頭がくらくらする。身体もだるい。咳は出るし、鼻水は止まらない。熱もある。

これは十中八九、


「風邪ね。」

「……。」

「今日は学校を休みなさい。学校には私が連絡しておくわ。それと、他の子にうつると大変だから部屋を移動しましょう。ユウナの布団はどれ?」

「……ん。」

「これね。しばらくは様子を見て、酷いようなら病院へ連れて行きます。食欲はある?あるなら、お粥を作ってもらってくるから、それまで安静に寝ていること。いいわね?」

「…あい。」


てきぱきと動く瞳子を、ぼーと見つめる。風邪なんて引いたのは何年ぶりだろうか。思い出そうとするだけで、頭がぐるりと回って気持ち悪かった。
早く横になりたい。ユウナは重たい身体を何とか動かして、「着いてきなさい」と言う瞳子の後を追った。

部屋を出ると、そこには人気のない廊下が続いていて、何だかお日さま園じゃないみたいな感覚に囚われる。今日は平日なのでこの時間、お日さま園の子供達は皆、学校へ行ってしまっていないのだ。


静かな廊下を通り、辿り着いたのは木製のタンスと小さなちゃぶ台だけ置かれた空き部屋だった。ユウナはお日さま園で暮らすようになってもう9年ほど立つが、この部屋には初めて入る。
ここは誰も使っていないはずだけれど、きっと瞳子か誰かが定期的に掃除しているのだろう。埃も溜まっていない綺麗なタンスの上には、小さな観葉植物と使われていない写真立てが飾られていた。

瞳子は持っていた布団を下ろすと「少し狭いけど、我慢してね」と言って、畳の上に布団を敷いた。
ここは確かにいつも寝ている部屋よりも狭いところだけれど、同室の子達と隣合わせに布団を敷いて寝ているユウナにとっては、その方が落ち着けて良かった。


「瞳子姉さん…、」


布団の上で横になったユウナは、潤んだ目で瞳子を見つめる。同年代の子達に比べるとどこか大人びていて、手のかからないユウナではあるが、やはり弱っているときは心細くなるものだ。
不安げな顔をするユウナに、瞳子はフッと笑みを溢すと、彼女の汗で濡れた前髪をそっと上にかき上げた。


「大丈夫、私がずっと傍にいてあげるから。あなたは安心して眠りなさい。」

「……うん。あ、瞳子姉さん。」

「なに?」

「ヒロト達と、今日は公園でサッカーする約束だったから……ごめんねって、」

「ええ、伝えておくわ。」


瞳子が了承すると、ユウナは安心したように微笑み、ゆっくりと瞼を下ろした。年相応の無防備で可愛らしい寝顔だ。
瞳子は、ユウナが眠った後も彼女の頭を優しく撫で続けた。早く彼女が元気になりますように、と祈りを込めて。





地球に謎の隕石が落ちたのは、それから数十分後のことだった。



それは、まさに“青天の霹靂”

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