エイリア学園に勝つために、円堂にはGKをやめてもらう。瞳子姉さんの唐突なその発言に、動揺を隠しきれない雷門イレブン達。しかし、鬼道だけは瞳子姉さんと同じ考えだったようで、彼は円堂にリベロになるよう提案した。

地上最強のサッカーチームになるには、自分達はもっと大胆に変わらなくてはならない。ダイヤモンドダストとの試合で、円堂が土壇場で繰り出したあのプレイーーあの技をマスターすれば、円堂は攻守に優れたリベロになれるはずだ。
鬼道の言葉を聞いた円堂は、ついに覚悟を決めたようで。とてもやる気の満ち溢れた瞳で彼は宣言した。


「俺、やるよ。勝つために、強くなるために変わる。リベロになる!」

(……私も、変わってみせる。)


円堂と違って声に出さず、私は心の内でそう呟く。ダイヤモンドダストとの試合後、別れ際にグランが見せた悲愴な表情が脳裏を過った。「また会いに来るから。」そう告げて、光の中へと消えていった彼は、私がエイリア学園の裏切り者で、今の私達は敵同士なのだとちっとも理解していないのだろう。
いや、もしかしたら、セカンドランクチームの私なんかが敵になったところで、どうせ大したことはできないだろうと思っているのかも。そうだとしたら、かなり悔しいな。

確かに今の私の力じゃ、グラン達には相手にされないだろう。鬼道の言うとおり、私ももっと大胆に変わらなくては。やっぱり、雷門イレブン達のように、私も新しい必殺技を習得すべきなのかもしれない。

円堂が推薦したことで立向居が代わりのGKとなり、円堂がリベロ、アフロディがFW、私がMFとして雷門イレブンに新たに加わることとなった。そして、嘗てない異色のチームがここに完成したのである。
わいわいと盛り上がる雷門イレブン達を遠目に眺めていると、輪の中心にいた円堂が突然こちらを振り返り、二カッと太陽に負けない眩しい笑顔を私に向けた。


「これからは仲間としてよろしくな!ユウナ!」

「……こちらこそ、よろしく。」


円堂のもとへ歩み寄り、手を差し出せば、彼は迷うことなくその手を握る。ーーこうして、私は雷門イレブンの仲間として迎え入れられたのだった。






「……なぜ、皆に黙っているんですか。」


次の日から新たな特訓が始まった。ドリブルやシュート練で自分の技を磨く者や、円堂と立向居の必殺技の手伝いをする者などがいる中、私はリフティングをしながら瞳子姉さんにそう尋ねる。
瞳子姉さんはチラッと私に目を向け、また視線をグラウンドへ戻すと、私にしか聞こえないほどの声量で言った。


「今はまだ言うべき時ではないからよ。」

「……。」


瞳子姉さんが何を考えているのか、私にはよくわからない。エイリア学園を倒したい、という気持ちは一緒だと思うけど。どうして瞳子姉さんは雷門イレブンにエイリア学園の正体を伝えないのか、それが私にはわからなかった。


「私は…、私のことを信じてくれた雷門イレブンには、本当のことを話したいです。」


エイリア学園の皆は宇宙人じゃない。エイリア石によって人工的に強化された人間なんだって、彼らに明かしたい。
それが嘗ての自分を否定することになるのだとしても構わなかった。敵であった私を仲間として迎え入れてくれた彼らだから信じられる。きっと彼らなら真実を知っても、私の大切な家族を救うために協力してくれるはずだ。

真剣にそう訴えると、私の思いが少しは通じたのか、瞳子姉さんは腕を組みなおし、ふっと息を吐いた。そして、「……いつか、話すわ」と言って、その長い睫毛を伏せる。ああ、やっぱり瞳子姉さんの考えていることはわからない。





新必殺技の特訓は、それから何日も続いた。円堂は漸くコツを掴んだようで、鬼道達の『皇帝ペンギン2号』を新必殺技で弾き返すことに成功。目金によってこのヘディング技は『メガトンヘッド』と名付けられ、チームの士気がさらに上がったところで、鬼道が円堂を呼び止めた。


「円堂、まだまだパワーアップを続けるぞ。」

「おう!なんでも来い!」

「よし、その意気だ。エイリア学園マスターランクチームに勝つには、俺達に限界があっては駄目だ。お前には緑川と一緒にもう一つ必殺技を覚えてもらう。」

「おう!なんでも……ん?必殺技って?」

「へ?私も??」


「フッ、鍵は帝国学園にある。」


まるで悪役みたいな笑みを浮かべた鬼道に、円堂と私は思わず顔を引きつらせる。一体、私達はどんな技を習得させられんだろうか。

そうして、不安半分、期待半分に私達は帝国学園へと向かうことになった。



求められる変化



「父さん、あのことなんだけど……明日、決行しようと思うんだ。」


「そうですか」という父さんの声はとても平常で落ち着いているのに対し、俺はどこか落ち着かない様子で、そのまま父さんの部屋を後にした。
この胸に込み上げてくる不安はなんなんだろう。ダイヤモンドダストと雷門イレブンが試合をしたあの日から、ずっと俺はらしくない。


「グランはやっぱり私の気持ち、全然わかってないね。」


「……わからないよ、ジュピター。どうして、敵同士だなんて言うんだ。」


ギュッと拳を握りしめる。幼い頃からずっと一緒にいた大切な家族であり、俺が想い続けているただ一人の女の子。彼女は、父さんやエイリア学園の皆を裏切り、俺達が倒すべき相手である雷門イレブンの仲間になってしまった。
なんで、どうして、と湧き上がる焦燥感。俺はジュピターの気持ちを、どうしても理解してあげることができなかった。

どんどん彼女が離れて行ってしまうような恐怖に襲われる。俺は自分に言い聞かせるように呟いた。


「……大丈夫。ジュピターはどこにも行ったりしない。俺はジュピターの望むものを叶えてあげられる。」


そしたら、きっとまた笑顔を見せてくれるはずだ。

ふと、あの日の別れ際に彼女が見せた笑顔を思い出した。彼女のその笑みはとても寂しげで、けれど迷いの見えない瞳を、まっすぐ俺に向けていた。

ジュピターの笑顔が好きだ。ぱっと花のように咲く笑顔はとても可愛らしくて、ずっと見ていたいとさえ思う。……けど、あの日の笑顔を、俺はどうしてかあまり好きになれなかった。

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