次の日、無事に沖縄行きの船に乗ることができた私達は、予定より1日遅れで沖縄へと上陸した。どうやら、ここで噂の『炎のストライカー』とやらを探すらしい。
なんでも、その『炎のストライカー』とやらは彼らが探している仲間の豪炎寺修也の可能性があるとかで、雷門中の子供達は特に張り切って、噂の人物の捜索を開始した。

と言っても、今のところ目ぼしい情報は得られていないため、この広い土地で地道に聞き込み調査を行うしかないのだが。


「…なんで、私まで探さなきゃいけないんだ。」

「ま、まあまあ。」

「監督に、あんたから目を離さないよう言われてるんだよ。一応捕虜なんだろ、あんた。」


一緒に行動することになった木野さんと、総理大臣の娘である財前塔子は、私を挟む形で繁華街を歩く。
私が逃げる恐れを回避したいのなら、もう少し足が速いやつとか、力のあるやつと行動させるべきだろうに、なぜこの女子二人なのか。もしや、私は舐められているのではないだろうか…?

そんなことを考えつつも、財前塔子の『一応捕虜』という言葉に引っ掛かりを覚えた私は、「どういう意味だ」と尋ねた。


「だって全然、捕虜っぽくないじゃん。マネージャーの女子達とも仲良いし、なんか普通に馴染んでるしさ。」

「見た目も普通の女の子みたいだし、思ったより話しやすかったからかな。時々、ジュピターさんが宇宙人だってこと、忘れちゃうのよね。」

「……。」


木野さんの言葉に財前塔子もうんうん、と首を縦に振る。どうやら、本当に私は舐められていたようだ。ぐっと眉間にしわを寄せる。こんなに頑張って宇宙人らしく振舞っていたのに、全く意味を成していなかったということか。

しかし、宇宙人であることを忘れてしまう、という彼女達の気持ちは、正直私も同感せざるを得なかった。
雷門の子供達と一緒にいると、時々自分が何者なのかわからなくなる。これまでやってきた悪逆非道な行いを忘れてしまいそうになる。そんなの、許されないことだというのに。


「私は、宇宙人だ。君たちの仲間を、多くの人間を傷つけた。」

「「……。」」

「だから、私はお前達の仲間にはなれない。そんな資格など、私にはない。」

「……でも、貴女はもうエイリア学園の仲間じゃないわ。学校を破壊したり、誰かを傷つけたりする必要はもうないでしょう?」

「……っ。」


木野さんがまっすぐな瞳を私に向ける。それは吹雪士郎が病院に運ばれたあの日、彼女が瞳子姉さんに向けたものとよく似ていた。目が反らせない。

唇を震わせ、何か言おうと口を開いたそのとき、「おーい!」とこちらに向かって叫ぶ声が聞こえてきた。円堂守だ。なんて、グッドタイミング。
彼は手をぶんぶん振りながら、私達のもとまで駆けてくると、「こんなところにいたのか!」と沖縄の太陽に負けない笑顔を見せた。


「どうしたの、円堂くん。」

「もしかして、『炎のストライカー』のこと何かわかったのか?」

「ん、いや?でも、スゲエ奴を見つけたんだ!ちょっと、一緒に来てくれよ。」


どうやら、『炎のストライカー』については特に何か進展したわけでもなさそうだ。しかし、彼が見つけたという『スゲエ奴』とは一体誰のことなんだろうか。
目を合わせ、揃って首を横に傾げた木野さん達だったが、「こっちこっち!」と走り出す円堂守にとりあえず着いて行ってみることにした。







「よろしくな!雷門イレブン!」


なぜか割烹着姿のその男は、土方雷電と名乗った。彼が円堂守の言っていた『スゲエ奴』らしい。
彼は雷門メンバーが捜していた『炎のストライカー』ではなかったものの、すごいディフェンス技を持っているようで、円堂守は彼をぜひ自分達のチームに入れたいという。

しかし、土方は「そいつはできない相談だ」と申し訳なさそうに、円堂の勧誘を断った。


「さっき見たろ?俺には兄弟がいっぱいいる。あいつらの面倒を見なきゃいけねぇんだ。……だけど、もしここが襲われたら俺は戦うぜ!」

「だから、さっき力を貸すって言ったのか…。」


土方の想いを知り、円堂はパッと表情を明るくした。


「お前の強さの秘密は、守りたいものがいーっぱいあるからだったんだな!」

「っ、」

「フッ、皆だってそうだろ?」


(守りたいもの、か…。)


もちろん、私にだって守りたいものはいっぱいある。結局何一つ守れないまま、私は逃げ出してしまったのだけれど。

拳をギュッと握る。彼が言うように、守りたい気持ちが人を強くするのだとしたら、どうして私はお父さんの計画を止められなかったんだろうか。ジェミニストームの皆を守れなかったんだろうか。
守りたいという気持ちは人一倍あったつもりだった。けれど、その気持ちが足りていなかったんだろうか。それとも、ずっと諦めないでお父さんのやり方を否定し続けていたら、未来は変わっていたんだろうか。

最初の試合であんなボロボロに負けていた雷門イレブンは、私達ジェミニストームに勝利し、イプシロンとも引き分けるほどに成長した。私も諦めさえしなければ、お父さんやお日さま園の皆を……、


「おーい!」

「『炎のストライカー』見つけたぜ!」

「えっ!?」


吹雪士郎と土門飛鳥が石の階段を上って、此方へと駆けてくる。『炎のストライカー』が見つかったという言葉に、雷門メンバーは期待の目をそちらに向けたが、二人の後ろから顔を出したのは探していた人物、豪炎寺修也ではなかった。

同じ赤でもグラン様のものとは違い、深みのある赤髪。切れ長の目に、特徴的な舌睫毛。サッカーボールを片手に持ったその男は、ニッと口角を上げて言った。


「俺は南雲晴也。お前がキャプテンの円堂だろ?よろしくな。」

「…っ!」


(バーン、様…!?)


思わず声を上げそうになったが、ギリギリのところでどうにか押し黙る。私の存在に気が付いたバーン様が『何も言うんじゃねぇぞ?』とアイコンタクトをとってきたのだ。
元上司である彼の命令に背くことができなかった私は、誰にも気づかれないよう小さく頷き、離れた場所から彼らを傍観することにした。



私の守りたいもの

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