「アホ同士好きにやってろ」と言う捨て台詞を吐いて、去っていくギャルーズ達を私は呼び止めた。私と彼女達は相容れない関係かもしれない。けれど、彼女達のおかげで私は少し自分に自信を持つことができたから。
深々と頭を下げて、心からの感謝を述べる。すると、アネぴさんは「きしょ。二度とツラ見せんな」と言い残し、今度こそ私達の前から姿を消した。


「あれ?マリー、ネイルしてる。」

「うん。昨日の夜、オペラにやってもらったの!」

「へえ!綺麗な黄緑色だね。」

「うんうん、春らしくていいね〜!マリーちゃんによく似合ってるよ!」

「えへへ、ありがとう!入間、おじいちゃん。」


可愛くなった爪を褒められて、ルンルン気分で朝食を食べていると、「そろそろお迎えが来てしまいますよ」とオペラに急かされた。え、もうそんな時間?隣りを見れば、もう既に入間はあの超山盛り朝食を完食し、ナプキンで口元を拭いているところだった。やばい。急がなきゃ…!
私は慌てて朝食をかき込み、定番ネタのように喉につまらせると、まるでそうなることを知ってたかのように、オペラが魔茶を差し出してきた。相変わらず、彼は優秀な執事である。

煎れてもらった魔茶を飲み干し、一息ついたところで外から私達を呼ぶ声が聞こえてきた。今日も朝から元気だなぁ、2人とも。「マリー行こう」と微笑む入間に頷き、おじいちゃん達に「行ってきます」の挨拶をする。さあ、今日はどんな1日になるだろう。私は胸を高鳴らせながら、玄関にある大きな扉を押し開いた。



入間くんの妹はビビリ魔08



「マリー様!ウァラクがマリー様のおトモダチになったというのは本当ですか!?」

「え?うん。本当、だけど…。」


どうやら、クララに昨日のことを聞いたらしい。出会い頭にアズくんからそう尋ねられ、私は少し照れくさそうに肯定した。入間に引っ付いていたクララも頬を赤くして照れているようだ。
目が合えば、ふへへと腑抜けた笑みを返される。二人してテレテレしていると、なぜかアズくんはぐっと何かを堪えたような顔をしてから、悲愴な面持ちで私に詰め寄った。


「っ、アズも!アズもマリー様のおトモダチにしてください!!!」


ひえ、という声が口から漏れる。これまで幾多の女性のハートを奪ってきたであろう、芸術品のように美しい顔がこんなすぐ目の前に!!私は先程とは比べ物にならないほど顔を真っ赤に染め、プシューッと湯気を吹き出した。
ず、ずるい。反則だよアズくん…。こんなキラキラ美男子にギュッと手を握られて、うるうると涙を潤ませながら懇願されたら、断れる悪魔いなくない?まあ、もとから断るつもりはなかったけど!

「う、うん。いいよぉ…」とか細い声で返事をすれば、アズくんはぱああっと表情を明るくし、「ありがとうございますっ!!!」と満面の笑顔でお礼を言った。やばい。キラキラ度が更に上がってしまった。
私達の言動を離れた位置から伺っていた女子達は悲鳴を上げ、パタリ、パタリと倒れていく。アズくんのキラキラスマイル恐るべし…。私はちょっとばかし耐性がついていたので、なんとか気絶せずに済みました。

余程嬉しかったのか感極まって涙ぐむアズくんに、慌ててハンカチを差し出そうとすると、ドーンッ!と後ろからクララが飛びついてきた。そして、彼女はニヤリと悪そうな笑みを浮かべて得意気に言った。


「でも、私の方が1日早くおトモダチになったから、マリちのおトモダチ1号は私!ノロノロなアズアズは2号ね〜!」

「んなっ…!?ずるいぞ、ウァラク!1号の座を私に譲れ!」

「へっへーん!やなこったー!」

「おい!こら、待たんか貴様ー!!!」


追いかけっこを始めた二人は、学校までの道のりを凄いスピードで駆け抜けていく。ほ、本当に朝から元気だなぁ…。彼らの背中が小さくなっていくのを呆然と見ていると、隣りに居た入間がニコニコしながら口を開いた。


「ふふ。マリーがアズくんやクララとお友達になってくれて嬉しいな。」

「うん…。私も嬉しい。ねえ入間、」


一緒に学校へ行こうって、私を誘ってくれてありがとう。そう伝えれば、入間は彼が咲かせた"桜"のように、あたたかくてフワフワな笑みを浮かべた。





「……ほう。入間様は座学を選択されるのですね。では、私もそれで。」

「クララとマリーは選択科目何にした?」

「「えっ、」」


後ろから入間に声をかけられ、ビクッと肩を揺らす私とクララ。その拍子にうっかり持っていた用紙を落としてしまい、『サキュバス先生の誘惑授業(女子限定)』という項目に丸付けられたそれを、入間とアズくんに見られてしまった。うわああ、恥ずかしい。
慌てて用紙を回収すると、アズくんは「ウァラク、貴様…」とかわいそうなものを見るような目で言った。


「字が…、読めなかったのか。」

「読めるわい!!」


いや、さすがにそれは失礼だよアズくん…。本気で心配してる感じなのが尚の事立ち悪い。
ちゃんとどんな授業なのかわかった上で選択したんだとアズくんに訴えれば、今度は正気か、何か企んでいるだろうといろいろ勘繰られてしまい、図星だったクララは態とらしく口笛を鳴らす。それは何かあると言っているようなものだと思うけど…。
仕方ない、と溜め息をこぼした私は二人の間に入り込む。そして、「私が一緒に受けようって誘ったの。クラスの女子はみんなこれを選択してるみたいだったから」とクララのフォローに回った。


私達がこの授業を選択したのには理由がある。それは今からちようど3日前のこと。入間と生徒会長の親密な仲を羨ましがり、ずるいずるいと連呼するクララに、相談を受けていたサブノックくんは言った。

取り返したいのなら色仕掛けだろう、と。

悪魔たるもの誘惑して取り返し、虜にして繋ぎ止める。なるほど、その通りだとクララは考えた。そして、その術を学ぶには、サキュバス先生の誘惑授業はうってつけだったわけで。
正直なところ、誘惑の勉強だなんて気が乗らないんだけど、おトモダチからのお願いだし、私も付き合ってあげることにしたのだ。……まあ、もしかしたら、いつか習ったことが役に立つ日が来るかもしれないしね。


「こんな授業を受けずとも、マリー様は大変魅力的です!」と力説するアズくんは、一体どこまで本気なのかよくわからなかった。

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