「ゆうちゃん!私、購買に行ってくるね。」

「あれ?なまえ、今日はお弁当じゃないの?」

「お弁当だよ。でも、学校終わったらそのままボーダー本部行くつもりだから、間食用に買っとくの。」

「なるほどね。行ってらっしゃい!」



ゆうちゃんに見送られて、私は教室を飛び出した。
購買のパンはとっても美味しい上に、学生に優しいお値段だから、すぐに売り切れてしまう。急がなくっちゃ…!私が狙っているのは、中でも大人気なメロンパンとクリームパンだ。

途中で先生に「廊下を走るな、みょうじ!」と怒られてしまったので、私は超早歩きで購買へ向かった。





三輪くんと玉狛の女の子





ふう。何とか買えたよ!メロンパンとクリームパン!!!
あんなに行列ができてたから、これは買えないんじゃないかと思って焦ったけど……まさか、ラスト1個だけ残ってるだなんて!今日はついてるかもしれない。

私は、ランラン気分で廊下を歩く。だが、途中でピタリと足を止めた。


…そういえば、持ってきてた飲み物さっき全部飲み終わっちゃたんだよね。ついでに飲み物も買っていこうかな?

くるり、と方向転換した私は、また購買の方へ足を向ける。きっと、ゆうちゃんは先に食べているだろうから、別に急がなくても問題ない。私は気分が良かったので、鼻歌交じりで歩き出した。



購買に着くと、もう人は全然いなかった。さっきまであんなに沢山いたのに、と私は目を丸くする。
見ると、購買のパンはそこに1つも残っていなかった。どうやら全部、売り切れたらしい。昼休みに入って、わずか5分で完売になるなんて……恐るべし、購買のパン!!

そういえば、最近小南ちゃんがメロンパンにはまってるって言ってたなー。よし、今度小南ちゃんと宇佐美ちゃんと、ついでに陽太郎の分も買って、彼女たちに我が校自慢のパンを食べさせてあげよう。
そんなことを考えながら私は、購買のおばちゃんの元へ向かった。



「すみません。苺ミルクください!」

「はいはい、100円ね。」



私は財布から100円出して、代わりに苺ミルクとストローを受け取る。苺ミルクは冷えてきっていて、とっても気持ちいい。あー早く飲みたいなぁ。

さあ!教室に戻ろう、と足を向けたとき。購買にやってきた男子とおばちゃんの会話が聞こえてきて、私はそちらに目を向けた。



「ごめんね。今日のパンは全部、売り切れちゃったのよ〜。」

「……そうですか。」



おばちゃんにそう言われ、しょぼんと落ち込む男子。もしかして、お弁当持ってきてないのかな?……てか、あれ?あの男子って、もしかして………あ、やっぱり!



「三輪くんだ!」

「は?……お前は玉狛の、」



私が彼の名前を呼ぶと、三輪くんはすぐに此方へ振り向いた。そして私が玉狛の人間だと認識した途端、キッと私を睨みつける。……あはは、ですよねー。


三輪くんは、同じボーダーの人なんだけど……私が玉狛の人間だからって、一方的に嫌われちゃってるんだよね。せっかく同じ高校なんだし、私は仲良くしたいんだけど……。
あ、ちなみに彼の一番仲が良いと思われる米屋くんとはよく話すよ。なんと、米屋くんは宇佐美ちゃんの従兄弟なんだって!世間は狭いね!……って今はそんな話どうでも良くって、



「三輪くん。お弁当忘れちゃったの?」

「……お前には関係ない。」


「う、うーん…確かに私には関係ないんだけどさー。」



プイッと他所を向く三輪くんに、苦笑を浮かべる。彼の玉狛嫌い…いや、近界民嫌いは相当だな。まあ、そうなるのは仕方ないか。

私は、自分の持っていた袋に目を落とす。中には間食用に買ったメロンパンとクリームパンが入っている。……昼食とらなかったら、きっと午後とか辛いよね。三輪くんはどうだかわかんないけど、男子高校生は食べ盛りなわけだし。


私は、「三輪くん、」と名前を呼ぶ。すると、三輪くんは眉間に皺を寄せ「…なんだ。」と返事をする。無視しない辺り、彼は律儀だ。私は、彼に持っていた袋を差し出した。



「これ、あげるよ。」

「なんだこれは…」

「メロンパンとクリームパン。」

「……………。」


「あ、やっぱりこれじゃ足りないかな?でも、ごめん。私、これしか持ってないの。」



何も言わない三輪くんに、私は不安げな顔をする。もしかして、甘いもの嫌いなのかな?…そうだったら、どうしよっかな。
袋を差し出したまま困っていると、三輪くんがやっと口を開いた。



「………お前の昼食は?」

「私?私はお弁当持ってきてるから大丈夫だよ!それは、間食用に買ったの。だから、気にしないで貰って?」

「………玉狛の人間から貰うなんて、」


ぐーーーっ


「…………。」

「…………。」


「ほら、素直に貰ってよ。」



そう言うと、三輪くんは少し難しい顔をしてから、渋々私の袋を受け取った。それにホッとした私は、胸を撫で下ろし微笑む。

「じゃあ、私行くね。」と彼に背中を向けた私は、ゆうちゃんが待っているだろう教室の方へ歩き出した。三輪くんがその後ろ姿を何か言いたげに見つめていることなど知らぬまま。





その日、学校を終えボーダー本部へ行くと、たまたま本部に来ていた迅に会った。
「迅が本部にいるなんて珍しいね。」「あはは、ちょっと呼び出されちゃって。」「また何かしでかしたの?」なんて話をしながら長い廊下を歩いていると、後ろから「おい。」と声をかけられた。迅と揃って振り向けば、あら珍しい。



「三輪くん!」

「へえ。秀次から話しかけてくるなんて珍しいなぁ。」


「……迅。お前に用はない。」



三輪くんは迅を睨みつけそう言うと、私の方へ視線を向けた。三輪くんが私に用事?一体何だろう?首を傾けると、三輪くんは私にコンビニの袋を押し付けてきた。



「玉狛の人間に借りなんて作りたくないからな。」



それだけ言って三輪くんは、後を返していった。

私が突然のことに呆気にとられていると、「なに貰ったんだ?」と迅が聞いてくる。ハッとして袋の中に目を向けると、そこにはコンビニで売ってるメロンパンとクリームパン。それから、私が昼食に買っていた苺ミルクが入っていた。三輪くん、私がこれ買って飲んでたの覚えてくれてたんだ。やばい、すごく嬉しい…!


もうだいぶ遠くに行ってしまった三輪くんに、私は大きな声でお礼を言った。



「三輪くん、ありがとー!」



すると、三輪くんはチラッと私を見てから、また前になおり歩き出した。その耳は少し赤い。
私は、後で大切に食べようと貰った袋を抱え直した。


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