リミッター解除」と。その合図で、ジェネシスのメンバーは自分の身体にあるスイッチを一斉に押す。
ジェネシスの不穏な空気に、一体なにをするつもりだ、と眉間にシワを寄せる雷門イレブン達。ユウナも不安げな表情で彼らを見つめた。
宇宙人との最後の戦い
ボールは円堂のもとにある。素早いドリブルで彼がウルビダを抜き去った、そのときだった。
「っ、そんな!?」
「動きが、見えない…!?」
くるりと向きを変えたウルビダが、一瞬で円堂からボールを奪いとる。そして、驚異のスピードで次々と雷門イレブンを抜かしていくジェネシスは、もはや人間の能力を超えているように思えた。これがリミッター解除だというのか。
動揺を隠しきれない雷門イレブンに、吉良星二郎は愉快げに言った。
『人間は身体を守るため、限界を超える力を出さないよう、無意識に力をセーブしている。では、その全てを出しきれるのだとしたら……?』
「「「「!?」」」」
そんなことをしたら、筋肉は悲鳴を上げ、身体がボロボロになってしまう。
吉良星二郎のその言葉に、瞳子監督は「今すぐやめさせて!」と訴える。けれど、吉良星二郎は首を横に振り、「そうさせたのは瞳子、お前なんだよ」と冷笑まじりに言った。
ウルビダ達はあっという間に雷門のゴール付近へ辿りつくと、その勢いのまま地面を蹴り上げた。
「お父様の望みは、私達の望み!これがジェネシス最強の必殺技…!」
「「「『スペースペンギン!!!』」」」
ウルビダ達の蹴ったシュートは、立向居の『ムゲン・ザ・ハンド』を破り、雷門のゴールに鋭く突き刺さった。
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