「正体がバレないように髪は下しましょう。それから、このフード付きのパーカーに着替えて。下は半ズボンでも構わないわね?」

「……。」


多くの反対を押し切り、私をイナズマキャラバンに同行させることにした瞳子姉さんは、テントの中で服を着替えるよう私に指示をだした。私がエイリア学園の者であることを隠すためだ。
マネージャーの女の子が買ってきてくれたというパーカーは、ちょうどよいサイズ感でなかなか着心地がいい。フードを被り、そこら辺にいる普通の女の子らしくなった私を見て、瞳子姉さんは満足気に頷いた。


「それじゃあ、皆のところへ行きましょう。既に出発の準備はできています。」


そう言ってテントから出ようとする瞳子姉さんに、「…どういうつもりだ」と私は尋ねた。彼女の心理が全く読めない。なぜ、侵略者である私を警察に任せず、自分の監視下に置いたのか。彼女は一体何を企んでいるのか。
動きを止めた瞳子姉さんに、私はもう一度疑問を投げかけた。


「なぜ、私を連れていく?」

「それは…、あなたには人質としての価値があるからよ。」


瞳子姉さんのその言葉に、思わず顔を歪める。何を言い出すかと思えば、私が『人質』だって?まさか、本気でそう言っているわけではあるまい。私は馬鹿にするように、鼻で笑って言った。


「はっ、私にそんな価値などあるはずないだろう。エイリア学園から追放された身だぞ。もはや、あの方々にとって私の存在はゴミ以下だ。」

「果たしてそうかしら。…少なくともあの子なら、貴女のことを見捨てたりはしないと思うけど。」

「あの子…、ああ。お前が言う“あの子”がグラン様のことを指しているのだとしたら、それは大間違いだ。」


グラン様は、私のことなど簡単に見捨てるだろう。それがお父さんのためだと言うのなら。
そう断言した私に、瞳子姉さんは眉を顰めたが、すぐにいつもの涼しい表情に戻し、「着いてきなさい」と言ってテントの外に出た。
テントの傍に停められたイナズマキャラバンには、地球を侵略する宇宙人として、私達が三度程サッカーで戦い、数日前に敗北した相手である雷門イレブンが乗っている。

一体これからどうなるのだろう。不安を抱えつつ、私は瞳子姉さんの後に続いてキャラバンへと乗り込んだ。





想像通り。車内の空気はこれ以上ないくらい最悪だった。当然だが、学校を破壊され、友人を傷つけられた雷門中の生徒や、父親を誘拐された女の子は、私のことを恨んでいる。怖い顔で睨んできたり、怯えた様子を見せたり、一体監督は何を考えているんだと困惑していたりと人によって様々だが、皆が私を嫌厭していることは確かだった。

しかし、そんなことはもう慣れっこだ。今更、他人から嫌われることにいちいち傷ついたりなんかしない。…それに、本当に嫌われたくなかった人達に、私は嫌われてしまったんだ。もう、全てがどうでもよかった。


『全てを失った今、怖いもんなんてないだろ?』

「っ、」


ああ!うるさい。もう終わったんだ。エイリア学園から追放され、お父さんに捨てられた。こんな絶望感の中で、今更何を望めと言うのか。
私達を捨てたエイリア学園の奴らに復讐する?それとも、地球侵略を止めて、お父さんを改心させるか?……ハッ、あんなに言っても駄目だったのに、そんなこと私にできるはずないだろう。ディアムの言葉に惑わされるな、と私は自分自身に言い聞かせた。


「今日はここで泊まることにします。明日の朝8時には此処を出発する予定なので、皆寝坊しないように。」


瞳子姉さんがそう言うと、子供達は声を揃えて返事をした。

今、私達を乗せたイナズマキャラバンは福岡県の陽花戸中学に向かっているらしい。その理由はよくわからない。雷門イレブンのキャプテンが、じいちゃんのノートがどうとか言っていたが、私は大して興味がなかったので、適当に聞き流していた。またイプシロンから襲撃予告があったわけでもなさそうだし、どうでもいいことだろう。

それよりも、だ。雷門イレブンが、あのイプシロンと互角の勝負をしたという話は本当なんだろうか。それが真実なのだとしたら、もしかしたら雷門イレブンがジェネシスを、……いや、さすがにそれは無理か。
今の彼らは、エイリア石を使用したジェミニストームやイプシロンでも敵わないほどの強さを持っている。いくらパワーアップした雷門イレブンでも、彼らには到底敵わない。


「なあ、お前……ジュピターは飯食わないのか?」


皆が夕飯の準備をする様子をぼーと眺めていると、雷門イレブンのキャプテンである円堂守が不思議そうに尋ねてきた。彼の後ろには、財前塔子と風丸一郎太が食器を持ちながら此方を見つめている。


「宇宙人も食事ってするの?」

「さあ…?」

「ほら!食べるんだったら早くしないと、壁山に全部食われちゃうぞ。」

「………。」


「今日の夕飯はカレーライスだからな!」とキラキラした目で笑う円堂守に、私はつい呆けた顔をしてしまう。いくらエイリア学園を追放されたとはいえ、私は地球侵略を企んでいた宇宙人なのに、その接し方はまるで仲間に向けるものと同じじゃないか。キャプテンがそんな脳天気な奴で大丈夫か?
雷門イレブンとこの子の未来が本気で心配になり、私は思わず口を開いた。


「“情けが仇”という言葉を知らないのか、お前は…。」

「ん?何だそれ。そんなことより早く飯だ!ほら、お前もこっちこいよ!」

「は?っおい、待て…!」


円堂守に腕を引っ張られ、私は食事の準備をしている子供達の方へと歩き出す。さすが、GKなだけあって腕力は強い。抵抗しても離してもらえず、諦めてそちらへ向かえば、皆の視線が自然と私達に集まった。
睨んでくる子もいれば、怪訝な顔をする子もいる中、盛り付けをしていたマネージャーの女の子は少し戸惑った様子で私に尋ねた。


「えっと、あなた辛いのは平気?これ、中辛なんだけど…。」

「………問題ない。」

「そ、そう。」


女の子は少し緊張した手つきで皿にカレーとご飯を盛り付けると、「これくらいでいいかしら?」と私にまた尋ねた。見れば、ホカホカの白いご飯の上に、具材たっぷりのカレーが乗せられていて、とても美味しそうだ。私は頷き、女の子からその皿を受け取った。


「ありがとう。」

「!、ううん。足りなかったらお代わりしてね。」


そう言ってニコッと笑いかけてくる女の子を見て、円堂守といい、ここにいる子供は甘い奴が多過ぎだと内心呆れて溜息をつく。……まあ、私には関係ないことだ。次にカレーを盛り付けてもらっている円堂守を待たずに、私は皿とスプーンを持って近くにあった切り株の上に座った。

カレーライスか、久しぶりに食べるな…。お日さま園では大人気メニューだったカレーライス。みんな、これだけは残さず食べていたっけ。カレーとご飯を均等にスプーンで掬い、口の中に放り込む。ちょうど良い辛さのカレーが、口の中いっぱいに広がった。…ああ、うまい。

おひさま園で食べていたカレーライスとは辛さも具も違うけれど、何故かこのカレーライスはすごく懐かしい味がした。



人質となった宇宙人の話

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