「わあ、お店がいっぱい!」

「おれ、やきそば食べたい!」

「わたしはチョコバナナ!」

「1人500円までよ。いい?必ず2人以上で行動すること。周りの人に迷惑かけないこと。7時半にはここに戻ってくること。守れるわね?」

「「「「はーい!!」」」」


隣町の夏祭りにやってきたお日さま園の子供たちは、立ち並ぶ様々な屋台に目をキラキラ輝かせる。
かき氷に、たこ焼きに、チョコバナナ。金魚すくいや射的なんかもあって、お小遣いをどう使おうか悩みどころだ。

約束の最終確認を終えると、子供たちは元気に各々の行きたいところへと散らばった。
花火が始まるのは8時からだから、集合時間はその30分前ということで、あと1時間くらいある。私は一緒に回ることを約束していたヒロトに「まずどこへ行く?」と尋ねた。


「何か食べたいものとかある?」

「うーん…やきそば食べたい、けど…。かき氷も食べたいなぁ。」

「それなら、焼きそばとかき氷を1つずつ買って2人ではんぶんこしよっか。」

「っ、うん!」


私が提案すると、ヒロトはなるほど!といった表情で、首を何回も縦に振った。
この人込みではぐれたら大変なので、私たちは仲良く手をつないで目的の屋台へと向かう。たくさんの屋台に目移りするヒロトはとても楽しそうで、それを見ているこちらも楽しかった。

私たちは先に焼きそばを買って食べて、その次にデザート感覚でかき氷を買って食べた。かき氷の味はさんざん悩んで結局メロンにしたんだけど、その理由が「ユウナの色だから」って…。確かに私の髪色は黄緑だけど、そんなことで決めてよかったのか。
口では呆れつつも内心ちょっと照れくさくて、私はおばちゃんがサービスしてくれた練乳で、その黄緑色をできる限り隠してやった。全然、隠しきれてないけどね。


腹もそこそこ膨れたところで、次はどうしようかと考える。二人の残りのお小遣いは合わせて350円。買うとしたら、チョコバナナ、リンゴ飴、アメリカンドックとかそこら辺か…。でも、二人で食べるのなら唐揚げとかにした方がいいかもしれない。

ヒロトはどうしたい?と彼の方を見れば、ヒロトの視線はある一点に定まっている。何か目ぼしい物でも見つけたんだろうか。彼の視線の先を辿れば、そこにはさまざまなおもちゃが棚に並ぶ1つの屋台があった。


「輪投げ、やりたいの?」

「っ!う、うん。」


何か欲しいおもちゃでもあったのかな。「やってきなよ」と言えば、ヒロトは「ユウナはいいの…?」と不安げな表情をするので、「私はヒロトが頑張っているとこ、見ていたいんだ」と言って、彼の背中を押した。
輪投げをやるのが初めてだというヒロトは、非常に緊張した面持ちでおじちゃんに300円を手渡す。おじちゃんは「チャンスは5回までだよ」と笑いながら言った。


「何を狙うつもりなの?」

「えっと、……あれ!」


ヒロトが指さしたのは、可愛くデザインされた藍色の筒のような形状のもの。何だろう、あれ…望遠鏡かな?
不思議そうに見つめている私の横で、さっそく立ち位置に付いたヒロトは、顔を強張らせながら輪を握りしめた。まずは1回目。ヒロトは狙いを定めると、その輪を精一杯投げた。


「あーー惜しいね!」


おじちゃんが楽し気にそう言った。ヒロトの投げた輪は、狙いの物を通り過ぎ、棚の向こうへと落ちていった。少し力が入り過ぎたみたいだ。
あからさまに凹むヒロトに、「まだ4回あるよ!」と私は両手の拳を握って励ます。ヒロトはこくり、と頷くと次の輪を構えた。


「ああ!残念!」


「もう少し軽く投げてごらん。」


「おっ、今のはかなり惜しいね!」


次々と投げていった輪は、目的の物よりわずかにずれてしまい、1つも入らないままラスト1回となってしまった。「ううう…」と泣きだしそうな顔のヒロトに、「チャンスはまだあるよ!」と励ましの言葉を送る。
そんな私たちを見て、おじちゃんは「仲がいい姉弟だねぇ」と微笑まし気に言った。

ヒロトがそこまであのおもちゃを欲しいというのなら、後でお父さんに買ってもらえないか頼んでみようかな。お父さんはヒロトのこと溺愛しているから、きっと買ってくれると思うけど、なんて思いながら、ヒロトを見つめる。
ヒロトはおじちゃんに投げ方のアドバイスを貰っていた。それから覚悟を決め、ついにラスト1回に挑戦する。

輪を掴むその手が震えていることに気付いた私は、ふいに彼の名前を呼んだ。


「ヒロト、」

「え…、なあに?」

「“精神一到何事か成らざらん”。」

「?」

「精神を集中して全力で頑張れば、できないことは何もないって意味だよ。大丈夫!ヒロトなら、絶対できるよ!頑張れ!」

「っうん!」


ぱっと表情を明るくしたヒロトは再び、狙いの物へと視線を向ける。それから大きく深呼吸して、心を落ち着かせると、ゆっくり輪を構えた。…うん、大丈夫。その手はもう震えていない。

ヒロトが投げた輪は、吸い込まれるように目的の物へと飛んでいった。


「やった!ユウナ、見てた!?入ったよ!」

「うんうん!ばっちり見てたよ。おめでとー!」


満面の笑みを浮かべて喜ぶヒロトに、私も感極まって、その日焼けを知らない白い腕の中へと飛び込んだ。「うわっ!」と目を丸くしつつも、しっかりと私を抱き留めたヒロトは、はにかんだような笑顔を見せる。ああ、もう可愛いな!

おじちゃんは「やるじゃないか!」とヒロトを褒めると、輪をくぐらせたその景品をとって、ヒロトに手渡した。
嬉しそうにそれを受け取るヒロトに、「よかったね!」と声をかければ、なぜかヒロトはそれを私に差し出してくる。うん?どういうこと?不思議そうに見つめ返す私に、ヒロトは照れくさそうに言った。


「それ、ユウナにあげる。」

「えっ…でも、ヒロトが頑張ってとった物なのにいいの?」

「うん。だって、ユウナにあげるためにとったんだもん。」


ヒロトの言葉に私は目を丸くする。あんなに必死でとろうとしていたのは、自分が欲しかったからじゃなくて、私にあげるためだったのか。思いもしなかったサプライズに、胸の高鳴りが抑えきれない。

お礼を言いながらそれを受け取ると、ヒロトはニコニコしながら「覗いてみて!」と言った。この筒状の物はやっぱり望遠鏡のようなものなのだろうか。

私は覗き穴だと思われるレンズのついた部分に顔を近づけ、言われた通りその中を覗いてみた。そして、思わず息をのむ。
そこには、キラキラと輝く紫や、白や、黄色などの模様が幻想的に広がっていて、その景色はさながら夜空に浮かぶ星の集いのようだった。

ばっと勢いよく顔を上げた私に、ヒロトはビクッと肩を揺らす。けれど、そんなことはお構いなしに、私は目を輝かせながら彼に詰め寄った。


「これって、万華鏡!?」

「う、うん。そうだよ!……前に、公民館にあったのを見て、すごくきれいだと思ったから、ユウナにあげたら喜ぶかなって。」


「喜んでもらえたかな…?」と不安げに尋ねるヒロトに、私は「うん!すごく嬉しい!!」と大きく頷いた。こんな嬉しいプレゼントは初めてだ。私が幸せそうに笑うと、ヒロトも「よかった!」と心底嬉しそうに笑った。


その日、ヒロトから貰った万華鏡は、私の一番の宝物となった。



二人だけのお星さま

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