18


〜〜♪〜〜〜♪

演奏や歌声があちこちから響き始め、【DDD】の緒戦が本格的に始まろうとしていた。
けれど、遊木を捜しに行ったはずの明星は未だ帰ってきておらず、現在舞台に立てる『Trickstar』のメンバーは、僕独りだけだった。



グレーテルに迷いはない18



「……これは、まずいな。」


【DDD】には原則として『ユニット』単位でしか参加できないことになっている。そして、『ユニット』の最小構成人数は二人。
つまり、舞台上に二名以上の『ユニット』メンバーがいない時点で、『Trickstar』は『ユニット』として判断されず、自動的に失格となってしまう。まさに絶体絶命の状態だ。

僕とあんずちゃんは狼狽しつつも、どうにかこの危機を脱する手段がないかと必死に考える。戦う前から負けてしまうことだけは、何としてでも避けたかった。
だって、この日のために今日まで頑張ってきたんだ。せめて、明星が遊木を連れて戻ってきてくれるまで、僕らだけで時間を稼がないと…!

身につけていたマスクを取り外し、七星は意を決した様子であんずにそれを手渡した。


「とりあえず、あんずちゃんには非常に申し訳ないけど、…僕の代わりにこのマスクを被って正体不明の『謎のアイドルX』として舞台に出てほしい。
あっ、正体がバレたらまずいから、声は絶対に出さないでね? 明星たちが帰ってくるまで、これでどうにか時間を稼ごう…!」

「は、はい!」

「大丈夫。舞台は僕がなんとかしてみせるから。舞台に立つのは久々だし、結構緊張してるけど、この日のために明星とたくさん練習してきたんだ…!心配いらないよ、多分。」

「おいおい。強気なのか弱気なのかハッキリしろよな〜? 」

「「 !! 」」


よく聞き慣れたその声に、僕らは狐につままれたような顔で振り返る。
仕方ないなぁと呆れながらも、決して捨て置くことはしない。仲間思いで、世話焼きで、いつだって頼りになる彼は『Trickstar』のユニット衣装を着用し、悠然とそこに立っていた。


「衣更!おまえ、どうして…!」

「んだよ。お化けでも見たような顔してんじゃないよ、俺がここにいるのが不思議か? なんつ〜か……俺も結局、『Trickstar』だったってこと♪
それに、俺が何度頼んでも戻ってきてくれなかったおまえが漸く戻ってきてくれたのに、そこに俺がいなかったら、今までの苦労が水の泡だろ? 俺だってずっと、おまえも含めた『Trickstar』で舞台に立ちたかったんだからさ。」

「……衣更。ありがとう。おまえが“五人揃って『Trickstar』だ”って言ってくれたとき、本当はすごく嬉しかったんだ。これからまた、『Trickstar』の仲間としてよろしくね♪」


手を差し出せば、衣更は嬉しそうにその手を握った。


「ああ、こちらこそ♪ ……と、今は緒戦をどうにかしないとだったな。あっちも欠員はいるけど、全員すごい実力者だ。普通にやったら俺達に勝ち目はない。曲目はどうする?スバルと打ち合わせはしたんだろ?」

「うん。こないだの……『S1』と同じ曲目でいこうと思う。北斗が担当していたところは僕が歌うよ。」

「……七星、ソロで歌うのはこれが初めてだろ? 大丈夫か?」

「うん。だって、あいつは独りで歌いきったんだ。僕も頑張らないとね!」


不安げに尋ねた衣更は、僕の晴れやかな表情を見て「ああ、そうだな」と安堵したように息をついた。

舞台に立つのはいつぶりになるだろうか。『Trickstar』を辞めてから、僕はソロでも参加可能な校内イベントでしかアイドル活動をしてこなかった。この観客の中に自分のファンなんて殆どいないはずだ。
それでも、不安に打ち勝つくらいの期待感で胸が高鳴っている。頼もしい仲間達のおかげだ。


あんずちゃんと衣更に目配せした僕は、大きく息を吸い込み、ステージ上に躍り出た。
『Knights』を目的にやってきたお姫様たちの視線も、あんずちゃんが連れてきてくれたという彼女の友人達の視線も、みんなみんな僕が奪ってやると意気込んで。

救出された遊木と共に明星が戻ってくるまで、僕は衣更と二人で『革命』の歌を響かせた。


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