「“ノーザンインパクト”!!!」


ガゼルの必殺シュートが決まるのとほぼ同時に、試合終了のホイッスルが鳴った。結果は8対0で、彼がキャプテンを務めるダイヤモンドダストの圧勝である。
悔しそうに顔を歪めるジェミニストームの選手達を見て、彼らは勝ち誇った笑みを浮かべた。お日さま園の子供達がこんな風に敵対し、憎しみ合っている姿を見るのは、とても心が痛んだ。

みんな、あんなに仲が良かったのに、どうして…?
耐えられなくなって視線を地面へと移せば、そこに黒い影が映りこむ。ゆっくり顔を上げれば、冷ややかな笑みを浮かべたガゼルが、私を見下すようにそこに立っていた。


「フン、無様だな。」

「……。」

「聞けば、あのイプシロンにも連敗しているらしいじゃないか。お前ほどのプレーヤーが、一体何をやっている…?」


訝し気にそう尋ねてくるガゼルに、私は無言を貫く。だって、例え私がなにを言ったところで、お前たちは聞く耳すら持ってくれないでしょ?

特にガゼルやウルビダなんかは、お父さんのことを異常なまでに慕っているから。私がお父さんの考えを批判したら、きっと凄い仕打ちが返ってくるはずだ。……まあ、これは経験から学んだことなんだけど。
ウルビダに頬を殴られたときのことを思い出して、私は眉間に皺を寄せる。あのとき、グランが止めに入ってくれなかったら、私の顔は今頃見るに堪えないものになっていたことだろう。

あんなに懐いてくれていたウルビダにも嫌われて、大好きだったサッカーも楽しくなくなって、私の心はどんどん荒れていく。もしかしたら、自分が間違っているのではないかという迷いまで生じてくる。
このユニフォームに収められた不気味に輝く隕石が、私の精神までも狂わせていくみたいで怖かった。この場から逃げ出してしまいたかった。

それでも、私が逃げ出さずにいられるのは、大好きなお日さま園での思い出があったからだ。


ガゼルは何も答えない私に舌打ちすると、「…まあ、いい」と目を伏せた。トップを争うガゼルにとって、私達ジェミニストームはそこまで興味を持つ対象にはならないのだろう。

去り際にガゼルは言った。


「本気で戦う意思のない奴など、もはや私達の敵ではない。ジェネシスの座は、私達ダイヤモンドダストが頂く。」

「……。」


ジェネシス、ジェネシスって……みんな馬鹿みたい。去っていくダイヤモンドダストを尻目に、私は唇を噛み締めた。
グランも、バーンも、あのデザームまでもがジェネシスの座を欲しがっているけれど、最強チームの称号だとか、そんなもの私はいらない。そんなものを欲しがる皆の気持ちがわからなかった。


「こんな誰かを傷つけるための力なんて、なくなってしまえばいいのに。」


ユニフォームの裾を強く握り、そう呟けば、胸元の石がギラリと光ったように見えた。なんて、妖艶で美しく、不気味な紫色なんだろう。
見つめていれば、心を奪われしまいそうで、私はすぐさま視線を反らした。

 
……そうだ。全部、この石のせいなんだ。

お父さんがおかしくなってしまったのも、ヒロト達が力を求めるようになってしまったのも、お日さま園に笑顔が消えてしまったのも、全部全部ぜんぶ!


「エイリア石のせいだ!!!」



悲鳴を上げても、誰も答えてはくれない



気がつけば、周りには誰もいなくなっていた。独りぼっちになってしまった私は、転がっていたサッカーボールを思いっきり蹴りあげる。ボールが飛んでいった先には、当然ながら誰もいなくて、虚しさだけが募るばかりだった。

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