15


「〜〜♪ 〜〜〜♪」

「おお、完璧っ! こんな短時間で新曲の振り付けまでばっちり習得しちゃうなんて、さっすがナッセ〜…☆」

「………。」

「あはは!きっとナッセ〜が『Trickstar』に戻ってきてくれたことを知ったら、みんな驚くだろうな〜。」

「……………。」

「ナッセ〜どうかした? 俺、なんか変なことでも言ったかな…?」

「いや……。その、僕が『Trickstar』に戻ってきたことを知ったら、みんなは実際どう思うのかなって考えてた。
明星みたいに喜んでもらえたら嬉しいけど、もしかしたら今更なんのつもりだって思われるかもしれない。『Trickstar』の一員として認めてもらえないかもしれない。特に北斗には散々酷い仕打ちをしてきたから……拒絶されたらと思うと怖くて堪らないんだ。全部、自業自得なんだけどね…。」

「ナッセ〜…。……大丈夫だって!みんな、ナッセ〜のことずっと待ってたんだから!歓迎するにきまってるよ!ホッケ〜なんか、ナッセ〜が作ってくれたこんぺいとうシュークリーム、ぜーんぶ独り占めして持って帰っちゃったんだよ? “これは俺のだ”って、俺たちには一個も残してくれないの!ケチだよな〜。……でも、それくらいホッケ〜はナッセ〜のことが大好きなんだよ。もちろん、俺もね!ナッセ〜大好き〜♪」

「明星……ふふ、ありがとう。僕もキミたちのことが大好きだよ。早くみんなと一緒の舞台に立ちたい…。そのためにはまず【DDD】を勝ち抜いて、僕たちの存在をあいつらに気づいてもらわないとね♪……弱気なことを言ってすまなかった。特訓を続けよう。」

「いいよ♪たくさん弱音吐いて。それって俺に気を許してくれている証拠だもんね!よぉし、【DDD】まで残り数日!時間ギリギリまで頑張ろう…☆」




グレーテルに迷いはない15




「うわ〜土砂降りだ…!二人とも傘はある?………うん、ちゃんと持ってきてるね♪ それじゃあ、あんずは俺が家まで送り届けるから、ナッセ〜はここで解散ってことで。今日もお疲れさま!明日も頑張ろうね…☆」

「うん、また明日。二人とも、気をつけて帰るんだよ。」


スバルとあんずに別れを告げ、七星は独り帰路に着いた。突然降り出した雨は、彼の肩や鞄をじわじわと濡らしていく。こんな地を打つような強い雨は久しぶりだ。彼が住む氷鷹家はここから歩いて40分程のところにあるのだが、果たしてこんな折り畳み傘で耐え凌げるだろうか。

人通りのない夜道を歩いていると、一台の車がやってきて、水飛沫を上げながら七星の横を通り過ぎていった。うわぁ…と七星は不快そうに顔を顰める。制服のズボンに大きくかかってしまった。靴の中まですっかりびしょ濡れで、気持ちが悪い。これだから雨は嫌いなんだ、と七星は溜め息をついた。
遅くまで特訓してもう体はクタクタだし、たまにはバスを利用しようかな。そう考えていたとき、遠くで稲妻が空を縫って走るのが見えた。


「っ、」


続いて聞こえた轟音に、大きく肩を揺らす。傾いた傘からは溜まった雫がボタボタと溢れ落ちた。う、うそ。待って、いま…。
冷えた身体が小刻みに震えだす。そして、再び閃光が走ると、とうとう耐えきれなくなった七星は、真っ青な顔でその場にしゃがみこんだ。


「や、やだ…。待って無理無理たすけ、ひやあ…っ!」


激しい落雷が短い間隔を置いて続く。差していた傘がバサリと地面に落ちたが、そんなことなど気にしてはいられなかった。七星はずぶ濡れになりながらも、必死に両手で耳を塞ぐ。いやだ。怖い。死んじゃう。助けて北斗…!
雨なのか、涙なのかもわからない雫が次々と頬を伝っていく。気が動転していた七星は、ポケットの中で震えるスマートフォンに気づくことはなかった。


「……七星?」










「…………。…………………。」

(……出ない、か。七星はまだ学院にいるんだろうか…。七星が俺からの電話を無視するのはいつものことだが、もしこの雷雨の中どこかで動けなくなっているのだとしたら…。
っ、やっぱり捜しに行こう。杞憂で終わればそれでいい。だが、七星が怯えて泣いているかもしれないと思ったら、家で待ってなどいられない…!)


北斗は傘を掴むと、勢い良く家を飛び出した。


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