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「僕はもうあいつらの仲間ではないし、ましてや正義の味方でもありません。だから、『Trickstar』が今どんな状況下にあろうと、助けに行く資格なんて僕にはない…!」

「ふはは!おかしなことを言うな、七星は…☆ 誰かを救ってやりたいという気持ちさえあれば、資格なんて必要ないだろう。」

「…………。」

「それに、おまえは『Trickstar』をすっかり辞めた気になっているようだが、正式には一時的に活動休止、ということになっているらしい。これは衣更から聞いた話だから間違いないぞ!
あいつらはおまえが戻ってくるのを待っていた。『Trickstar』がおまえの帰る場所となるように、ずっと守り続けてきたんだ。それを理不尽に奪い、下劣なやり方で仲間を傷つける生徒会に、報いを受けさせてやろうと思わないか!」

「……っでも、もう『Trickstar』はバラバラになってしまった。僕独りじゃ生徒会に勝てるはずもないし、今更どうしろって言うんですか…。」


唇を尖らして拗ねたように尋ねれば、「策はある!」と守沢先輩はやけに自信満々にこたえた。
僕はこの人を頼りにして本当に良いのだろうかと不安を抱きながらも、このまま咲かない桜を見続けても仕方ないかと漸く腹を括る。僕らの真上に広がる空は、透き通るように青く澄み渡っていた。




グレーテルに迷いはない14




「これは『Trickstar』のユニット衣装…。まさか、僕の分まで作ってくれていたとはね。」


こくりと頷いたあんずちゃんの隣りで、南雲くんが「七星先輩、とっても似合ってるッス!」と声を上げる。
北斗の寸法に合わせたのか、サイズぴったりのユニット衣装に着替えた僕は、あんずちゃんと『流星隊』の一年生二人と一緒に防音レッスン室前までやってきていた。

あんずちゃんが扉を少しだけ開ければ、聞こえてきたのは守沢先輩と…明星の声だ。計画どおり、僕たちは守沢先輩からの合図があるまで、そこで静かに耳を澄ました。


「たとえ独りになっても俺は『Trickstar』だ。」

「……子供の我侭みたいなもんだとは、自分でも思うよ。惨めで情けないよ。でも俺は、『Trickstar』が燃え尽きたとは思わない。裏切られたとも、捨てられたとも思わないよ。」

「今はちょっと曇り空だけど、いつかまた輝ける。俺だけはそう信じたいんだよ。むかし……今と同じ孤独だった頃には、夢にも見ていなかったキラキラした舞台に立てたから。」

「たった一夜限りの夢で、奇跡だったのかもしれない。だけど、俺はまた『あの場所』に立ちたい。あの、キラキラ輝いていたステージに。今度はナッセ〜も一緒に、『Trickstar』のみんなで!」

「ごめん。ち〜ちゃん部長、せっかく声をかけてくれたのに。心配して、励ましてくれようとしたのに。でも、俺の居場所は『流星隊』じゃないんだ。

俺は『Trickstar』だ。」




「……明星、おまえ。」


たとえ独りになっても、それでも自分は『Trickstar』なのだと言い切る明星がすごく格好良かった。彼の心は全く折れていない。厳しい現実を突きつけられても、その輝きは少しも失われていなかった。

ああ、北斗と同じユニットに所属するのがつらいからって、勝手な理由で辞めてしまった自分が酷く情けない。でも、そんな裏切り者の僕のことも、彼を独りぼっちにしていったあいつらのことも、明星は仲間だと思ってくれている。『Trickstar』はまた輝けると信じてくれている。


そんな彼の想いに、応えてやりたい…!


「あっ!合図きたッスよ!もう部屋に入っていいッスか?…… う〜む、いまいちタイミングが掴めないッス。ともあれ、黒い炎は努力の証!泥で汚れた燃える闘魂!流星ブラック、南雲鉄虎!……ほら、翠くんも早く。」

「う〜……?名前が『翠(みどり)』だからグリーン…。流星グリーン、高峯翠……。」

「五人揃って!我ら『流星隊』…☆」

「な、何だおまえら次から次へと…!ていうか、“五人揃って”って言ってるのに、三人しかいないよ!?」

「ほら、おまえも入ってこい!恥ずかしがることはない。そのユニット衣装も似合っているぞ!」


守沢先輩に急かされ、あんずちゃんに背中を押され、僕は防音レッスン室へと足を踏み入れた。


「…………。」

「えっ、ナッセ〜!?なんで、……って、その衣装、『Trickstar』の…!」

「………『S1』観たよ。スポットライトを浴びたキミらは、今まで観てきたどのアイドルたちよりもキラキラと輝いて見えた。すごく感動した。……同時に、僕はこんなところで立ち止まって、何をしているんだろうって酷く自分が情けなくなった。」

「ナッセ〜…。」

「僕はずっと、北斗と一緒にキラキラした舞台に立つことが夢だったんだ。でも、北斗と仲違いして、『Trickstar』をやめて、僕はアイドルである必要性を見失った。自分の夢がわからなくなってしまった。……正直、今もハッキリとした答えを見い出せないでいる。けど、」


僕は顔を上げ、明星の綺麗な瞳をまっすぐ見つめた。


「『Trickstar』は僕の大切な居場所だ。僕の大好きな人たちが今までずっと守り続けてくれた……僕の帰る場所。希望の星なんだ。絶対に失いたくない…。
だから、裏切り者が勝手なことをと思うかもしれないが……どうか、このユニット衣装を着ることを許してほしい。そして、今度は僕にも守らせてくれ。」


そう言い終える前に、明星は体当りする勢いで僕に抱きついてきた。よろけそうになった僕の背中を後ろから守沢先輩が支えてくれる。おい危ないだろ!と注意しようと口を開いたが、明星の今にも泣きだしそうな笑顔を見て、そんな気もすっかりなくなってしまった。

ギュウギュウに抱きしめながら「おかえり、ナッセ〜!」と言った明星に、僕は朗らかな声で「ただいま」と返す。そして、彼の背中に僕もゆっくり腕を回した。


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