雷門対ダイヤモンドダストの後半戦が開始する。息詰まる攻防の中、ガゼル様の『ノーザンインパクト』がまたもや円堂の『正義の鉄拳』を粉砕した。これで、試合は1−2でダイヤモンドダストの勝ち越しだ。雷門側にこれ以上の失点は許されない。


「攻めるんだ!奴らにシュートチャンスを与えるな!」


鬼道有人のその言葉に、雷門イレブン達は「おう!」と声を揃えて返す。チームの心が一つになった今、彼らのプレイに迷いは一切感じられなかった。

私達ジェミニストームでは全く歯が立たなかったダイヤモンドダストを相手に、一歩も譲らない戦いを続ける雷門イレブン達。すごい…。これが今の彼らの力か。まさか、これほどまでに成長するなんて、出会った当時は想像もしていなかった。
手に汗がにじむ。見ているこちらまでハラハラするような、そんな気迫に満ちた試合の中で、ついに豪炎寺の『爆熱ストーム』がダイヤモンドダストのゴールを奪った。辺りから歓声があがる。

ああ、よかった。これでまた同点だ。喜ぶ雷門イレブン達を見ながら、私は無意識に胸を撫で下ろす。
その様子を見ていたガゼル様が、悔し気に歪ませていた顔から、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべたことを、私は知らずにいた。


試合が再開される。クララからガゼル様にボールが渡ると、そのまま雷門側のゴールへ向かうと思いきや。何故かガゼル様は視線を、ぼーっと突っ立っていた私に向け、その足元のボールを私の方へ蹴り飛ばした。


「「「「!?」」」」

「……え?」


さすがガゼル様なだけあってそのボールは、寸分の狂いもなく私の足にぶつかり、ぴたりと止まった。激しく心臓が鼓動し始める。一体どういうつもりなのか。
あからさまに動揺する私を見て、口元を緩ませたガゼル様は、血も凍るような冷たい声で言った。


「ジュピター、命令だ。雷門側のゴールにシュートを決めろ。」

「っ、」


頭の中が真っ白になった。ガゼル様は今、なんと言ったんだ…?
ざわ…と、どよめく選手達。周囲から痛いくらいの視線を感じる中、私はなんとか自分に置かれた状況を理解しようと必死だった。

シュートを決めろ、と確かにガゼル様はそう言ったな。ガゼル様は元上司だ。エイリア学園から追放された今の私は、彼の命令に従う理由はないはず。
雷門の味方するつもりはないが、今更エイリア学園のために動く気もなかった私は、彼の命令を無視してしまおうかと考えた。しかし、ガゼル様は私のそんな考えも読んでいたようだった。


「命令に従えば、貴様をまたエイリア学園の仲間として迎えてやろう。」

「!」

「逆に従わなければ、エイリア学園は貴様を完全に裏切り者と見なす。……フッ、気づいているかい?この試合、グラン達も見に来ているんだ。」


ガゼル様がある方向に視線を投げる。その視線を辿れば、そこには彼の言う通り、グラン様とバーン様の姿があった。バチっとグラン様と目が合う。瞬間、胸に鋭い刃が刺さったような痛みが襲った。

彼に見られている。
嫌われたくない。捨てられたくない。


(シュートを、決めないと…!)


身体の向きを、雷門側のゴールの方へと変える。ゴール前に立っている円堂守は、目を大きく見開き、「ジュピター、なんで…!」と沈痛な言葉を漏らした。全く、どうしてお前がそんな顔をするんだ。
緊張していたため、妙にぎこちない笑みを作りながら私は言った。


「何をそんなに驚いている。元から私はお前達の敵だったはずだ。」

「確かに始めはそうだったかもしれない。けど…!一緒に旅をしていて気づいたんだ。お前は、そんな悪い奴じゃないって!」

「……フン、それこそ勘違いだ。」


円堂守は何もわかってない。私は弱くて、卑怯な人間なんだ。

お父さんの計画がいけないことだとわかっていたのに、エイリア学園の皆に嫌われるのが怖くて、お父さんの命に従ってしまった。そして、家族が幸せならそれでいい、それ以外の人間ならどうなろうと構わない、なんて自分勝手な考えで次々と学校を破壊し、多くの人間を傷つけた。
結局、雷門に敗北した私はエイリア学園から追放されて、なにもかもを失って、もうどうでもいいやって自暴自棄になってたわけだけど…。
雷門の急速な成長に、この子達ならもしかしたらエイリア学園を倒してくれるんじゃないか、なんて中途半端に期待して、今だって心を揺らがしている。

…ああ、思えば思うほど最低な奴じゃないか、私は。


ゴールへ向かって走り出す。サッカーボールを蹴るのは随分久しぶりのような気がした。雷門に負けた日以来だったか。正直、私のシュートでは今の円堂守からゴールを奪える気がしない。けれど、蹴らなくちゃいけないんだ。グラン様が見ている。

ゴール前まで辿り着き、顔を悲しげに曇らせた円堂守と対面した私は、言いようのない罪悪感に胸が痛んだ。結局、私はまた自分勝手な理由で誰かを傷つけようとしている。
雷門のみんなはいい子ばかりで、敵である私なんかにも優しく接してくれていたのに、そんな子達を私は…。

それでも、どうしようもないんだと拳を震わせる。エイリア学園ができてから諦めてばかりの私は、何かに逆らおうとする心さえも失ってしまったのかもしれない。


「ごめん。」


誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。私が蹴った『アストロブレイク』は、予想通り円堂守の『正義の鉄拳』によって止められてしまった。ああ、やっぱり彼はすごいな。あんなに必死で覚えた必殺シュートがこうも簡単に止められてしまうなんて。
少し悔しい気持ちもあったけど、仕方ないと自傷めいた笑みをこぼす。これで良かったんだ、これで…。

そんな私を見て、何故か円堂守は苦しげな顔で声を上げた。


「っ、ジュピター!お前がなにを考えているのか俺にはさっぱりわかんねーけど、こんな諦めたようなシュートじゃ、俺の『正義の鉄拳』を破ることはできないぞ…!」

「っ、」

「なんで、立ち向かおうとしないんだ。言ってたじゃないか!後悔ばかりしてるって。そんなんじゃお前、また後悔することになるぞ!?」


円堂守の言葉一つ一つに、頬がじわじわと熱くなるのを感じる。図星だった。彼の言う通り、きっと私はまた後悔することになるんだ。あのとき、こうしとけば良かったって。

諦めて、後悔して、また諦めて…。何度も繰り返して、私はなんでこうバカなんだろう。全然、学ばないじゃないか。いつになったら、後悔しない生き方ができるんだろう。いつになったら、前を向いて歩きだすことができるんだろう。


いつになったら、




「……いつになったら、じゃないよな。」


苦笑交じりにそう呟く。そういえば、円堂守が言ってたな。後悔は『後』にするものだと。それは至極当たり前のことで、けれど私には目から鱗が落ちるような話だった。

そう。後悔しないためには、『今』変わらなくちゃダメなんだ。


もう何かを諦めたくない。
後悔もしたくない。

だから、


「円堂守、雷門イレブンの皆……お願いだ。」



今度こそ、宝物を守るために



「私をキミ達の仲間に入れてくれ…!」

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