03


「転校生。俺たちと共に戦うことを決意してくれたおまえには、ちゃんと話しておきたい。…あいつが、七星が『Trickstar』を辞めてしまったわけを。俺が過去に犯してしまった過ちを。」


灰色の雲が空を覆い、今にも降り出してしまいそうな、そんな天気の日だった。誰もいない教室に呼び出されたあんずは、そこで北斗から嘗て『Trickstar』が5人で活動していた頃の話を聞かされることになった。




グレーテルに迷いはない03




「「お〜い、氷鷹せんぱ〜い♪」」

「キミ達は……『2wink』のひなたくんとゆうたくん、だっけ。ええっと、僕に何かご用かな?」

「あはは、別に用って程じゃないんですけどね!」

「偶然、氷鷹先輩の姿を見かけたので、ついつい話しかけちゃいました♪」


ニコニコしながら話す同じ顔、同じ声の二人の少年、葵ひなたくんと葵ゆうたくん。僕にはどちらがどちらなのか判別できないけれど、同じ双子のアイドルとして活動する彼らのことは、多少なりとも意識していた。
しかし、僕たちは“見かけたら声をかける”ほどの親しい関係ではない。本当に用が無いのであれば、彼らはなぜ僕に話しかけたんだろうか。困惑する僕を前に、双子達はテンポの良い会話を続けた。


「俺たち、氷鷹先輩とはずっと前からお話してみたいと思ってたんですよ。この学院で双子って結構珍しいですから♪」

「でも、話に聞いてたとおり、同じ双子でも氷鷹先輩たちはあまり似てないんですね。先輩は母親似なんでしたっけ? 氷鷹先輩に聞きましたよ〜…って、あはは、そういえば先輩も氷鷹でしたね。」

「ややこしいんで、先輩のことは“七星先輩”って呼んでもいいですか?……ありがとうございます♪ そうそう。最近、俺たち七星先輩のお兄さんと一緒に特訓しているんですよ!昨日は全身をくすぐりまくって、先輩を瀕死になるくらい笑い泣きさせました♪」

「あはは、氷鷹先輩もだいぶ漫才の笑いどころがわかるようになってきたよね〜。」

「うんうん、これも特訓のおかげだね!」

「…………。」


双子のマシンガントークすごいなぁと思いながら聞いていたけど、え??あいつは一体なんの特訓をしているんだ??お笑い?僕たちはアイドルのはずだよね??
今度の『S1』に出るって聞いてたけど、そんなんで本当に大丈夫なんだろうか。かなり心配だ。……まあ、僕はもう『Trickstar』ではないのだし、彼らのライブがどんなものになろうと関係ないんだけどね!


「そうだ!よかったら今度、七星先輩も一緒に特訓しませんか?」

「いいね!酸っぱいものたくさん用意しときますよ♪」

「うーん…。お誘い自体は嬉しいんだけどね、その特訓は遠慮しておこうかな。」

「「え〜残念!」」


双子からの誘いを愛想笑いで断った僕は、このあと用事があるからと言って、二人と別れた。なぜ特訓に酸っぱいものを用意するのかと疑問に思ったけれど、それは触れない方が賢明だろう。僕は賢い。

ちなみに用事があるというのは本当だった。先程、朔間先輩からメールで、ガーデンテラスに来るようにと連絡をもらっていたのだ。わざわざガーデンテラスまで呼び出すなんて、一体どういう了見だろうか。
不思議に思いながらも、僕は遅れないように早足でガーデンテラスへと向かった。


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