※捏造注意/三輪のお姉さんが出てきます。
私には霊感がある。幽霊を見たり、金縛りにあったり、たまに予知夢を見たりもする。
もしかしたら、これも迅さん達が持つようなサイドエフェクトなのかもしれない。幽霊が見えるサイドエフェクト、とかありそうだし。
まあ、例えこれがサイドエフェクトであったところで戦闘が有利になるわけでもないし、誰かの役に立つこともない。むしろ、周りからは気味悪がられるだけの迷惑な力だ。
だから、私に霊感があることは家族と私が所属している玉狛支部の人達以外、誰にも教えていなかった。
三輪と霊感少女と 「お、みょうじが本部にいんの珍しいな!」
「よしっ、久々にバトろうぜ!」
「黙れ戦闘バカ共。今日は書類届けに来ただけよ。もう玉狛に戻るわ。」
本部での用事も終わり、さっさと玉狛へ帰ろうとしていたとき、最悪なタイミングで米屋と出水に鉢合わせ、当然の如くランク戦のお誘いを受けた。あーあ、今日はツイてない。
私はけんもほろろに断ったが、2人は「10本だけだから!」と食い下がり、無理やり私をブースへ連れ込もうとした。
「あーもう、しょうがないわね!5本ずつよ。いいわね?」
「「っし!」」
この2人はきっと何を言っても聞かないだろう。そう判断した私は、仕方なく彼らの相手をしてあげることにした。あとで絶対にジュース奢ってもらおう、と心に決めて。
「……あれ?今、三輪もランク戦してるの?」
三輪とB級隊員がランク戦しているのに気がついた私は、足を止めてモニターに映る彼をじっと見つめる。
私はあまり本部に顔を出さないので、彼が戦っている姿を見るのは随分と久しぶりのように感じた。すると、私の隣りにいた米屋が手を頭の後ろで組みながら口を開いた。
「あぁ、そうそう。珍しくな〜。」
「でも、俺達とはやってくれねぇんだぜ。」
「当然。あんた達とやると長いし、疲れるもの。」
口を尖らせる出水に溜息をつきながら、ふと私は観戦席の方へ目を向ける。すると、そこには綺麗な黒髪の女の人が座っていて、三輪の対戦をただずっと切なげに見つめていた。
ああ、またあの人だ。私はすっと目を細める。実を言うと、その女性を見るのは今日が初めてのことではなかった。学校やボーダー本部、三輪のいる場所の近くには必ずと言っていいほど彼女がいた。
そして、どうしてか。三輪を見る彼女の瞳は、いつだって切なげに揺れているのだ。そんな悲しそうな表情を浮かべて、彼女は一体何を思っているんだろう。その姿を見かけるたび、私はそんなことを考えていた。
ーー彼女は生きている人間ではない。それは、彼女を初めて見たときからわかっていた。
三輪に対して憎悪の念は抱いてないし、目の色や髪色からしてきっと三輪の姉か母親か。はたまた親戚の誰かなんだろう、と推測する。
私は三輪と同じ高校に通っているが、それほど仲が良いわけでもないから(むしろ私が玉狛の人間だからと一方的に嫌われてる)、三輪と彼女の関係がどういったものかはわからない。
けれど、三輪が大切な人を近界民に殺され、復讐するためにボーダーに入った……という噂は何度か耳にしたことがある。きっと、その大切な人というのが彼女なんだろう。
何かこの世に心残りがあるのか、三輪のことが心配なのか、それとも復讐なんてやめてほしいのか。例え、彼女がどんな理由でこの世に留まっていようが、私には関係のないことだ。
いちいち他人の事情に首を突っ込んだりするほど私は暇じゃないし、できた人間でもない。薄情な私はその女性からさっさと目を逸らし、米屋達とランク戦するためにブースへ足を運んだ。
「あ、」
米屋と出水とそれぞれ5本勝負した後、さらに運悪く緑川に捕まり、また5本やり終えた後にはもうすっかり空は暗くなっていた。……本当はもっと早く帰る予定だったのに、三バカ共め。もう次は絶対に誘いに乗ってやんない、と私は決意を固めた。
「遅いし、玉狛まで送ってやるよ」と言った米屋は、帰る準備をしに作戦室へと戻っている。ちなみに、出水はこれから防衛任務らしい。
1人暇になってしまった私は仕方なく自動販売機の隣にあるベンチに腰を掛け、米屋が戻ってくるのを待っていることにしたーーのだが、
そこには既に先客がいた。
(三輪に憑いてる人だ……。)
あの女性がベンチに座っている。珍しいことに、彼女の近くに三輪の姿はなかった。こんなところに1人で一体何をしてるんだろうか。
私はどうしようか少し迷ったが、彼女の隣にゆっくり腰を下ろした。彼女は私が座ったことに気づいてないのか、それとも気づいていて無関心なのか。特に何の反応も見せず、ただぼーっと宙を見つめている。まさに心ここにあらず、といった様子だ。
私はそのとき、初めて彼女に声をかけてみようと考えた。なんとなく、そういう気分になったのだ。
「三輪くんはどうしたんですか。」
声をかけたと言っても、視線は自分の足元のまま。ぽつりと呟いたその一言に、隣りの彼女は目を大きく見開き、ばっと勢いよく振り向いた。
『あ、あなた!私のことが見えるの…?』
「ええ、まあ。」
なんとも曖昧な返答。しかし、彼女はどこか嬉しそうに『……そう、そうなの』と頷いた。三輪と容姿は似ているが、彼と違って表情豊かな人らしい。彼女は優しげな笑みを浮かべながら口を開いた。
『秀次はね。今、会議に出ているの。』
「ついていかないんですか?……いつもは傍にいるのに。」
『うん。ちょっと、1人で考え事したくなってね。』
「そうですか。」
何を考えていたか、なんて深くは追求しなかった。無愛想だと思われるかもしれないけれど、死者の悩みごとなんて自分が聞いてどうにかなるものじゃないから。
薄情な人間だということは自分でもよく理解していた。しかし、私が素っ気ない態度をとっても気にした様子はなく、優しげな視線のまま彼女は言った。
『……あなたは確か、秀次と同級生のみょうじさん、よね?米屋くんと仲が良い。』
「はい。みょうじなまえです。三輪くんには嫌われちゃってますけど、彼と同じ高校のA級隊員です。あなたは……三輪くんのお姉さんですか?」
『そうよ。』
三輪のお姉さんは頷き、ニコッと綺麗に微笑んだ。姉弟揃って美形で羨ましい。
『なまえちゃんと呼んでもいいかしら?』と尋ねてきたので、私は「どうぞ」と短く答える。彼女はなかなかフレンドリーな人で、こういうところも弟と似ていないな、と少し笑みが溢れた。
『ねえ。秀次のこと、嫌わないであげてね。』
『あんな態度をとってるけど、本当は優しい子でね。とても頑張り屋で、正義感が強くて、あれでも自慢の私の弟なのよ。』お姉さんは困ったように、でもどこか誇らしげに、愛しい者を見つめるような目でそう言った。
それに対して私が何か言う前に、米屋が「おーい!」と手を振りながら駆けてきて、私はそちらへ視線を向ける。
「悪い。遅くなっちまった。」
「いいよ。別にそんな待ってないし。」
「そんなら良かった。んじゃ、帰ろうぜ。」
「……うん。」
チラッと隣のベンチに目を向けるけれど、そこにはもう三輪のお姉さんの姿はなくなっていた。きっと、三輪のところへ行ってしまったんだろう。
「どうした?」と首を傾げる米屋に、私は「ううん、何でも」と言って、彼の隣に並び帰路に着いた。
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続きます。
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