次の日は予定していた通り、雷門イレブンと陽花戸中サッカー部で練習試合を行うことになった。前回に引き続き、私のポジションはマネージャーの女の子と瞳子姉さんの間で、とても複雑な気分である。別に雷門の仲間になったわけではないのに、これではまるで私が雷門を応援しているみたいじゃないか。

暫くの間、居心地悪そうに試合を観戦していると、隣に座っていたマネージャーの女の子、木野さんが突然私に話しかけてきた。


「ねえ、あなたは…、『パッと開かずグッと握って、ダン、ギューン、ドカーン』って、どういう意味だと思う?」

「はあ?何だ、その奇奇怪怪な言葉は。」


私が眉を潜めてそう返すと、木野さんは「やっぱり、そうなるわよね…」と苦笑を浮かべた。何だかよくわからないが、そのヘンテコな文章の解読ができず困っているらしい。ふーん、雷門イレブンも大変なんだな。よくわからないが。
私はサッカーフィールドへと視線を戻すと、彼女を突き放すように冷たい声色で言った。


「例えわかったとしても、それをお前達人間に教えてやる義理はない。」

「あ…、そ、そうよね。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」


あーもう!そんな風にしょんぼりされると罪悪感で胸が痛いんだが…!
わいわい賑やかなグラウンドに比べ、私達が座るベンチは静まり返っていて空気が悪い。居たたまれなくなった私は、仕方がないとばかりに口を開いた。


「……ゴホン。あー、地球にはこんな言葉がある。」

「……え?」

「“桃栗三年柿八年”。…まあ、多少時間はかかるかもしれないが、その内きっと解読できるさ。」


私がそう言うと、木野さんは少し目をぱちくりさせてから、「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。別に、礼を言われるようなことを言った覚えはないんだが。
ふん、と鼻を鳴らせば、直後に前半を終えるホイッスルが鳴り響く。試合は4−0で雷門側の勝利となった。



ーーその試合を遠くから見ていた男が一人。

シュートが決まり、全力で喜び合う円堂達を見て「こんなサッカーもあるんだな」と呟いた後、男はグラウンドからベンチの方へと視線を移した。
そこには雷門中サッカー部のマネージャー達に並んで、パーカーを着た小柄な女の子が行儀よく座っている。
男に対し背を向けているため、その顔はわからない。けれど、フードから覗くその黄緑色の長髪を男はよく知っていた。フッと口元を緩める。


「待っててね。俺が、必ず迎えに行くから。」


男はそう言って、女の子を数秒見つめた後、静かにその場を去っていった。



再会はもうすぐ



「……え、今何て言ったんだ?」


言われたことが理解できなくて、恐る恐る尋ねれば、木野さんは不思議そうな顔をしながらももう一度説明してくれた。


「円堂君のお友達のヒロト君っていう子が、自分達のチームと試合しようって、昨夜円堂君に持ち掛けたらしいの。」

「…その試合は、いつするんだ?」

「今日の12時。ここのグラウンドでやるみたいよ。」


ボールを磨く手を止めた木野さんは、灰色の空を見上げ、「今日は天気が悪いわね。昨日はあんなに晴れてたのに」と不安げに呟く。しかし、そんな彼女の声も、今の私の耳には全く届いていなかった。


(グラン様が、やってくる…。)


まさか、その日がこんなに早いだなんて思わなかった。額に汗が浮かぶ。お父さんやグラン様達は、一体何を考えているんだろうか。これから、どうするおつもりなんだろうか…。

私は緊張や不安で押し潰されそうになりながら、静かにその時が来るのを待った。

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