グラン様とバーン様に会ったその次の日。阿夏遠島で出会ったサーフィンの人、綱海条介が雷門イレブンの前に突然現れて、「俺達のチームとサッカーしねぇか?」と試合を申し込んできた。
どうやら、彼はあれからサッカーをいたく気に入ったらしく、思い立ったが吉日とばかりに、ノリで彼が通う大海原中のサッカー部に入部したのだという。なんとも自由な男だ。

それから、監督の許可をなんとかもらい、大海原中と試合をすることになった雷門イレブン達。その試合結果は1−0でギリギリの勝利。大海原中はフットボールフロンティアの地区予選決勝までいっただけあって、なかなか手強いチームだったようだ。


そして、「ナイスなゲームの後はナイスなバーベキューでのってくぞー!」という大海原中の監督の発言より、雷門イレブンと大海原中サッカー部員達でバーベキューをすることになったわけだが……。
そんな気分になれなかった私は、誰よりも先にイナズマキャラバンへと戻っていた。静まりかえった車内では、外にいる子供達の楽しそうな声も微かにだが聞こえてくる。
それが、なんだかお日さま園の皆でキャンプしたときの思い出と重なって、胸がチクリと痛みだす。寂しくて泣いてしまいそうだ。

私はポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。藍色の筒のような形状をしたそれは、幼い頃に彼から貰った物である。筒の先にある覗き穴に目を当てれば、そこから見えるのは夜空に瞬くお星さま達だ。

あの頃からずっと変わらない、私達二人だけのお星さまーー


「あれ?ジュピターじゃないか。」


ビクッと肩を揺らす。突然近くから聞こえてきた声に、驚いて振り返ると、そこには目をぱちくりさせた円堂守が立っていた。
「なんだ、円堂守か」と胸を撫で下ろせば、彼は不思議そうな顔をし、「こんなところで何してるんだ?」と私に尋ねる。それはこっちの台詞だ。

「まだバーベキューの途中だろ」と聞けば、「タオルを取りに来たんだ!」と言って、円堂守は私が座る席の横を通り、自分の座席へと向かっていく。
さっさと取って、皆のところに戻ってほしい。そんな私の願いは叶わず、タオルを片手に戻ってきた円堂守は、何故か私の隣の席へと腰を下ろした。


「っ、おい!」

「なあ、それなんだ?望遠鏡?」


咎める声をスルーして、私の手元にある物を興味深く見つめる円堂守。どうやら先ほどまでの行動を見られていたようだ。「さっき何を覗いてたんだ?」と尋ねられ、わざわざ嘘をつく理由もないと思った私は、溜息交じりにそれの説明をした。


「これは万華鏡だ。」

「万華鏡…?」

「知らないのか。…ここを覗いてみろ。」

「うん?……っ!?おお、なんだこれ!スゲェ!」


言われた通り、覗き穴を覗いた円堂守は忽ち目を輝かせ、凄い凄いと声を上げる。「うまく言葉にできないけど、こうキラキラしてて!まるで宇宙を見ているみたいだ!」と絶賛されて、嬉しく思わないはずがなく。
私は誇らしげに「そうだろ?」と言って、彼から万華鏡を受け取った。


「これは大切な人から貰った、私の宝物なんだ。」

「へえ!そうだったのか。」

「……もう、今の私にはこれしか残っていない。他は全て壊れてしまったんだ。宝物はもっとたくさんあったはずなのに、な。」


万華鏡を優しい手つきで撫でる。“有為転変は世の習い”というけれど、それでも悔しくて、悲しくて。やり場のない後悔が、私の心を引き裂くようだった。
こんなこと、円堂守に話したって仕方ないのに、別にどうにかなるわけでもないのに。なぜか彼に話を聞いてほしくなった私は、ぽつりぽつりとまるで独り言を呟くように、自分の想いをこぼした。


「もしも、あのとき諦めたりしなければ、未来は変わっていたんだろうか。私にもっと力があれば、宝物を壊さずに済んだんだろうか。……ずっと、そればかりを考えてしまう。過ぎてしまった時間は、もう二度と戻らないというのに。」


あのとき、お父さんを説得できていたら。お日さま園の子供達を計画から外せていたら。エイリア石の力に負けたりしなければ。グラン様の名前を、変わらず『ヒロト』と呼べていたら。

今もあの頃と変わらず、皆で笑いあえていたのかな。


「……ああ、情けないな。後悔ばかりだ。」


今更『もしも』の話をしたって意味がないのに。最近つらいことばかりだったから、つい弱音を吐きたくなってしまったんだと思う。
そして、泣きそうな顔で笑う私に、ずっと黙って話を聞いていた円堂守は、「事情はよくわかんないけど、」と頬をかきながら言った。


「その壊れた宝物ってさ。もう二度となおせないものなのか?」

「え…?」


円堂守の問いかけに、目を丸くする。彼は真っ直ぐな瞳に私を映すと、「だって、」と話を続けた。


「後悔って、終わった後にするもんだろ?まだ少しでも可能性が残ってるんだとしたら、後悔するのはまだ早いんじゃないかな。」

「……!」

「俺は風丸達がまたチームに帰ってくるって信じてる!だから、もう俺は迷わない。エイリア学園に勝って、大好きなサッカーを取り戻す!そのためにはまず、究極奥義『正義の鉄拳』を覚えなきゃならない。明日から、綱海とサーフィンの特訓だ!」

(……なんで、サーフィンなんだ。)


心の中でぽつりと呟く。キーパー技を覚えるために、どうしてサーフィンをするのかは謎だが、どうやら円堂守は本気のようなので、深く聞かないでおこう。

そんな話をしていたら、結構な時間が経っていたらしい。時計を見て、はっとした円堂守は「ああっ!そろそろ行かないと、肉がなくなる!」と言って、慌てて席から立ち上がった。
そして、「ジュピターは食べに行かないのか?」と首を傾げる彼に、少し考えてから、私も腰を浮かせた。そういえば、なんだかお腹が空いてきたような気がする。

「早く行こーぜ!」と駆けるようにキャラバンを降りていく円堂守に続いて、私もゆっくり降車する。その途中で、持っていた万華鏡をポケットの中へと大事にしまった。


「…後悔するのはまだ早い、か。」



壊れてしまった宝物



私の食べる分はちゃんと木野さんが残しておいてくれていたらしい。たくさんの子供達とするバーベキューは、やはり楽しかったあの頃を思い出させたけれど、不思議とさっきほど胸は痛くならなかった。

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