12


『〜〜♪ 〜〜〜♪』


今、北斗がソロで歌っている曲は、もともと僕と北斗のデュエット曲だった。入れ替わりで歌う箇所やハモリパートがなかなか難しい曲ではあるけれど、双子の僕らなら息が合わないはずがない。何度も二人で歌って、踊って、いつかこんなふうに大きなステージで披露する日をずっと夢見てきた曲だった。


「………。」


研ぎ澄まされたような鋭い光を含んだ眼差しが、まっすぐ僕へと注がれている。一瞬だって、あいつから目を逸らすことはゆるされない。その瞳が、その歌が、僕に訴えかけてくる。『おまえは何処へ行きたいんだ』と。


「わはは〜っ☆ なんだか、まるで隣りのに〜ちゃんに向けて歌っているみたいだぜ〜!」


どうやら、ポップコーンを食べていた隣りの男子生徒も北斗の熱視線に気づいたらしい。冗談っぽく言ったその子に、僕は聞こえるか微妙な声量で、その間違いを指摘した。


「……みたい、じゃないよ。あいつは僕に向けて歌ってるんだ。」


デュエット曲だとは思えないほど、一人でも完璧に歌いきった北斗は、衣更と立ち位置を交代する。その視線はもう別のところへと向けられてしまったけれど、僕はライブが終わるまであいつの姿を追い続けた。


(……なんだ。僕がいなくても、北斗はもう大丈夫なんだな。)




グレーテルに迷いはない12




「やぁ、七星。久しぶりだね。」

「……こんばんは。学院に来ていらっしゃったんですね。もう体調はよろしいんですか、天祥院先輩。」

「良くはないけど、滅多に見られないものが見られたからね。気分は上々だよ。」


ライブ後、火照った身体を冷ましたくて、ガーデンテラスに向かった僕は、そこでラスボスと呼ぶべき人物と鉢合わせた。

夢ノ咲学院におけるトップアイドルであり、すべてのユニットの頂点に立つ『fine』のリーダー。そして、この学院の生徒会長である、『皇帝』天祥院英智。
月明かりに照らされた彼は神秘的で美しく、まるで天使が舞い降りたかのように思えた。……天使に見えるのは外見だけだけどね。

天祥院先輩には恩があるし邪険にするつもりはないけど、だからといって気を許すことなんてできない。警戒態勢に入る僕に対し、天祥院先輩は本当に機嫌がいいのか、ニコニコと嬉しそうに話し続けた。


「『Trickstar』だったかな。今日のライブは素晴らしかったね。革新的で、情熱に満ち溢れていて……けれど、奥底に策があり、論理があった。さすが、嘗て君が所属していたユニットだ。」

「……ずいぶんと余裕そうな口振りですね。彼らは、あなたを王座から引きずり下ろそうとする不届き者だっていうのに。その内、寝首を掻かれたって知りませんよ。」

「ふふ、忠告どうもありがとう。でも、欠員が出たまま反乱を起こそうだなんて、舐められてるのはむしろこちらの方なんじゃないかな。それとも、君は『Trickstar』に戻る気になったの?」
 
「はっ、あいつがいる限り、それはないです。『Trickstar』の武器は結束力。……メンバーが信頼するに足らない奴じゃ話になりませんから。」

「ふふ、本当に君は役者だね。怪我を負った翼に包帯を巻きつけ、まだ治ってないから羽ばたけないのだと嘘を吐く。本当は疾うの昔に完治しているというのに。」

「………。」


ああ、だからこの人は苦手なんだ。顔を顰める僕を見て、天祥院先輩は愉快そうに目を細めた。


「君はもうとっくにお兄さんのことを許しているはずだ。それでも、君が『Trickstar』に戻ろうとしない理由は、単にアイドルそのものに魅力を感じていないから。」


そうだろう、と尋ねる声。けれど、色素の薄い瞳は、確信しているようにまっすぐ僕を見据えていた。


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