「前回の召喚試験とこの授業の結果で貴様等の位階ランクを決定する。内容は谷奥の旗までの競争だ。無数にそびえる巨大な岩山と巣を守る怪鳥を避けて進め。」


カルエゴ先生に連れられて、私達問題児アブノーマルクラスは学校裏の高台へと移動した。どうやら最初の授業はここで飛行レースを行うらしい。
正直なところ、私は飛ぶことがあまり得意ではないし、そこらの悪魔より魔力も少なければ体力もない。だから、上位を目指すなんてことは一切考えていなかったし、無事に入間と一緒にゴールさえできれば満足だった。

それにしても何故だろう。あの教室でクラスの人達と対面してから、先生がルール説明をしている現在もずっと誰かに見られている気がする…。そりゃあ、初対面があんなだし、変な子だと思われても仕方ないと思う。でも、問題児アブノーマルクラスは変人達の集まりで、私より目立つ人はたくさんいるし、地味で面白みのない私なんてすぐに飽きてしまうだろうに。一体この視線は何なのだろうか。
そんなことを考えてる間に、ルール説明は終わっていたらしい。カルエゴ先生の「総員準備!」という声を合図に、生徒達はそれぞれの位置につき、自身の黒い翼を広げる。それを見た私も慌てて背中から翼を取り出して、飛び立つ準備を整えた。よし。とりあえず今は目先のレースだけに集中しよう。

このとき、私は知らなかったのだ。人間には悪魔のような翼がなく、入間は空を飛べないということを。


「位置について、用意スタート!!」



入間くんの妹はビビリ魔03



「嘘でしょ、さっそく入間と逸れちゃうなんて…。」


ノロノロと飛行しながら周りを見渡すも、入間の姿はどこにもない。というか、この辺りを飛んでいるのは私だけのようだ。これはもしかしなくても、私が最下位で間違いないだろう。
でも、仕方ない。なんてったって久しぶりの飛行だ。その上、この谷は恐ろしい怪鳥達が飛び回っている。きっと怪鳥達を避けて、遠回りしながら飛んでいるのなんて、私くらいだろう。はあ…、ビビリな自分が情けない。

コース案内の標識を見つけた私は、その通りに右折する。今はコースのどの辺にいるのだろうか。あー…もうさっさとゴールして家に帰りたい。
そう考えていると、ビュウビュウと強風に煽られ、私は吹き飛ばされそうになるのを崖を使って何とか耐え凌いだ。今日はとても風が強い。
カルエゴ先生が「金剪の『長』の気が立っている」と話していたが、それと何か関係があるのだろうか。せっかくオペラが可愛くアレンジしてくれた髪も、今ではすっかりボサボサで台無しになってしまっていた。


「入間…無事にゴールしてるといいけど。」


人間のことはあまり詳しくないけれど、悪魔よりも脆く儚く繊細なのだと聞いたことがある。入間は大丈夫なんだろうか。彼の身を案じつつ、次の標識が設置された地点に差し掛かろうとした、そのときーー
再び強い風が吹き荒れ、私はその場で踏んばった。すると後ろから物凄いスピードで飛んできた怪鳥に、なぜか制服の後襟をパクリと食べられてしまった。え、と目が点になる。


「うええええええ!!?」


怪鳥は私を咥えたまま、その強風に乗って加速する。幸いまだコースから逸れてはいないが、このままではどこに連れて行かれるかわからない。……いや、恐らく目的地は怪鳥の巣だと思うけど。
まるで絶叫マシンに乗っているかの如く悲鳴を上げていると、いつの間にか後ろの方を飛んでいた問題児アブノーマルクラスの人達のもとまで追いついたらしい。「誰か助けてええ!」と必死で叫ぶも、強風で声が届いていないのか。私に気づいた彼らは「あら、速いわね」「さすが入間くんの妹!」と何やら盛り上がっている。手を振って助けを求めても、なぜか笑顔で振り替えされ、私の悪魔不信はさらに高まった。やっぱり悪魔は苦手だあああああ。

私がどんなに抵抗しても、怪鳥はどんどん先に進んでいく。このまま行けばコースからも外れてしまうだろう。こうなったら最終手段を使うしかない。ーーそう思ったときだった。

私の視界に、美しい炎が映りこんだ。


「え、」


渦巻いた炎は、絶妙なコントロールで私を避けて怪鳥のみを攻撃する。その攻撃に驚いた怪鳥は、私を口から離すと慌ててどこかへ逃げていく。そして、突然のことに反応できず、そのまま落下した私を抱き留めたのは、ビックリするくらいの美形男子だった。


「お怪我はありませんか?マリー様。」

「ひえ、」


ま、眩しい…。キラキラした顔が間近にあって、私の口からまた情けない声が漏れる。こんなイケメンに助けてもらうなんて、私ってば前世でどれだけの徳を積んだのだろうか。
つい彼の容姿に見惚れていると、「私もいるよー!」とイケメンくんの背中からクララが顔を出す。その突然のことに驚いた私は、再び落ちそうになったが、イケメンくんが何とか堪えてくれて助かった。ああ、もうずっと心臓がバクバクしてる。やっぱり、外の世界は危険がいっぱいで、命がいくつあっても足りないと思った。

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