プロローグ


僕らはいつも一緒にいた。それこそ、母親のお腹の中にいた頃からずっと一緒だった。二卵性ということもあって、性格も顔もあまり似ていなかったけれど、喧嘩なんてめったにしない、僕らはとても仲の良い双子の兄弟だった。
他の誰よりも傍にいると安心できたし、お互い以上に信頼できる人はいない。僕らはお互いを心から想い合っていた。そして、それはこの先もずっと変わらないものだと信じていた。


そう、“あのとき”までは。

あの日、あいつからその言葉を聞いた瞬間、僕は目の前が真っ暗になった。それは、まるで僕を心配するような口振りだったけれど、彼の瞳には確かに疑念の色が含まれていて、僕は酷く裏切られたような錯覚に陥った。
誰よりも僕の理解者であると信じていたのに。世界中が敵になったとしても、俺だけはお前の味方だと言ってくれたのに。

嘘つき。僕は伸ばされた手を振り払い、その場から走り去った。悔しかった。悲しかった。あいつのことを誰よりも愛していたからこそ、鋭利な刃物で斬り裂かれたように胸が痛んだ。
それから、僕は所属していたユニットを抜け、あいつのことを避けるようになった。あんなに仲の良い双子だったのに。もう昔のようには戻れない。


僕らが幼い頃、多忙だった両親が僕らを寝かしつけるために偶に読み聞かせてくれた絵本がある。『ヘンゼルとグレーテル』だ。あの頃の僕は、兄妹が悪い魔女を倒して幸せになる、その物語が大好きだった。

ヘンゼルとグレーテルは独りじゃなかった。だから、どんな困難でも乗り越えられたし、最後は『めでたしめでたし』で終わることができた。

ーーでも、もしも二人が森の中ではぐれてしまっていたら? グレーテルがヘンゼルを見捨てて、一人お菓子の家から逃げてしまっていたら?


二人がまた一緒に笑い合える日は永遠にこない。僕らの物語は、誰がどう見たってバットエンドだった。




グレーテルに迷いはない




「ん?これは…。」

「どないしたん、七星くん。……? それって、生徒手帳?」

「うん。どうやら落とし物みたいだ。これの持ち主がまだ校内に残っているかもしれないから、ちょっと捜してみるよ。二人はこれから部活だったよね。頑張って。」
 
「ええ、ありがとう。それじゃあ、またねェ。七星ちゃん。」

「また明日、学院でなぁ♪」


部活へと向かう友人達を笑顔で見送った後、僕は拾ったばかりの生徒手帳に視線をやった。そこには夢ノ咲で知らない者はいないだろう、最近新設したばかりのプロデュース科に属する女子生徒の顔写真が貼られていた。


「2―AはまだHR中か…。あいつらと鉢合わせたくないし、教室の前で待つという選択肢はないな。」


廊下の窓から外を眺めながら、ぼそりと独り言を呟く。担任を通して、持ち主に返すという手もあるけれど、私的に彼女とは一度話をしてみたいと思っていたのだ。
あいつらが今の学院を変えようと何かを企てていることには気づいていた。そして、その計画に転校生が一役買っているということも。フッと思わず微笑が溢れる。


「さて、どうするかな。」


prevnext
back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -