「ユウナ、ユウナもおいでよ!」

「皆でサッカーするんだって。」


「うん、今行くよ」と笑いかける。早く早くと子供達に急かされて、読んでいた本を棚に戻せば、すぐさま腕を引っ張られた。そんなに慌てなくてもいいのに。
玄関へと向かえば、そこにはヒロトが一人、壁にもたれて立っていた。その小さな両手には薄汚れたサッカーボールが抱えられている。ヒロトは私に気づくとパアッと表情を明るくさせ、嬉しそうに私の名前を呼んだ。


「遅いよ!玲名達、先に行っちゃったよ?」

「ごめんごめん。」


へらりと笑いながら謝れば、「もう!」とあざとく頬を膨らませる。しかし、別に本気で怒っているわけではないようで、ヒロトはすぐに笑顔に戻ると私の空いている方の手を握った。


「行こう!皆、ユウナのこと待ってるよ。」


外へ出ると、子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。あそこで縄跳びをしているのはルルと布美子で、ブランコに乗って靴飛ばししているのはマキと諭。大夢と駿太郎と凍地兄妹は缶蹴りしているようだ。いつも賑やかなおひさま園の広いお庭を、ヒロトに引っ張られて駆け出す。

お父さんが作ってくれた手作り感溢れるサッカーフィールドに着くと、既に玲名や風介達が試合を始めていた。私達が来たことに気付いた晴矢は一度ボールを止めると「おっせーぞ!」と声を上げた。皆の視線も私達に集まる。


「ユウナは私達のチームに入りなよ。こっちは女子が少ないんだ。」

「うん。わかった!」

「今日こそは負けねーからな!」

「えー、オレもユウナと同じチームが良かったな…。」

「ほら、さっさと試合再開するよ。」


私達もそれぞれフィールドに立てば、晴矢のキックオフで試合が再開される。それからはボールを取ったり、取られたり。ゴールを決めたり、守ったり。子供達は一つのボールを追って、広いフィールドを駆けまわっていく。

ああ、楽しい。サッカーってこんなに楽しいんだな。

私はみんなの笑顔を眺めながら思った。みんなといつまでもサッカーをしていたい。ずっとこうして笑いあっていたい、と。


「ユウナ!」

「よし、いっけー!」








「シュートだ!」

「シュートだ!」


「っ!?」


円堂守の声にハッとする。顔を上げれば、ちょうど良いタイミングで一之瀬一哉の必殺シュートが決まっていた。ホイッスルの音が校庭に鳴り響く。
わあっと隣に座るマネージャー達が歓声を上げているのに対し、私は冷や汗を浮かべながら、転がるサッカーボールをじっと見つめていた。バクバクと心臓がうるさい。

今、一体何と重ねていたんだ、私は…


現在、雷門イレブン達は陽花戸中学のサッカー部員達と合同練習を行っている。その様子をマネージャーの女の子と瞳子姉さんに挟まれる形でベンチに座り、ぼうっと眺めている私は一体何なのだろうか。
多分、陽花戸中の者達は私を雷門のマネージャーの一人とでも思っているに違いない。少なくとも、この前まで学校破壊を繰り返していたジェミニストームの選手だと気づくことはないはずだ。

それから私は合同練習が終わるまで、ずっと自分の足元を見つめていた。子供達の楽しそうな声が聞こえてくる度、胸が苦しくなったけれど、そんなことには気づかないフリをして、唯々じっと終わるのを待っていた。



合同練習後、サッカー部員達が風呂に入りに行っている間に夕飯を食べ終えると、私は瞳子姉さんにある頼まれごとをした。それは夕食に使った皿の後片づけ、つまり皿洗いをしろとのことだった。頼まれごとというよりは命令だな。
何で私がそんなことをしなければならないんだと一度は反論したが、「働かざる者、食うべからずよ。」という瞳子姉さんの言葉に撃沈した。もういい。皿洗いくらいやってやるさ。


「う、宇宙人が皿洗いしてるでヤンス…。」

「似合わねー。」


一人黙々と皿洗いをしていると、1年の栗松と小暮が食べ終えた皿を持って私のところまでやってきた。似合わないなんて言うけど、これでも数年前まではよく皿洗いや洗濯の手伝いをしていたんだからな。
軽く睨みつけてやると、二人は「ヒッ」と情けない声を上げた。…フン、そんな臆病者が我々宇宙人を倒せるものか。そんなことを思いながら、二人の前に手を差しだせば、彼らは不思議そうな顔をする。私は呆れた表情で言った。


「早く皿を寄こせ。そして、さっさと寝ろ。」

「え、あ…。」

「チビはもう寝る時間だろ?」


ちょっとした仕返しに、と嘲笑うようにそう言えば、戸惑っていたはずの二人は揃ってムッとした顔をする。うーん、さすがにこれは大人げなかっただろうか?

「子ども扱いするな!」「チビじゃないでヤンス!」と怒りだす二人に、「寝る前にちゃんと歯を磨くんだぞ。」と言えば、さらに彼らはギャーギャー騒ぎ出した。うわ、うるさい。
めんどくさそうな顔をしていると、近くでこちらの様子を伺っていたマネージャーの女の子…、確か音無さんが何故かクスクスと笑い出した。いや、笑ってないで、このうるさいチビ達を何とかしてほしいんだけど。はあ…。


その後、音無さんが皿洗いを手伝ってくれるというので、その申し出はありがたく受け入れ、私はサッカー部員全員分の皿洗いを成し遂げたのだった。



あの日の思い出

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