100000キリリク/九条吹様
「三上姉がもしもボーダー隊員だったら」





(風間side)




「あの、すみません。」



防衛任務は午後からなので、午前中は特に用事もない俺と歌川と菊地原は、作戦室でランク戦のデータを確認していた。
そんなとき、突然開いた部屋の出入り口から、聞き慣れた落ち着きのある声。俺達が揃ってそちらへ視線を向ければ予想通り、そこには三上の姉である三上なまえが申し訳なさそうな顔で、入口付近に立っていた。ーーなまえがここに来るなんて珍しいな。

俺は椅子から立ち上がり「どうした?」と尋ねた。すると、なまえは少し挙動不審に作戦室を見渡してから口を開く。



「えっと、歌歩は……いません、よね。」

「…ああ。ちょうど出ているな。」

「確か、コンビニへ行くって言ってましたよ。」



歌川が思い出したようにそう言うと、なまえは「あー遅かったかぁ。」と苦笑を浮かべる。何か急ぎの用件でもあったんだろうか?
「伝言があるなら伝えておくが、」と俺が申し出れば、なまえは大丈夫だと首を横に振った。



「歌歩の忘れ物、届けに来ただけだから。」

「忘れ物?」

「うん。……って言っても、もう必要なくなっちゃったみたいだけどね。」


     
そう言ってなまえは困ったように微笑むと、持っていた鞄から弁当箱を取り出した。藤色の弁当包みに包まれたそれは、女子高校生の昼食にちょうどいいくらいのサイズのもので。ああ、三上の忘れ物というのは弁当だったのか、と俺達は納得の表情を浮かべる。



「それじゃあ、三上さんがコンビニへ行ったのも、」

「多分、お弁当忘れたことに気づいて、お昼買いに行ったんじゃないかな?」

「うわードジだなぁ。」



菊地原が呆れたように言えば、なまえは「そうだね。」とくすくす笑った。
なまえの花が咲いたような笑顔は、やっぱり三上のそれとよく似ている。しかし、なまえの方が成人してるだけあって、どこか大人びた笑顔というか……可愛いというより綺麗な笑い方だな。

そんなことを思いながらなまえの笑顔をじっと見ていたら、何を勘違いしたのか。彼女は持っていた弁当を軽く持ち上げて「食べる?」と俺に尋ねてきた。



「!いいのか。」

「もちろん。むしろ、勿体無いし食べてもらえると嬉しいな。」



そう言って、ニコッと微笑むなまえ。きっと俺が弁当を食べたがっているように見えたんだろう。実際、そんなつもりはなかったんだが。ーーいや、しかしこれは嬉しい勘違いだ。

俺は礼を言って、なまえから弁当を受け取った。彼女の料理を食べるのは随分と久々で自然と心が弾む。彼女の料理が絶品だということは、この前夕食をご馳走になったときに立証済みだ。

腹も減っているし、ちょうど良い時間だったので、さっそくそれを頂こうと俺は弁当包みを解く。歌川の羨ましげな視線には気づかないふりを決め込み、蓋を開ければ、彩りも栄養のバランスもよく考えられた美味しそうな料理がそこに綺麗に収まっていて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。




___________


(歌川side)



「な、なんでお姉ちゃんが…!いや、それよりもなんで風間さんが私の弁当を食べてるんですか?!」


「歌歩おかえり。」

「おかえりなさい。」

「あ、ただいま。……じゃなくって!!!」



コンビニの袋を片手に帰ってきた三上さんは、風間隊作戦室になまえさんがいることと、風間さんが三上さんの弁当を食べていることに驚き、声を上げた。俺の隣にいた菊地原は、迷惑そうに両耳を手で塞いでいる。

なまえさんは苦笑を浮かべながら事情を説明した。



「歌歩、テーブルの上にお弁当忘れて行っちゃったから届けに来たんだけど……間に合わなかったみたいだから、風間くんに食べてもらってたんだよ。」

「三上、よくやった。」



グッジョブ、と親指を立てた風間さんに対し、三上さんは「風間さんに褒められるのは嬉しいけど、これは嬉しくない…。」と複雑な心境を声に出した。ご愁傷さまです。



暫くして、見事綺麗に弁当を完食した風間さんは、とても満足そうな表情で。なまえさんに「うまかった。」と言って、空の弁当箱を返す。すると、彼女は「お粗末さまでした。」と嬉しそうに笑った。

こうして見ると、二人は恋人同士……というか新婚夫婦みたいで。よく諏訪さんなんかは『リア充爆発しろ』なんて呟いているけれど、実際この二人は付き合ってもいないらしい。何故、付き合っていかいのか逆に不思議だ。


長居は悪いからと作戦室から退出しようとするなまえさんを呼び止めて、風間さんは言った。



「今度、お礼に何か奢ろう。」

「えっ、いいよ。そんなお弁当くらいで、」

「だが、お前にはいつも世話になってるだろう。今回のことを除いても、俺はお前に義理を果たしたい。」


 
さすが、風間さんだ。受けた恩に報いる律儀な性格を俺はとても尊敬している。真剣な表情でそう言う風間さんに、なまえさんは少し考えてから「それなら、」と口を開いた。



「確か風間隊は午後から防衛任務入ってたよね。何時に終わるかな?」

「?17時には終わるが、」

「じゃあ、その後もし時間があったら模擬戦してくれないかな?お礼ならそれで良いから。」


「……模擬戦?そんなものでいいのか。」

「うん。最近何かと予定あわなかったし、風間くんと最後にやったのはだいぶ前でしょ?私、あれから沢山練習して、前よりずっと動けるようになったんだから。」



「きっと、風間くん驚くよ。」と悪戯っ子のように笑うなまえさんに、風間さんはフッと笑みを浮かべ「それは楽しみだな。」と言った。

気づけばそこには二人だけの空気が流れていて、何だかむず痒いなとオレは視線をそらす。
すると、さっきの落ち込みようは何だったのか。目をキラキラ輝かせながら二人を見つめる三上さんと、勝手にやってろとばかりに無表情で自分の弁当を黙々と食べる菊地原がいてーーー俺は思わず苦笑を浮かべた。


よし。時間が無くなってしまう前に、俺もさっさと昼食をとるか。





「それじゃあ、みんな防衛任務頑張ってね!お邪魔しましたー。」



なまえさんが手を振りながら作戦室を出て行くと、風間さんは当初食べるはずだった弁当を持って、自分の席に腰を下ろした。まあ、三上さん用に作られた弁当サイズでは、風間さんの腹を満腹にすることは不可能だろう。

皆、それぞれ自分の昼食をとっているこの作戦室には、暫し沈黙が流れる。しかし、それを破ったのは意外にも風間さんだった。



「…なまえの弁当食べた後は、他のものは食べれないな。」



菊地原のサイドエフェクトを使わずしても、その声はしっかりと俺達の耳に届いて、そのとき三人の思考は見事に一致した。




(((舌が肥えてる…)))



どうやら、風間さんの胃袋はすっかりなまえさんに掴まれてしまったみたいです。さっさと結婚してください。俺達は顔を見合わせて、プッと吹き出した。


_______



ボーダー隊員設定を全然うまく生かせなくて、本当に申し訳ありません。でも、本部に忘れ物を届けたり、模擬戦の約束をさせたり、と普通できない行動をとらせるのはとても楽しかったです。素敵なリクエストをありがとうございました。


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