風丸一朗太や栗松鉄平がイナズマキャラバンを去った後、円堂守は彼らが悩んでいることに気づけなかった己自身を責め立てた。
そして、「今の自分はサッカーと正面から向き合えない」と言って、完全に塞ぎ込んでしまった円堂守を、心配する他の雷門メンバーもあまり調子が乗らないようで。練習に身が入らない。
こんな調子では、エイリア学園を倒すなど“連木で腹を切る”ようなものだなと思いながら、私は彼らを傍観していた。

それから、まあ…いろいろとあって。瞳子姉さんが円堂守をキャプテンから外そうとしたり、マネージャー達が円堂守に渇を入れに行ったりとかして。
最終的には、諦めずに練習を重ね、ついに『マジン・ザ・ハンド』を習得した立向居勇気を見て、円堂守は本来の自分を取り戻したようだ。

こうして、円堂守の復活により再び心を一つにした雷門メンバーは、退院した吹雪士郎と共に、今度は『炎のストライカー』と呼ばれる選手がいるという沖縄へと向かうことになった。


だが、

乗船中にメガネの男が海に落ちるというアクシデントが起こり(彼は無事サーフィンの人に助けられたが)、私達はそこから一番近かった阿夏遠島で降りることになってしまった。
しかも、どうやらその船は1日に1便しかでていないようで、次の船が来るのは明日になってしまうという。まさに“八方塞がり”とはこのことか。

私達は、先に沖縄に行っている瞳子姉さんに連絡して、今日のところはこの島に泊まることとなった。


「ふーん、砂浜で練習か。やる気だけは一人前だな。」


究極奥義『正義の鉄拳』を覚えるために特訓を重ねる円堂守や、それに付き合う仲間達を少し離れた場所から眺める。「やる気さえあればそこがフィールドだ!」という円堂守の言葉通り、例え砂浜であっても構わずサッカーをプレイする子供達。
本当に元気な奴らだなと感心していると、「あのー」とマネージャーの音無さんが、私の機嫌を伺いながら慎重に声をかけてきた。


「喉、乾いてないですか?これ、普通のスポドリなんですけど、良かったら…!」

「……ああ、ありがとう。ちょうど、喉が渇いていたんだ。」

「やっぱり、ここ暑いですもんね!」


そう言って、額を流れる汗をタオルで拭いながら、音無さんはにぱっと人好きのする笑みを浮かべた。敵の私にまで親切にしてくれるなんて、雷門の子供達は本当にいい子が多いな。
彼女から受け取ったスポドリは、ひんやり冷たくて気持ちがいい。すぐにキャップを開けてゴクゴクと口に流し込めば、喉の渇きがだいぶ癒えたように感じた。

それから、何故か私の隣に腰を下ろした音無さんは、練習する雷門メンバー達を眺めながら会話を続けてきた。まあ、私もやることがなく、かなり暇だったからな。適当に彼女のお喋りに付き合ってやることにした。暇だったからな。


「あの綱海さんって人、すごい身体能力ですよね!あれでサッカーするの初めてだなんて、ビックリしちゃいました。」

「へえ…。綱海、っていうのか。あのサーフィンの人。」

「あっ!ジュピターさん、今の見ました?!ついに『バタフライドリーム』が決まりましたよ!」

「ああ、なかなか良いシュート技だな。初めて見た。」


テンションの違いはあったけれども、思っていたより二人の会話は長く続き、気が付けば辺りは夕焼け色に染まっていた。多分、音無さんもそれなりに暇だったんだろうな。
「夕方の海って、何だかロマンチックで良いですよねー!」「夕方もいいけど、私は夜の海が好きだ。」「あっ!それ、わかります…!」なんて会話をしていたら、練習を終えた雷門メンバーがかなり驚いた表情をしていた。うーん、ちょっと敵と親しくなりすぎただろうか…?

さすがにこれ以上はまずいと思った私は、「夕食後に皆でトランプしませんか?」という音無さんの誘いを断り、誰よりも早く寝床についたのだった。



線引きはしっかりと



「面白かったか?グラン。」

「…なんのことだい?」

「はっ、とぼけちゃってよぉ…。」


暗い空間で、真っ赤なライトを浴びたバーンが薄笑いを浮かべる。彼に続けて、今度はガゼルが抑揚のない声で言った。


「雷門とやりあったみたいだね。ザ・ジェネシスの名のもとに。」

「ああ、あれはただのお遊びさ。興味深いと思わないか?雷門イレブン…、特に円堂守!彼は面白い。」

「けど、それだけが目的じゃなかったんだろ?」

「キミ、ジュピターに会ったんだってね。」

「……。」


ずっと余裕の表情を浮かべていたグランだったが、ガゼルのその言葉に口角が下がる。昔からそうだった。普段は飄々としているグランも、彼女に関することだけは誰よりも素直で、感情が揺れやすい。
グランのその反応を見たバーンとガゼルは、フッと揃って笑みを浮かべた。


「相変わらず、彼女に首ったけだね。」

「フンッ…。どうせ父さんに頼んで、ジュピターを自分達のチームに入れてもらうつもりなんだろうよ。」

「……それは違うよ。」


グランはバーンの言葉を否定した。


「俺はジュピターの笑顔が見たいんだ。」


あの日、泣いていたジュピターのことを思い出す。彼女は言った。『もう、あんな酷いことを私達にさせないで』と。彼女は、ザ・ジェネシスの称号が欲しいわけでも、父さんの計画を手伝いたいわけでもなかったのだ。
グランは彼女の苦痛に気づいてやれなかったことを、ずっと後悔していた。もう二度とジュピターの悲しむ顔を見たくない。一人で抱え込まないでほしい。今度こそ間違えず、自分は君の味方なんだと伝えたい。

だから、


「ジュピターの望みは、俺が叶えてみせる…!」

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