「豪炎寺くん、さっそくだけどFWを任せるわ。」

「はい。」

「それから、今回は立向居くんの代わりにジュピター、貴女にMFをやってもらいます。」

「「「「!」」」」

「っ、」


フットボールフロンティアスタジアムに到着して、すぐに瞳子姉さんの口から、今回の試合に出る選手の名前が発表された。しかし、その試合に出るメンバーの中に、何故かまたしても私が入っていて、そのことに次々と不満げな表情を見せる雷門イレブン達。……私だって同じ気持ちだ。
「彼女を試合に出すことに、なんのメリットがあるんですか?」と一之瀬一哉が質問したが、今回もちゃんとした答えを瞳子姉さんからもらうことはできなかった。


「あの監督のことだから、きっと何か考えがあるんだろう。」

「鬼道の言う通りだ!同じチームになったからには敵も味方も関係ない。みんなで勝ちにいこーぜ!」


キャプテン円堂守のその言葉に、雷門イレブン達は「おう!」と揃って声を上げる。それぞれのポジションに着く雷門イレブンにならい、私も自分の立ち位置へと向かえば、既にフィールドに立っていたガゼル様がフッと冷笑を浮かべた。


「まさか本当にエイリア学園と敵対するとはな。愚かな奴だ。今のキミの姿を見て、グランはどう思うかな…。」

「……。」


今の私の姿、か。


(雷門のユニフォームを身に纏い、雷門側のゴールを守るように立つ今の私は、エイリア学園の裏切り者以外の何者でもないんだろうな。)


それでも私は皆を裏切るつもりはないのだと、その意思を示すために、私は試合中この場から一歩も動かないことを決意した。

試合開始を知らせるホイッスルが鳴り響く。早く終われ、叶うなら雷門の勝利で終わってくれ。そんなことを密かに思いながら、私は雷門とダイヤモンドダストの試合を見守った。






「…また会えたね、円堂くん。」


ダイヤモンドダストの試合で苦戦する中、突如現れた謎の少年。長い髪にキレイな顔立ちのその少年は、雷門イレブンがフットボールフロンティア決勝で戦った世宇子中のキャプテン、名はアフロディというらしい。
より緊張感に満ちたグラウンドで、円堂守が「何をしに来たんだ」と真剣な表情で尋ねる。すると、彼は言った。「戦うために来たんだ」と。


「キミ達と共に、奴らを倒す。」

「っ、なに…!?」


動揺する雷門イレブン達。以前、敵として戦った相手に突然そんなことを言われても、そう簡単に信じることはできないだろう。
それは、アフロディ自身もわかっているようで、「疑うのも無理はない」と彼は低く落ち着いた声で言った。


「でも、信じてほしい。僕は神のアクアに頼るような愚かなことは、もう二度としない。僕はキミ達に敗れて学んだんだ。再び立ち上がることの大切さを。人は、倒れるたびに強くなれる。」


その瞳はまっすぐ前だけを向いていた。ハッとした豪炎寺と鬼道が円堂の名を呼ぶ。勿論あの人を疑うことを知らないような男が、彼の今の言葉を信じないはずもなく。
円堂守にも瞳子姉さんにも認めてもらえたアフロディは、雷門のユニフォームを着用し、試合中に負傷した浦部リカと交代する形でサッカーフィールドへと足を踏み入れた。


試合が再開され、再びゴールを目指して動き出した雷門イレブン達であったが、その何人かは元世宇子中のアフロディを本当に信じて良いのかわからないようで、なかなか彼へとボールを繋げることができないでいた。
彼は完全にフリー状態であるのに、マークの厳しい豪炎寺や一之瀬の方へとパスが回る。鬼道に言われて、壁山が出したパスもタイミングが合わず、外に出てしまう。

どうしたら、彼へとパスが通るのか。どうしたら、信用を得ることができるのか。

そんな時だった。事情は何も知らない。知っていても、そんなことは海の広さに比べればちっぽけなものだと豪語するであろう、綱海からのパスが彼へと通った。ついにアフロディの本領発揮である。
『ヘブンズタイム』を使い、ダイヤモンドダストの選手を一気に何人も抜かした彼は、豪炎寺との協力プレイでガゼル様までもを抜き去り、ゴール前へと立つ。そして、彼の必殺技『ゴッドノウズ』が、ダイヤモンドダストのゴールに突き刺さった。

アフロディと豪炎寺のハイタッチを見て、はっとする雷門イレブン達。円堂は言った。このユニフォームを着れば、気持ちは一つであると。昔は昔、今は今なのだと気づかされた雷門イレブンは、改めてアフロディを加えたこのチームで戦うことを決意した。


「眩しいな…。」


過去を清算し、再び走り出した彼らの姿は、何よりもキラキラ輝いて見える。


(私もあんな風に、堂々と胸を張って蹴りたいな、サッカーボール…。)


一つのボールを追いかけて、広いフィールドを駆けまわっていく雷門イレブンの姿が、幼い頃の私達の姿と重なる。思い出の中の皆はいつも笑ってボールを蹴っていた。ガゼル様だって、バーン様と競い合いながら、とても楽しそうだったのに。

今の彼らは…


「やっぱり、あの頃に戻りたい…。」

「なら、戦うしかないだろう。」

「!」


しまった。独り言のつもりが、どうやら聞かれていたらしい。突然後ろから聞こえた声にビクッと肩を揺らす。恐る恐る振り向けば、そこには鬼道と豪炎寺が立っていた。
なんで、こいつらが…と眉間に皺を寄せる私に、鬼道はゴーグルに隠れてわかりづらいが、とても真剣な表情で口を開いた。


「以前、お前は言っていたな。またみんなで楽しくサッカーがやりたいと。お前達、宇宙人の事情はよく知らないが、その楽しくサッカーがやりたいという気持ちは俺達と同じはずだ。だったら、戦うべき相手は俺達じゃない。そうだろう?」

「っ、」

「なにを苦しんでいるか知らないが、そこから前へ進まなければずっと苦しいままだぞ。」


鬼道に続いて、豪炎寺がそう私に言った。

わかってる…っわかってるよ、そんなこと。胸がズキズキと痛む。つらい。苦しい。悲しい。寂しい。息だってしづらいこの空間からさっさと逃げ出してしまいたくなる。こんなこと、もうやめてしまいたい。誰かを傷つけてしまうような、こんなこと…。
でも、そんなことしたら、私はもう彼らと共にいられなくなってしまうじゃないか。大切な仲間なんだ。大好きな家族なんだ。失いたくないんだよ。もうこれ以上…!


『全てを失った今、怖いもんなんてないだろ?』

『貴女はもうエイリア学園の仲間じゃないわ。』


「っ!……あ、」




私は、もう全て失っていた…?


先に失点してしまったガゼル様は、ついに本気になったようで、必殺技『ノーザンインパクト』でゴールを決める。1−1の同点のまま、鳴り響く前半終了のホイッスル。
選手達がそれぞれのベンチへ戻っていく中、円堂に後ろから肩を叩かれるまでずっと、私は青い顔をしながらその場に立ち尽くしていた。



失いたくなかったもの



「……互角ってのは恥ずかしいんじゃねぇの?」

「勝てるよね?円堂くんに。」

「くっ…、私は負けない。ダイヤモンドダストの名に懸けて…。」


バーンとグランに背を向けたガゼルは、拳をギュッと握りしめて言った。


「どんな手を使っても…!」

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