円堂守がついに最終奥義『正義の鉄拳』を完成させたその日、雷門イレブンの前に突如現れたのは、エイリア学園ファーストチームのイプシロンだった。しかも、彼らはただのイプシロンではなく、パワーアップを遂げた『イプシロン改』なのだという。
赤く染まった瞳を此方に向けたデザーム様は、雷門イレブンにサッカーの試合を申し込んだ。それはジェネシスの命令ではなく、イプシロン全員の意思らしい。試合を断れば、その辺の学校の一つや二つを破壊すると脅され、雷門イレブンは彼らと勝負せざるを得なくなった。

才能を見込まれた綱海条介が、目金に代わり、フィールドに立つ。吹雪士郎はDFからスタートのようだ。試合が始まり、いつものようにベンチから観戦していた私は、イプシロン改のそのスピードに目を見張った。パスもドリブルも以前より遥かに速くなっている。
しかし、雷門イレブンも負けてはいない。マキュア達の必殺技『ガイアブレイク』は円堂守の新必殺技『正義の鉄拳』によって止められた。一之瀬たちもボールを奪い、敵のゴール前まで繋げていく。イプシロン改と同じく、雷門イレブンもパワーアップしているのだ。

これなら、イプシロン改に勝てるかもしれない。そんな期待を寄せる中、雷門側のシュートはデザーム様の必殺技によって止められてしまった。
浦和リカのシュートも、前回イプシロンから点を奪った吹雪士郎の『エターナルブリザード』すらも…。


「俺は…!完璧にならなきゃならないんだ!!!」


何度シュートを蹴っても、全てデザーム様に止められてしまう。シュートを決めてこそ、ここにいる価値がある。完璧にならなきゃ意味がない。
そんな吹雪士郎の想いは届かず、あの『エターナルブリザード』を技もなしに軽々と片手でキャッチしたデザーム様は、「楽しみにしていたのに、この程度とはな」と残念そうな顔で言った。

「お前はもう必要ない」と。


その言葉を聞いた吹雪士郎は、ついに心が壊れてしまったのか。放心状態で地面に膝をついた。慌てて駆け寄った雷門イレブン達が彼の名前を何度も呼んだが、まるで反応がない。
隣りに座っていた木野さんが、「監督!」と真剣な顔で言った。


「これ以上無理をさせても、吹雪くんがまた…。」

「……。」


瞳子姉さんは木野さんの目を数秒見つめ返し、それから彼女の隣に座る私に視線をうつした。一体なんだ…?と、訝しげな表情を浮かべていると、瞳子姉さんは何か決意したような顔をして、選手交代の声を上げた。
今、控えの選手は目金しかいない。当然、吹雪と交代するのは彼だろうと誰しもが思っていたのだが…。


「吹雪くんに代わって、貴女が出なさい。」

「っ、」

「「「「ええ!?」」」」


瞳子姉さんが指名したのは、捕虜である私だった。


「……なにを、バカなことを。確かに私はエイリア学園から追放された身だが、お前達の仲間になった覚えはないぞ。」

「ええ。こちらも仲間にした覚えはないわ。けれど、これはエイリア学園に勝つため。使えるものは使わせてもらうわ。」

「私を試合に出したところで、エイリア学園には勝てない。」

「それはどうかしら。……早く行きなさい。捕虜のあなたに拒否権はないのよ。」

「……。」


瞳子姉さんに急かされ、私は納得のいかないまま、サッカーフィールドへと足を向ける。この指示に不満があるのはもちろん私だけではないようで、不信感を露わにした雷門イレブンの視線がグサグサ突き刺さってくるのを感じた。ああ、どうして私がこんな目に。
ポジションの位置に着いた私を見て、デザーム様は愉しそうに口を開いた。


「まさか、お前がエイリア学園と敵対するとはなぁ…。」

「っ、」

「これは楽しめそうだ。」


試合が再開するも、攻めの中心にいた吹雪士郎が交代したことにより、雷門は防戦一方。全く攻め手がないこの状況で、一応円堂守が全てのシュートを止めているものの、雷門イレブンにだんだん疲れが見え始める。攻めるより守る方が遥かに疲れるものなのだ。
疲労から単純ミスが増えていく雷門。やっとの思いで敵のゴールまでボールを運び、『バタフライドリーム』や『ツインブースト』を打つも、デザーム様に次々と止められてしまう。あの『ザ・フェニックス』でさえも…。


「お前は打たないのか、ジュピターよ。」

「……っ、私に戦う意思はありません。」

「…フンッ、つまらん。もはや、お前達のシュートに興味はない。」


デザーム様はそう言うと、自らボールをフィールドの外へと投げ出した。どうやら、デザーム様はFWのゼルとポジションをチェンジするようだ。彼の本来のポジションはFW、別に不思議な話ではない。
そして、デザーム様は円堂守に向けて言った。「正義の鉄拳を破るのは、この私だ。」と。

その宣言通り、デザーム様は次々と雷門の選手を抜かしていき、あっという間にゴール前へ辿り着くと、必殺技の『グングニル』で円堂守の『正義の鉄拳』を弾き飛ばした。


そして、ここで前半終了のホイッスルが鳴り響く。先制点を取られ、気落ちする雷門イレブンの後に続き、私もベンチの方へと戻っていった。

前半は一歩も動かず、なんの役にも立たなかった。後半はきっとベンチ行きになるだろう。そう考えていたのだが、それはどうやら甘かったようで、なぜか私は後半も試合に出るよう命じられた。


「ただでさえ点を取られて苦しい状況なのに、一体どうして…!」

「一緒に戦うつもりのない奴を試合に出す意味があるんですか?」


当然それに黙っていない雷門イレブン達。一之瀬や鬼道が理由を尋ねるが、瞳子姉さんは「それが必要だと思ったから、そう指示したまでよ。」と、納得のいく理由を教えてはくれなかった。

後半開始のホイッスルが鳴る。今のGKであるゼルがデザーム様より実力が劣るのであれば、まだ雷門側にもゴールチャンスがある。その鬼道の発言より、積極的にシュートを狙うことにした雷門イレブン。
しかし、前半より本気になったデザーム様は、ものすごいスピードで雷門の選手を蹴散らし、ゴール前までやってくると、また『グングニル』でゴールを狙った。

財前と壁山の必殺技も打ち砕かれ、円堂の『正義の鉄拳』も押し負けてしまう。綱海の体を張ったディフェンスで2点目は失わずに済んだものの、雷門中イレブンは満身創痍。
我が上司ながら、なんて恐ろしい人物だ。もうフィールドに立っているのは、イプシロン改の選手達と私だけだった。


「こんなものではないはずだ。立て、立って私を楽しませろ。」


デザーム様はそう言うが、こんなにも圧倒的な力の差を見せつけられて、まだ挫けずに立ち上がろうとする選手がいるのだろうか。これほどまでの絶望的な状況を切り抜けることができる、そんな選手が。

……いや、無理だ。やはり、ただの人間がエイリア学園に勝つなど不可能だったんだ。
そんな私の考えを否定するかのように、彼は立ち上がった。身体はもうボロボロだというのに。それでも、彼の瞳は変わらず、真っ直ぐ前だけを向いていた。


「俺は、あのとき誓ったんだ…。決して諦めないと…!」

「円堂守…。」


なんとか立ち上がった円堂守の前に、デザーム様の『グングリル』が迫っていく。駄目だ、また点を取られてしまう。そう誰もが思ったとき、円堂守は何かに気付いたかのように、はっと顔を上げた。


「そういうことだったのか、じいちゃん…!究極奥義が未完成っていうのは、完成しないってことじゃない。ライオンの子供が大きくなるように、常に進化し続けるってことだ!」


円堂守が必殺技の態勢に入った。ゴクリ、と固唾を呑む。そして、ついに彼のパワーアップした『正義の鉄拳』が、今まで一度も止められていなかったデザーム様の『グングリル』を打ち負かした。


「これが常に進化し続ける究極奥義『正義の鉄拳』だ!!!」



何度でも立ち上がる男



「楽しませてくれるなぁ…。だが、技が進化しようと、我らから点を取らん限りお前に勝ち目はない。」


デザーム様の言うとおり、このまま点を取れなければ彼らは負けてしまう。依然として不利な状況にいた雷門イレブン達。

そんなときだった。コロコロとフィールドの外へと転がったボールを、誰かがガシッと足で止めた。それは、橙色のフードを深めに被った少年で、少年はゆっくりと此方へ歩いてきた。皆の視線が彼に集中する。


「っ、あれは…!」


円堂守が息をのむ。立ち止まった少年は、自らそのフードを取り、正体を明かした。少年の顔を見た途端、雷門イレブンは溢れる喜びを隠せずに、声を揃えて彼の名前を呼んだ。

ーーその少年こそが、円堂達がずっと探していた炎のエースストライカー、豪炎寺修也であった。

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