あれから、二日後。予告通り、帝国スタジアムにて、プロミネンスとダイヤモンドダストの混成チーム『ザ・カオス』と雷門イレブンの試合が行われた。
「宇宙最強のチームの挑戦を受けたこと、後悔させてやる。」
前回の試合で雷門と引き分けた際には、狼狽の色を隠せていなかったガゼルだったけれど、今では余裕の笑みを浮かべている。……なんだか、嫌な予感がするな。私は訝しげに彼を見つめながら、自分のポジションへと向かった。
今回は円堂がリベロに上がり、立向居がキーパーに入って初めての試合だ。不安は勿論あるけれど、今までとは違う、新しい雷門イレブンが見れることに少しワクワクしている自分がいた。
雷門イレブンだって、皆やる気満々の様子で、「こっちは地上最強のチームだ!例えどんな奴が相手でも絶対に負けるもんか」という円堂の発言に、彼らは揃って首を縦に振っていた。
ホイッスルが鳴り響く。試合は豪炎寺のキックオフで始まった。ボールは豪炎寺から、アフロディ、そして財前へと渡り、雷門は一気に上がっていく。まずは先制点だ…!
そう思っていたとき、向かいからやってきたドロルに、財前はいとも容易くボールを奪われてしまった。
「どういうことだよ、この前はかわせたのに…!」
財前はそう言って、悔しそうに唇を噛みしめる。ドロルはその勢いのまま、土門や壁山を抜いていく。前回戦ったあの日からそう何日も立っていないというのに、彼らのスピードは格段にアップしていて、その動きに雷門イレブンは誰一人ついていけない様子であった。
このままではまずい。すぐさま私もドロルの前に立ち塞がるが、いつの間にか上がっていたガゼルにパスが回ってしまう。ゴールはもう目の先だ。
「立向居!」と円堂が叫ぶ。立向居はまだ未完成である『ムゲン・ザ・ハンド』ではなく、『マジン・ザ・ハンド』を繰り出したが、ガゼルの『ノーザンインパクト』によって先制点を取られてしまった。
「これが我らの真の力。」
「エイリア学園最強のチーム、カオスの実力だ。」
ガゼルとバーンのその言葉に息を呑む。スピードならエイリア学園の誰にも負けなかったはずなのに。まさか、あんな簡単に抜かされてしまうなんて。
(やっぱり、セカンドランクの私では彼らに勝てないんだろうか…。)
いや、そんなことはない!と私は不安を消し飛ばすように、ブンブンと首を横に振った。
(“一念天に通ず”だ。私は絶対に諦めたりしない!)
豪炎寺からボールを貰い、再び走り出す。しかし、すぐさまクララとゴッカに囲まれてしまい、私はアフロディへとパスを回した。
今度はアフロディの向かいからネッパーがやってくる。彼は必殺技『ヘブンズタイム』でネッパーを通り抜けようとするが……、
「なっ!?」
「『ヘブンズタイム』が破られた…!?」
ネッパーはアフロディからボールを奪い、ヒートへとパスを回す。それは鬼道がうまくカットしたのだが、再びアフロディにボールが回ると、彼の『ヘブンズタイム』はまたも破られてしまった。
ネッパーが今度はバーンへとパスを繋げる。「まずい!」と誰かが叫んだ。ゴール前にいたバーンは、完全にフリーの状態であった。
「ジェネシスの称号は俺達にこそ相応しい!それを証明してやるぜ。『アトミックフレア』!!!」
「今度こそ…!マジン・ザ・ハン、うわあああっ…!」
「立向居っ!」
ゴールが決まる。相手の点が次々と入っていく。なんて一方的な試合なんだろうか。カオスの怒涛の攻めに手も足も出ない雷門イレブン達。
そうして、気がつけば10対0という、かなりの大差をつけられてしまっていた。
周りを見渡せば、雷門イレブン達は、悔しそうに顔を歪めている。皆、呼吸も荒いし、体力の消耗も激しいようだ。特に何度もシュートを受けている立向居はもう限界のようで、立っているのもやっとの様子だった。
どうにかしないと、このままじゃ…。額の汗を拭いながら、私は考える。どうしたら、カオスに勝てるか。私に何ができるのか。
カオスの勢いは止まらないまま、再びバーンがシュートを放った。今の立向居に必殺技を出す余裕はない。ついに覚悟を決めた円堂は、ゴール前へと飛び出し、新必殺技である『メガトンヘッド』でシュートボールをカットした。
「円堂!」
「円堂くん…っ」
しかし、まともにシュートを喰らい、倒れ込んでしまった円堂に、雷門イレブン達は顔を真っ青にする。慌てて円堂のもとへ駆け寄ると、彼はフラフラしつつも「大丈夫だ」と皆を安心させるように笑った。
「……よーし、俺達も負けてられないぜ!」
「これ以上、点はやらないッス!」
「お、俺だって…!」
そんなキャプテンを見て、雷門イレブンは再びやる気を取り戻す。綱海はドロルのパスをカットし、壁山は必殺技でヒートが蹴ったボールを弾き、小暮もネッパーからボールを奪い取る。
円堂のワンプレイで流れが変わったようだ。雷門イレブン達は固い守りで、カオスのシュートを尽く防いでいく。
しかし、守っているだけじゃ勝つことはできない。現に雷門もカオスにカットされ、なかなかボールを繋げることができずにいた。ディフェンスラインを下げているせいで、中盤が手薄になっているのだ。試合は再びカオスのものとなっていく。
「鬼道。これ以上、点を取られるわけにはいかない。私達も攻めに行こう!」
「だが、ここで円堂を上げては、せっかくの守りのリズムが崩れてしまう……っ、何かないのか。こいつらに付け入る隙は…!」
「付け入る、隙…。」
鬼道の言葉を復唱して、視線をバーン達に向ける。彼らに付け入る隙なんて、あるんだろうか…。
雷門イレブン対ザ・カオス【前編】
前半終了まで残り僅か。しかし、ペースは完全にカオスのものとなっている上、未だ得点は10対0。このまま、攻撃の糸口を見つけられずに終わってしまうのか。
ボールは現在、ネッパーのもとにある。
(とにかく、今はボールを止めなくちゃ…!)
私はネッパーの前に立ち塞がった。「こっちだ、ネッパー!」とドロルが声を上げる。しかし、そちらにパスを回すと思いきや、ネッパーがパスを出したのは反対側を走るヒートにだった。あれ、と首を傾げる。
今のは私を嵌めるための作戦だったのか。それとも、
「ネッパー!」
今度はリオーネが彼の名前を呼ぶ。しかし、ネッパーはリオーネではなく、バーラへとボールを回した。ドロルへ繋げるはずだったボンバも、ネッパーに名を呼ばれ、そちらへとパスを回す。
……ほうほう。なるほど、そういうことか。疑惑が確信へと変わる。口角を上げながら、私は小さな声で呟いた。
「付け入る隙、見ーつけた。」
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