「非力な地球人が我々に勝てるはずがない。」

「ジェネシスに相応しいのは、俺達プロミネンスだ!」

「それを父さんが望むというのなら、俺はなんだってできる。何にだってなれる。」

「あのお方が間違っているはずないだろう?」



だめだ。こんなこと、間違ってる。そう自分に言い聞かせていたけれど、その声も次第に小さくなっていく。
周りに味方がいないというのは、とても不安で、心細くて。私はずっと暗闇に一人でいるような、そんな孤独感に胸を締め付けられながら生きていた。

心は既にボロボロだった。耳を塞いでも聞こえてくる大好きな人達の声は、私の考えが愚かであると嘲笑う。それは、まるで洗脳するかのように何度も繰り返され、私の意志を確実に弱らせていった。


「もう、こんなの嫌だ…っ」




そして、限界は思ったよりすぐにやってきた。

気が付けば、私は他の子供達と同様に、地球侵略を目論む「兵士」の一人になっていた。もちろん、善と悪の区別がつかなくなってしまったわけではない。
けれど、それが恩人であるお父さんのためであり、それが私達にとっての至福である、とそう考えるようになってしまった。

まるで何かに取り憑かれたみたいに、私の心はどんどん悪へと染まっていく。…もしかしたら、これもエイリア石の力によるものなのかもしれない。

力のない自分を厭い、強さを欲する。まるで別人みたいな私達を見て、お父さんは「それでいいのです」と深く頷いた。だから、私もそれでいいのだと、そう自分自身に言い聞かせることにしたんだ。

家族が幸せならそれでいい。それ以外の人間なら、どうなろうと構わない。私はただひたすらにボールを蹴り続け、強さを求めるだけの毎日を過ごした。





地球に隕石が墜落してから5年。お父さんの地球侵略計画は着々と進められている。

星の使い徒研究所では今日もエイリア石の解析を続け、その力をどう利用できるか検討されている。現時点ではエイリア石の削った一部を持つことで、エイリア石に秘められたエナジーによって、所有者の身体能力を飛躍的に強化させることに成功。
私を含め、エイリア学園の子供達は、胸部にエイリア石を収めたユニフォームの着用が義務つけられた。

宇宙人をイメージしたデザインなのだろう。体のラインがはっきり出る、ぴっちりスーツみたいなそれを着用することに、当初は私もかなり抵抗があったけれど、それもだんだん慣れていった。
まあ見た目はどうあれ、エイリア石が収まっているとは思えないくらい軽いし、何より非常に動きやすいので、サッカーをする上での不満はない。
私は、エイリア学園での殆どの時間を、そのユニフォームを着て過ごした。そうしていれば、自分もエイリア学園の生徒なのだという自覚が持てたからだ。

ついでに私は、伸ばしていた髪の毛を前髪ごと上に纏め、それをワックスで固めるよう、リームに頼んだ。そうした方が、より宇宙人らしくなると思ったから。ちょっとしたイメチェン気分だった。
そして、私の新しいヘアスタイルを見て早々、「抹茶ソフトみたいだな!」と発言したディアムには、罰としてボール磨きを言い渡した。
思ったことをすぐ口にしてしまうのは、彼の悪いクセだと思う。副キャプテンとして、もう少し頼りがいがあると良いんだけどね…。


私がキャプテンを務めるジェミニストームは、他のどのチームより勝率が悪かったため、エイリア学園の中じゃ最下位であるセカンドランクチームと定められた。
上下関係の厳しいエイリア学園では、弱者は強者を敬い従わなければならない。その頃から私は、ヒロトや晴矢のことを、『グラン様』『バーン様』と呼ぶようになった。


少しずつ、しかし確実にエイリア学園の子供達は変わっていった。見た目も、性格も、考え方も。それは、もちろん私も例外ではなくて。
楽しかったあの頃を思い、涙を流した夜は数え切れないほどあった。けれど、そんな私を慰めてくれる人なんてどこにもいなかった。もう、あの頃の私達じゃないんだ。



覆水盆に反らず



「ジュピター、父さんが呼んでるよ。」


そして、ついにこの時がやってきた。

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