腕時計を確認していた音無さんが「12時になりました!」と皆に告げる。ああ、ついに約束の時間がやってきた。どこからか黒い霧が現れ、私達がいるグラウンドに充満する。その演出は宇宙人が現れるときのものとよく似ていた。
「嘘だろ…。」
「これって、まさかイプシロン!?」
「来たぞ!」
鬼道有人の声に、皆がハッと顔を上げた。突然、黒い霧の中から白い光が放たれる。目もあけられていられないほどの眩しさだ。その光が徐々に弱まっていき、その光源が何なのか見えるようになると、円堂守は目を大きく見開いた。
「やあ、円堂君。」
「っまさか、ヒロト…?」
そこには人の好さそうな笑みを浮かべた男、基山ヒロト……いや、グラン様が立っていた。そして、グラン様の後ろには、彼がキャプテンを務めるチーム・ガイアのメンバーが揃っている。私はゴクリ、と固唾を呑み込んだ。
そういえば、彼らに会うのは随分と久しぶりである。以前会ったときはセカンドチームのキャプテンとしてそれなりの扱いを受けていたけれど、雷門イレブンに敗北し、追放された今の私を見て、彼らはどう思うんだろうか。無様だと笑われるか、情けないと蔑まれるか、それとも…。
バクバクと鼓動が高鳴る。私は数歩後ろへと下がり、一番近くにいた木野さんの後ろに身を隠すように立った。
「何や、こいつら…この前の奴らとちゃうやんか。」
「エイリア学園にはまだ違うチームがあったってことか…!」
どうやら私と円堂守だけではなく、他の子供達もその新しく見る宇宙人達にかなり動揺している様子だった。鬼道有人が「どういうことだ…?」と円堂守に疑問を投げかける。そう、今日は彼の友達と試合をするはずだったのだ。
しかし、円堂守自身もグラン様が宇宙人であったことを知らなかったようで、「ヒロト、お前宇宙人だったのか…?」と彼は困惑した表情で呟いた。
「円堂さん…。」
「なるほど。円堂君はまんまと騙されたみたいですね。」
「騙された…?」
皆が動揺してる中、冷静に分析していたと思われるメガネの男が、こくりと頷いて言った。
「奴らの目的は友達になったフリをして、円堂君を動揺させること。…宇宙人の考えそうなことですよ。」
「それは違うよ。」
けれど、メガネの男の考えは、グラン様本人の口から否定されてしまう。グラン様はフッと笑みを零すと、とても楽しそうに口を開いた。
「俺はただ君達とサッカーがしたいだけ。君達のサッカーを見せてよ。」
「ヒロト…、お前とはもっと楽しいサッカーができると思っていた。……けど!エイリア学園とわかった以上、容赦はしないぜ!」
「もちろんだよ。……ああ。だけど、試合を始める前に少しだけ。」
ずっと円堂守に向けられていた視線が、初めて他のものへと向けられる。その翡翠色をした目とばっちりあってしまった私は、ビクッと肩を揺らし、思わず木野さんの背中にしがみついた。
「やあ、ジュピター。久しぶりだね。」
「ぐ、グラン様…。」
「どうしたの?そんな怯えたような顔をして。……ああ、そういえば聞いたよ。円堂君たちのチームに負けちゃったんだって?」
グラン様の眉間に皺が寄る。ああ、幻滅したと言われるだろうか?それとも、お前なんかもう仲間じゃないと言われてしまうのだろうか?私は心臓が激しく波打つのを感じながら、彼の言葉の続きを待った。
しかし、グラン様の口から出たのは、私が想像していた言葉のどれとも違うものだった。
「やっぱり、ジュピターは俺のチームに入るべきだったんだよ。ねえ、今からでも遅くないから、俺のチームにおいでよ。」
「え…?」
「おい、グラン。」
目尻を釣り上げたウルビダが、グラン様の名を呼ぶと、彼は「冗談だよ」と困ったような笑みを浮かべた。な、何なんだ一体…。
「それじゃあ、さっそく試合を始めようか」と言い、それぞれのポジションの位置に移動するグラン様達を見て、暫く呆気に取られていると、木野さんが「大丈夫…?」と心配そうに声をかけてきた。そう言えば、私は彼女にしがみ付いたままだったな。
「悪かった」と言って、彼女から離れれば、木野さんに顔色が悪いと指摘された。確かに何だか具合が悪い気がする。
私は木野さんに付き添われながら、安定の雷門側のベンチへと向かった。
想定外の反応…?
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