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「ついに【DDD】の第一回戦が始まっちゃうね…!勝ち残れるかどうかは神のみぞ知る。最善を尽くそ、えいえいおっ☆」
「……ねえ、明星。」
「うん?どうしたナッセ〜。対戦前だっていうのに、もう疲れきった顔してるよ? ほら、笑って笑って♪……って言っても、顔のほとんどがマスクで覆われて見えてないけどね〜。」
「そう、それだよ!どうして僕は覆面してるのかなっ!?」
そう叫ぶ僕に、隣りに居たあんずちゃんが慌てて説明する。どうやら、これはあんずちゃん達が考えた“作戦”らしい。
まだ『Trickstar』のメンバーであると一般公開されていない僕を、正体不明の『謎のアイドルX』として登場させることで、観客の興味をこちらへと向けさせる。そして、苦戦したときは正体を明かし、サプライズのメンバー紹介で観客を喜ばせる。所謂、僕は隠し玉というわけだ。
緒戦の『ユニット』も、あっさり空中分解したと噂の『Trickstar』に急遽入った覆面アイドルを見れば、数合わせだろうとこちらの戦力を低く見積もってくるはず。そうやって相手が油断している隙に、ステージを此方のものにし、勝ち星を得る作戦らしい。うーん、確かに理に適ってはいるけれど…。
「なかなか良い作戦だと思わない?」と得意気な顔をする明星に、僕は「それにしたって、もっと良い隠し方があっただろ」と深い溜め息をこぼした。まさか、レスラー仕様の覆面でステージに立つ日がくるなんてね…。
これでも一応アイドルなんだけどな、という僕のぼやきは、現れた対戦相手によって遮られた。
グレーテルに迷いはない17「きゃぁん♪見てみて司ちゃん、あの対戦相手の子ったら超張り切っちゃってるわよォ!かわいい〜、がんばる男の子は世界の宝よねェ☆」
「!なるちゃん。てことは、僕らの緒戦の相手は『Knights』……夢ノ咲学院でも有数の強豪ユニットじゃないか。これは雲行きが怪しいな。」
「ねえ、『Knights』ってウッキ〜が引き抜かれた『ユニット』だよね?ウッキ〜はどこにいるんだろう?」
明星がキョロキョロしながらそう尋ねる。……確かに『Knights』に移籍したはずの遊木の姿が見当たらない。おかしいな。彼は『Knights』から強く所望されて移籍した、と聞いていたけれど、…まさか不当な扱いを受けているのか?
僕らが『Knights』に疑心を抱き始めたそのとき、泰然と姿を現したのは夜闇を統べる魔王、朔間零先輩だった。
「……横からすまんが。あまり優雅なやり口ではないのう、『Knights』の諸君? 早めに『Trickstar』を潰しておいて、遊木真くんの帰る場所を奪う…。これは、そういう意図であろう?」
「朔間先輩…。何かご存知なんですか?」
「うむ。吾輩は何でも知っておるぞ、この学院のことなら何でも。ところで、おぬしはなかなかおもしろい格好をしておるのう…♪」
「この格好については触れないでください。」
朔間先輩に遊木が今どうしているのか尋ねると、彼が『Knights』の瀬名泉によって監禁されていることがわかった。どうやら『Knights』への移籍は遊木自身の意思でなかったようだ。
なるちゃん達曰く、この強引なやりかたは『Knights』も不本意らしい。乗り気じゃない彼らを見て、凛月くんは「じゃあ、こうしよう」と、遊木の監禁場所を僕らに教えるよう、朔間先輩に告げた。もしかしたら対戦前に助け出せるかもしれないよ、と。
「おお、おまえ意外といいやつだな!俺、絶対にウッキ〜を助け出すよ☆」
「……ちょっと待て、明星。緒戦が始まるまでもう時間がない。遊木を捜し出して救出するなんて無茶だよ。
それに、もし間に合ったとしても、彼が無理やり『ユニット』移籍をさせられた後だったら『Trickstar』としての参加は認められない。本人の気持ちがどうであれ、他『ユニット』の助太刀はルール違反だからね。
遊木の心が『Knights』に傾いている可能性だってあるわけだし、このまま対戦した方がまだ勝機はあるんじゃないか?」
「う〜む。そういう難しいこと、後先のことは考えない!ウッキ〜が戻ってきてくれるかもしれない。まだ、俺たちの仲間でいてくれるかもしれない。それだけで、行動する理由には“じゅうぶん”だよ!」
「明星……。うん、そうだね。窮地には駆けつけ、一緒に苦難を乗り越える関係性こそが仲間だとおばあちゃんも言っていた。遊木は『Trickstar』の、かけがえのない仲間だ。必ず助け出そう。」
意を決したように深く頷けば、明星はぱっと表情を明るくして言った。
「よしっ。じゃあ、俺がすぐにウッキ〜を連れて戻ってくるから、それまでナッセ〜は転校生と一緒に踏ん張ってて!お願いね〜☆」
「は?……いやいや、ちょっと待て明星っ!あけほ………は、速い。」
彼を引き止めようと伸ばした手が行き場を失う。もう米粒くらい小さくなってしまった明星の背中を、僕とあんずちゃんは呆然と見つめていた。
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