雷門が負けた。もう、それは目も当てられないほどの惨敗だった。

私達ジェミニストームやイプシロンとは比較にならない、ザ・ジェネシスの圧倒的な強さを目の前に、為す術もない雷門イレブン達。
そして、試合中に無理をして倒れた吹雪士郎は、救急車で病院へと運ばれていった。倒れるまでの試合中、彼はまるで人が変わったように怖い顔をしていたが、何かあったんだろうか。

吹雪士郎が倒れたことにより、試合はそこで中断された。「ウォーミングアップにもならなかったな」と言い残し、ジェネシスのメンバーが次々と去っていく中で、グラン様だけが私の元へとまっすぐ歩いてくる。
一体何の用だろうか。警戒する私に、グラン様は真剣な表情で言った。


「また会いに来るよ。大丈夫、必ず俺が父さん達を説得してみせるから。」

「…説得?グラン様、一体なにを、」

「それじゃあね、ジュピター。」


グラン様はフッと笑うと、あっという間に黒い霧の中へ消えていった。説得とは何のことだろうか。グラン様の言葉を気にしつつも、瞳子姉さんに呼ばれたため、私はその場を後にした。

どうやら、これから吹雪士郎が運ばれた病院へ向かうようだ。元凶がエイリア学園であるというのに、元エイリア学園の者である私が見舞いになんて行って良いのかわからない。しかし、捕虜の私に拒否権などないからな。


病院へと向かう間の車内は、これまでで一番空気が悪いように感じられた。






幸いにも、吹雪士郎の容体はそこまで重いものではなかった。しかし、雷門中の子供達は酷く落ち込んでいる様子で、誰もが自分のせいで吹雪が倒れたのだと、己自身を責めたてた。吹雪士郎がこうなる前兆はあったのだという。

以前から彼はどこか様子がおかしかったという音無さんに、円堂守も同意した。そして、「監督はなにか知っているんじゃないですか」と鬼道が尋ねれば、瞳子姉さんは少し躊躇した後、ぽつりぽつりと話し始めた。


吹雪士郎にはアツヤという弟がいたこと。幼い頃、雪崩に巻き込まれて両親と弟を失っていたこと。それから、吹雪士郎の中にアツヤの人格が生まれたこと。彼のエターナルブリザードは弟アツヤの必殺技であること。

瞳子姉さんの話を聞き終え、唖然とする子供達。二つの人格を使い分けるなんて、そんなことが可能なのか、と誰かが尋ねた。
すると、瞳子姉さんは「難しいでしょうね。だから、吹雪くんはエイリア学園との過酷な戦いで、その微妙な心のバランスが崩れてしまったのかもしれない」と、淡々とした口調で答えた。まるで他人事のように。


「っ、だったら…!どうして吹雪くんをチームに入れたんですか!?」


そんな素っ気ない態度の瞳子姉さんに、怒りの声を上げたのは、予想外にも温和なイメージのある木野さんだった。


「だって監督は知ってたんですよね、吹雪くんの過去に何があったのかを…!だったら、今日みたいなことが起こるかもしれないってこと、わかってたはずじゃないですか!?」

「っ、」

「なのに、どうして吹雪くんを!……エイリア学園に勝つためですか?エイリア学園に勝てれば、吹雪くんがどうなっても良いんですか!?」


声を震わせながらそう叫ぶ木野さんを、隣にいた一之瀬一哉が「言い過ぎだ」と止めに入る。木野さんは「だって…!」と言いつつも、少し言い過ぎた自覚があったのか。握っていた拳をゆっくり解いた。
それから、病室内に暫しの沈黙が流れる。またしても最高に悪い空気の中で、戸惑いを浮かべていた瞳子姉さんは、やがて何かを決意したような顔をして言った。

「それが私の使命です」と。それだけ言い残して、彼女は病室から出て行った。


(瞳子姉さん…。そのやり方は、お父さんと何も変わらないよ。)


チームを強くするために手段を択ばない。そんなお父さんのやり方が間違っているというのなら、それと同じことを貴女がしていては駄目じゃないのか。ねえ、どうなんだよ。瞳子姉さん…。

私は閉められた病室のドアをじっと見つめる。すると、暗い表情をする皆に、鬼道有人が「これは円堂のせいでも、監督のせいでもない。俺達、チームの問題だ」と力のこもった声で言った。
自分達はエターナルブリザードに頼り過ぎていた。そのことが吹雪にとってかなりの重圧になっていたに違いないと。


「戦い方を考え直すべきかもしれない。吹雪のために。そして、俺達が更に強くなって、エイリア学園に勝つために。」

「「「「!」」」」


鬼道のその言葉にはっとした雷門イレブン達。次々に「ああ、賛成だ!」「俺もだ」「俺もッス」「うちもや!」と賛成の声を上げていった。子供達の瞳に、失われた希望の光が宿っていく。

吹雪のために、そしてエイリア学園に勝つために。また一丸となって頑張ろう、と気持ちを改める者達が多い中で、深い影を落とす者もいた。希望に満ち溢れたこの場の空気は、今の彼にとって居心地が悪いものだったのだろう。
一人こっそり病室から出て行くその後ろ姿に気が付いたのは、恐らく病室のドアを見つめていた私だけだった。



戦えなくなった者



「ジュピター。お前は、あのジェネシスの男と随分親しいようだったな。」

「…グラン様は、マスターランクチームのキャプテンだ。私のようなセカンドランクの者と親しいわけがないだろう。…言っておくが、私はお前達人間に協力する気は全くないからな。」


何か聞かれる前にきっぱりとそう告げれば、財前塔子は理解できないといった様子で声を荒げた。


「どうして…!お前、あいつらに捨てられたんでしょ!?」

「っ、例え捨てられたんだとしても…、」


仲間を裏切るなんてこと、私にはできない。

それだけ言って、耐えるように唇を噛めば、財前塔子はもうそれ以上何も言ってはこなかった。鬼道達も私からエイリア学園の情報を聞き出すことは諦めたようだ。
これ以上ここに居座るのも迷惑だろうという話になり、彼らは寝ている吹雪士郎に「またくる」と告げてから、彼の病室を後にした。

その次の日、風丸一郎太がイナズマキャラバンを離脱し、その数日後には栗松鉄平も同じくキャラバンから去って行った。

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