“マリー”様。入間様のお話に度々ご登場されるそのお方は、入間様の双子の妹君であられる。入間様のお話によると、マリー様も今年度バビルスにご入学されたのだが、まだ一度もご登校されたことはないそうだ。恐らく私などには計り知れぬ、何か深い事情がおありなのだろう。
お会いしたことがなくとも、私には確信があった。マリー様も入間様に似て、気高く美しくお優しく、かつ実力も兼ね備えた方に違いない、と。なんといったって入間様の妹君なのだ。いつかマリー様がご登校された日には、入間様の『おトモダチ』として、一番にご挨拶に伺わなければ。
……そう、思っていたのに。マリー様の初登校日、私は挨拶するタイミングを尽く逃し(一応ご挨拶はしたのだが、マリー様は入間様に抱きつかれたまま無反応であられたため、それはノーカウントとなる)、そのまま授業が始まってしまった。
飛行レースの一位を独走しつつ、妹君にいつご挨拶したらいいかと考えていると、いつの間にやら背中に乗っていたウァラクが「あれ、マリちじゃない?」と上空を指差す。そんなまさかと顔を上げれば、そこには私より上空を高速で飛行する怪鳥と、その怪鳥に咥えられたマリー様がいらっしゃった。
「っ、怪鳥如きがマリー様に何たる無礼な…!」
“
極上の業火”
マリー様には決して当たらぬよう細心の注意を払いながら攻撃を仕掛ければ、怪鳥はマリー様を口から離し、慌ててどこかへ飛んでいってしまった。くっ、逃してやるのは癪だが、マリー様の安全が最優先だ。落下していくマリー様を急いで抱き留めれば、マリー様は宝石のように美しいその瞳に私を映し、「ひえ」とこれまたお可愛らしい声をこぼされた。
入間くんの妹はビビリ魔03「お初にお目にかかります。私はアスモデウス・アリス。入間様の『おトモダチ』にございます。どうぞ、アズとお呼びください!」
「あ、アズくん…。あの、さ、さっきは助けてくれてありがとう……ござい、ます。」
「敬語はいりませんよ、マリー様。お役に立てて光栄です。」
全ての女性を虜にしてしまうような美しい笑みを浮かべた彼は、アスモデウス・アリス。通称アズくん。そして、隣りで「マリちびゅんびゅーんってアズアズより速かったね!私もアレ乗ってみたい!」と騒いでいる子がウァラク・クララ。二人は入間の『おトモダチ』であり、周りは彼らをセットで『入間軍』と呼んでいるらしい。
二人の話は入間からよく聞いていたけれど、なんというか……彼らは聞いていた以上に個性が強く、変わり者な悪魔達だった。入間の『おトモダチ』なだけあって、悪い悪魔ではないと思うんだけど…。片やなぜか入間のことを崇拝してるし、片や一方通行なマシンガントークで全然会話してくれないし。うーん、どう接すればいいのやら。
とりあえず、敬称も敬語もいらないと伝えてみたけれど、「入間様の妹君にそんな畏れ多いことはできません!」と瞬殺で断れてしまった。解せぬ。
怪鳥から救出してもらった後、私はアズくんに手を引いてもらいながら飛行し、無事にゴールまだ辿り着くことができた。しかも、なんと私が1位だという。そんなバカな。手を引いてくれた上に、着陸のタイミングをずらし、1位の座まで譲ってくれたアズくんに「さすがです、マリー様!」と心から称賛されて、私は一瞬スペースキャットになった。
いやいや、こんな接待プレーを許していいんですか先生!! 私の視線を感じ取ったカルエゴ先生は「運も実力のうちだからな」と溜め息まじりに答える。怖いけど、なんだかとても苦労してそうな先生だ。
一方、入間はというと、なんとあの金剪の『長』の背に乗せてもらってゴール。最下位ではあるものの、周りからは一目置かれる結果を残した。いやいや、一体どうしたらそうなるの!?詳しい経緯を聞きたかったけれど、私は入間と一緒に居た背の高いクラスメイト(確かサブノックと呼ばれていた)にビビってしまい、なかなか彼に近づくことができないまま、
位階発表へと移った。
そして、私は
“3”のバッヂを引き、どういうわけか入間は『悪食の指輪』を引き当てるのだった。
「私が
“3”なんて不相応過ぎる…!」
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