「我々は遠き星エイリアより、この星に舞い降りた星の使徒である。」
「我々はお前たちの星の秩序に従い、自らの力を示すと決めた。」
「その秩序とは、“サッカー”」
「サッカーはお前たちの星において、戦いで勝利者を決めるための手段である。」
「サッカーを知るものに伝えよ。サッカーにおいて我々を倒さない限り、この地球に存在できなくなるであろう。」
「……だから、」
「?」
台本通りの台詞を述べた私に、怒り心頭に発する男が一人。
おそらく雷門中サッカー部のキャプテンと思われるその男は、全身をわななかせながら、その抑えきれない怒りを私達にぶつけた。
「っだから、イナズマイレブンのおじさん達と戦ったって言うのか!?」
だったら次は俺達と勝負だ、と闘志を燃やすその男を、私はキョトンとした顔で見つめる。
宇宙人を目の前に、これだけ堂々とできる中学生はなかなかいないと思う。正義感が人一倍強いのか、それとも若気の至りというやつだろうか。向こう見ずだけど、その度胸ある言動には敵ながら感心してしまった。
ジュピター様?、と訝しげな表情を浮かべたリームが、小さい声で私の名前を呼ぶ。ああ、いけない。最後まで宇宙人を演じきらなくては…!
ニヒルな笑みを慌てて作った私は、木で鼻を括るように言った。
「見よ。この学校は既に崩れ去った。即ち、それは勝負が終わった証。……最も、あれが勝負と言えるものなら、な。」
「っ、宇宙人だろうが何だろうが、学校ぶっ壊されて黙ってられっかぁ!!」
キャプテンの子に続き、今度は坊主頭の強面な男が怒鳴りだす。どうやら、雷門中サッカー部にはなかなか度胸のある子供が多いらしい。
彼を筆頭に次々と戦いの意思を見せるサッカー部員達。未知なる敵にでも立ち向かおうとするその姿は、まさに物語に登場するヒーローのようであった。
彼らはフットボールフロンティアで幾多の強敵と戦い、全国優勝を果たしたのだから、勿論サッカーにはそれなりに自信があるのだろう。私達、宇宙人にも絶対に勝ってやるという確たる信念がひしひしと伝わってきた。
「みんな…!見せてやろうぜ、俺たちのサッカーを!」
「「「「「おう!!」」」」」
怯えていた子供達も覚悟を決めたのか、まっすぐな瞳で私達を見つめる。やる気に満ち溢れた彼らのその表情は、子供らしくて、素直で、私にはとても輝いて見えた。さすが全国優勝しただけあって、団結力も素晴らしい。良いチームだな、と思った。
けれど、私は知っている。
子供だけの力では、どうにもならないことがあるのだと。
「その必要はない。」
私が軽く蹴り飛ばしたボールは見る見る勢いを増していくと、子供達を吹き飛ばし、その先にあった雷門中サッカー部の部室を瞬く間に破壊した。
できることなら、誰も傷つけずに
エイリアボールを使い、今度こそ私達はその場から立ち去った。私が最後に目に映したものは、無残に倒壊した彼らの部室と、それを見て絶望した子供達の顔だった。
……そうだ、これで良い。きっと、これで彼らも戦意喪失したはずだ。自分達の無力さに打ちひしがれて、宇宙人に歯向かったことをずっと後悔していればいい。
そうすれば、私は彼らをこれ以上傷つけずに済むのだから。
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