「星空、ですか?」

『そう。秀次と見に行きたいの。』



『お願い!』と手を合わせるお姉さんに、私は「やれるだけのことはしますけど……」と曖昧な返事を返す。お姉さんの2つ目の願いは、三輪と星を見に行くことだった。



「でも、秋の星空ってあまり明るい星とかないじゃないですか。それで良いんですか?」

『あら、秋の夜空だって素敵よ?ペガススの四辺形やカシオペア座、秋の天の川なんかも見られるし、アンドロメダ姫やペルセウス王子みたいな神話に登場する星座が見られるんだから。』


「へえ。随分とお詳しいんですね。」



花といい、星座といい、まるで歩く辞書のようにペラペラと説明するお姉さんにそう言えば、彼女はくすくすと笑った。



『花も星座も大好きだもの。もちろん、秀次もね。』

「……。」


『なまえちゃんは、何か好きなものとかないの?』

「………私は、」

 


私はーー





三輪と霊感少女と05





「「はあ?星を見に行きたい??」」



昼食をとっていた米屋と出水にそう言えば、2人はとても驚いた顔をした。なによ、その顔は……。私が眉間に皺を寄せると、出水は表情をそのままに口を開いた。



「なんだよ、急に。秋の星空見たいとか、お前そんなロマンチストだったか…?」

「なんでも二言目には『面倒くさい』『自分には関係ない』『帰りたい』とか言うお前がなー。明日は空から槍でも降るんじゃね?」

「………うっさいわね!私もたまにはロマンチックなことに憧れるのよ。いいから、付き合いなさいよ!今夜!!今日は貴方達、防衛任務とか入ってないでしょ?」



やけになった私がそう言うと、「まあ、いーけど」と2人は軽く了承してくれた。しかも、なんだかんだ言ってイベント好きな彼らは「月見だんご用意しねーと!」「望遠鏡とか必要?」と早速そのことについて盛り上がり始める。
こういうノリの良い所は、彼らの長所だ。……お月見するわけじゃないんだけどね。



「じゃあ、三輪も誘っておいてもらえる?」



私が付け足すようにそう言うと、2人はまた目を丸くした。



「は?秀次も誘うのかよ。」

「三輪はぜってー来ねぇだろ。」



出水の言うとおり、私も三輪は来てくれないんじゃかいかと思う。しかし、今回は三輪が来てくれないと意味がないのだ。
「誘うのは良いけど、どうせ断られるぜ?」とケラケラ笑う米屋に、私は、「お願い!」と軽く頭を下げた。三輪と仲の良い米屋だけが頼りなんだ。



「どうにかして三輪を連れてきて!」   



そんな私の真剣な声に、米屋は笑うのをやめ、困惑した表情を見せる。すると、出水が首を傾げながら、訝しげに尋ねてきた。



「……いや、なんでみょうじはそこまでして三輪を誘いたいわけ?」

「それは、その……。」

「え。まさかお前、三輪のこと好きなのかよ。」

「はあ?!違うわよ。そんなはず無いでしょ!」

「じゃあ、なんでだよ。」

「………。」

「今日のお前、なんかおかしいぞ。」



怪訝な瞳にまっすぐ見つめられ、私は決まりが悪そうに視線を逸らした。A級1位部隊に所属するこいつはなかなか鋭くて嫌だ。模擬戦をやるにしても、こいつの鋭い洞察力と直感は恐ろしく、流石は天才シューター。いつも危ないところまで攻められる。……まあ、私の方が強いけど。


しかし、一体どう説明しよう。私と三輪は今までなんの関わりもなかった上、所属している派閥は敵対関係にある。それなのに、突然三輪を誘ってくれだなんて、怪しまない方がおかしい。
まさか、死んだ三輪のお姉さんから頼まれました、なんて言えるはずもないし。どうしようか。

眉尻を下げ、困った表情を浮かべる私を見て、口を開いたのは米屋だった。



「……まあ、良いんじゃね?大勢のが楽しいし、秀次だけじゃなくて奈良坂とかも呼ぼうぜ。つか、17歳組で月見パーティーとかどうよ。」

「はあ?17歳組って……例えば誰だよ。」

「んー、辻、三上、熊谷とか?仁礼なんかも誘ったら来るだろ。」

「ぶはっ、女ばっかだな!」


 
女ばかりを例に挙げる米屋に、出水がケラケラ笑いだす。先程までの張り詰めた空気が嘘のように和らいだ。私は、ほっと息を付き、「ありがとう」と米屋に礼を言う。出水もそれ以上深追いすることはなかった。


_________



「辻は防衛任務あっから無理っぽいけど、奈良坂や熊谷達はオッケーだと。」

「よし!じゃあ、秀次は俺が引きずってでも連れていくから、みょうじは月見だんご頼むぜ!」

「了解。それじゃあ、今夜7時に。」



みょうじはそう言うと、自分の席へと戻っていった。俺はそれを確認してから、前の席でパック牛乳を飲んでいる槍バカをジト目で見つめた。



「ほんと、お前ってみょうじに甘いよな。あいつがなんであんな三輪を呼びたがってたのか気になんねーの?」



すると、槍バカはストローから口を離し、「まあ、確かに気にはなるけどよ」と頬杖をついて言った。槍バカの視線の先には、待たせていた友達と食事を始めるみょうじがいた。



「みょうじが何も聞かずに三輪を連れてきてほしいって言うんなら、そうした方が良いと思ってさ。」

「だから、なんで?」

「……俺さ、あいつは迅さんみたいなサイドエフェクト持ってんじゃねーかって思うんだよ。」



槍バカのその言葉に、俺は目を丸くする。迅さんのサイドエフェクトって、あの未来予知だよな?それを、あいつが……?
そんなまさか、と俺が声を出すより先に、槍バカは目を細めながらそう思ったきっかけを話し始めた。



「弾バカ、俺のばあちゃん覚えてるか?」

「……ああ。あのよくミカンくれた優しいばあちゃんだろ?お前がよく懐いてた。ーーー確か、半年前に亡くなったって聞いたけど、」

「そうそう。まあその前から入院してて、医者からもう長くないって聞かされてたんだけど……前日に見舞い行ったときは元気そうだったし、きっとまだ大丈夫だろうって思ってたんだよ、俺は。
けど、あの日……学校終わって、これから防衛任務ってときにさ。みょうじが俺を見て言ったんだよ。"今すぐ病院行って。じゃないと一生後悔する"って。」 

「え……。」

「防衛任務あるって言ったら自分が代わるとまで言ってきてさ。よくわかんなかったけど、あいつ真剣な顔してるし、これはタダ事じゃないのかもと思って、秀次に断り入れて病院へ向かったわけよ。 
……で、病室着いたら、普通にばあちゃんがいるじゃん?なんだよ、生きてんじゃんって俺ほっとしてさ。そのままその日はばあちゃんとお喋りして、面会時間ギリギリに帰ろうとしたんだ。

そしたら、ばあちゃんがさーー



『いつもお見舞いありがとねぇ。陽介は明るくて、優しくて、一生懸命で……とってもいい子に育ってくれてばあちゃん安心したよ。』

『……なんだよ、急に。照れんじゃん。』

『ふふ、いつまでもそんなお前でいておくれ。お前はばあちゃんの自慢の孫だからねぇ。』



ーーそれが、ばあちゃんと交わした最後の会話だった。その日の夜、ばあちゃんは死んだ。」

「………。」

「俺さ、最後にばあちゃんと会話が出来て、ほんと良かったって思ってんだよ。あのまま防衛任務に行ってたら、きっと疲れて見舞いは行かなかっただろうし。……だから、みょうじには感謝してるわけ。」



槍バカがフッと笑う。話を聞き終えた俺は、休めていた箸を使い、好物のエビフライを口に入れた。


 
「へえ。確かに迅さんのサイドエフェクトみたいだな、それ。」

「だろ?だから、なんかみょうじの言うことは聞いといた方が良い気がすんだよ。みょうじのためにも、秀次のためにも、さ。」

「……なーんか気になることが増えたって感じがするけど、わかった。何も聞かずに協力してやるよ。」



俺がそう言うと、槍バカは「さんきゅ、」と、歯を見せて笑った。


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