外の世界はとても危険で溢れている。悪魔の殆どは自身の欲望に忠実で、それを満たすためなら息をするように嘘を吐くし、容易に相手を陥れようとする。そして、強者は力を誇示し、暴を以て弱者を支配する。大人も子供も、男も女も関係ない。勝てば官軍、負ければ賊軍。
そんな冷酷で非道な行為こそが正しいとされるのが魔界であり、私のような……引き篭もりで落ちこぼれの弱者代表みたいな悪魔が真っ当に生きていく術はない。
そう、いつ死ぬかもわからない。ゲームみたいにセーブしてもう一度やり直す、なんてこともできない。恐ろしい魔獣だっている。そんな危険と隣り合わせの世界に、誰が進んで足を踏み入れようか。いや、踏み入れるはずがない!!
だって自宅にいれば、美味しいご飯にぽかぽかお風呂、夜はあったかい布団で寝れるわけだし。ゲームさえあれば、退屈することもない。この家に私を傷つける悪魔なんてどこにもいない。十分じゃないか。それでいいじゃないか。私はそんな安心安全な、変わりのない日々を望んでいた。

なのに、どうして…。


「この子が新しく僕の孫になった入間くん!いやー実は僕、男の子の孫も欲しかったんだよね〜。マリーちゃんとは双子の兄妹ってことにしとくから、よろしくねー!」

「え、えっと…初めまして、入間です。その、よろしくお願いします…?」

「入間様は人間であられますので、魔界の知識は赤子も同然。ですから、マリー様からもいろいろと教えて差し上げてください。」


人間の双子ができるなんて、そんなアブノーマルな展開ありますか???



入間くんの妹はビビリ魔01



鈴木入間、14歳。両親に売られ、悪魔サリバンさんの孫となった僕は今、魔界で流行りの対戦ゲームで女の子と遊んでいます。
「食らえ!必殺デビデビ波ぁーー!!」と隣りで叫んでいる彼女の名前は、マリー。サリバンさん、もといおじいちゃんの孫娘で、僕と歳が同じだから、僕達は双子ってことになるらしい。

マリーは人見知り(?)のようで、出会って間もない頃はそれこそ会話もできないくらい酷く怯えられていた。でも、彼女は思ったよりもすぐに僕に心を開いてくれて、これにはオペラさんも「ビビリ魔なマリー様が珍しい」と驚いた様子だった。
彼女曰く、「入間は人間だし、無害そうだから平気」らしい。イマイチよくわからなかったけれど、僕はずっと独りっ子だったから、悪魔といえど可愛い妹に懐かれて嬉しくないわけがなかった。
マリーはちょっと臆病な性格だけど、好きなものを語るときは目をキラキラさせてて可愛いし、情に脆くて泣き虫だったり、結構負けず嫌いだったり、コロコロと変わる表情は普通の人間の女の子のようだった。

画面に出たWINという文字に満足気な彼女は、次はどこで対戦しようかとステージを選んでいる。すると、夕食の片付けを終え、部屋に入ってきたオペラさんが「そろそろ就寝の時間ですよ」と僕たちに告げた。


「えー、もっと遊びたかったのに!ねえねえ入間、明日は学校で何をするの?早く帰ってくる?」

「えっと、明日はクラス発表があって、それから確か……」


僕はアズくんに聞いた明日の授業内容を思い出しながら、ふと視線を横にやる。そして、明日も一緒に遊びたい!そんな気持ちが顔にありありと出ているマリーを見て、僕は意を決したように口を開いた。


「その、マリーも一緒に学校へ行かない…?」

「えっ、」


マリーの表情が一瞬で凍りつく。本来、僕と同じく悪魔学校バビルスに通っているはずの彼女は、入学式からずっと不登校だった。詳しい事情は知らないけれど、彼女は幼い頃から悪魔不信で、この屋敷の外に出ることを酷く怖がっているらしい。
僕も最初は、人間だってバレたら悪魔に食べられちゃうんじゃないかと怖がっていた。いや、今でも怖い。いつバレるんじゃないかって毎日がドキドキハラハラだ。……でも、

僕は彼女と向かい合い、その手を取って、真剣な表情で話した。


「今日僕にね、初めてのお友達ができたんだ。アズくんとクララっていうんだけど。」 

「おトモダチ…。」

「あっ、えっと…!お友達っていうのは、一緒に遊んだり、ご飯を食べたりする大切な相手のことでね。今日は三人で学食へ行ったり、アイスを食べたり、遊んだりして、すごく楽しかったんだけど…。」


両親に連れ回されて、ろくに学校に通えてなかった僕が、ここ魔界で初めてできたお友達。彼らと過ごした楽しい時間を思い返し、僕は自然と笑みを零した。
バビルスでの生活はまだまだわからないことだらけで、驚きと不安ばかりの日々だけど、彼らと一緒ならこの先の学校生活も楽しく過ごせるような気がした。


(でも、)

「そこにマリーも居てくれたら、もっともっと楽しくなるんじゃないかって思ったんだ。」


ニコッと笑ってそう言えば、マリーは目を大きく見開かせた。

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