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「キミは意外と乱暴ものだね…。泣き落としで来られた方がまだ可愛げがあったよ。」


なぜか全身ボロボロな七星は、隣りの席でまるで大きな仕事を成し遂げたかのように、誇らしげな表情を浮かべるあんずに、恨めしそうな視線を向けた。

『S1』なんて見るつもりなかったのに、なんでよりにもよってこんな最前列なんだよ。七星は今にも死んでしまいそうな顔で、深い溜め息をつく。「舞台が近すぎてつらい」なんて、アイドルファンが羨ましがるような悩みを溢していると、あんずと反対隣りに座っていた男子生徒が不思議そうな顔で口を開いた。


「?隣り席のに〜ちゃんは、遠くから見るライブの方が好みなんだぜ〜? 近くで見る方が迫力満点なのに、隣りのに〜ちゃんは変わってるぜっ♪」

「こらっ!ポップコーンを食いながら喋るな、光。食いカスが飛ぶだろ!……えっと、すみません。こいつが失礼なことを。」

「ああ、いや、僕は大丈夫だよ。しかし、ライブ会場でポップコーンを食べてるなんて、キミこそ変わり者だね。ふふっ、まるで映画館にいるようだ♪ 床に落とさないように気をつけて食べるんだよ?」

「わはは〜☆ わかったんだぜ!隣りのに〜ちゃんもポップコーン食べる?」

「ありがとう。いただくよ。」


もぐもぐと仲良くポップコーンを食す二人を見て、友也は拍子抜けした表情を浮かべる。その隣りに座っていた創は「仲良しさんですね…♪」と微笑ましげな視線を向けた。


「ところで、今は投票の集計中ですよね? ぼく、受付してたので『紅月』とかの項目を観られなかったんですけど。どうでしたか、明星先輩たちは勝てそうですかね…?」

「そのために『Trickstar』のひとたちは努力したんだろ。俺たちも協力したしな? 創はパンフレットにこっそり説明書きを付け加えたりしたし、に〜ちゃんなんかは『S1』の映像を意図的に雑に編集して配信してるっぽいぞ?」

「あの手、この手って感じですよね。勝つためには手段を選んでいられないんでしょうけど…。本来は、生徒会に勝てる可能性はありませんでした。けれど、僕たちの協力で0%が1%にできたなら、本望です。
明星先輩たちなら、きっとその『わずかな可能性』を掴みとってくれます…♪」

「あぁ、信じて見守ろうぜ!『Trickstar』には北斗先輩もいる。いつも変態仮面からの無茶振りを華麗にかわしてる北斗先輩ならきっと、この苦難も乗り越えくれる!」

「ワクワクするぜ〜☆」

「………。」


少年たちはキラキラと期待に目を輝かせている。自分が嘗て所属していた『Trickstar』は、今では少年たちに夢と希望を与え、その道行きを照らす北極星のような存在になっているらしい。きっと死に物狂いになって頑張ったんだろうな、その言葉の通り。

七星は汗ばんだ掌を制服のズボンで拭うと、静かに息を吐きだした。もうすぐ、彼らの出番がやってくる。七星は静かに目を閉じ、真緒の言葉を思い出した。


「『S1』は、俺たちの成長した姿をお披露目する絶好の場だって思ってる。おまえが、また俺たちと同じステージに立ちたいって思えるように、最高のパフォーマンスを披露するつもりだ。」


(……ああ。それじゃあ、見せてもらおうか。あれから、キミたちがどれほど成長したのかを。)


投票の集計中である今も演奏は流れ続けている。現在、ステージに立っているのは予定外で乱入してきた『2wink』の二人だ。

そして、ついにそのときはやってきた。
この夢ノ咲学院が変わる瞬間が。


『お待たせしました!本日の主役の登場です〜!』


わっと歓声が上がる。輝かしいステージ上に、新たな四つの光が降り注いだ。




グレーテルに迷いはない11




「ーーっ、」


それはまさに圧巻の一言だった。彼らの歌声が、ダンスが、笑顔が、観客の心を強く惹き付ける。みんなが『Trickstar』に夢中になっている。そして、それは七星も同様だった。
それぞれの個性を活かした自由で勢いのあるパフォーマンスに、観客を喜ばせる旺盛なファンサービス。曲目もよく考えられていて、観客を誰一人として飽きさせない。


(……そうか、これが今の『Trickstar』なんだね。)


曲に合わせて振られるサイリウムは、まるで綺羅星のように光り輝く。気づけば、この『講堂』には、無限の喜びと幸せが充ち満ちていた。彼らが起こした奇跡によって。

胸がじーんと熱くなる。スポットライトを浴びた彼らは、七星が今まで出会ってきたどのアイドル達よりもキラキラと輝いて見えた。



「すごい、すごいです〜!明星先輩、誰よりも輝いてます〜っ♪」

「そっちもすごいけど、うちの北斗先輩もすごいって!難しい曲調の歌を完璧にこなしてたっ、完璧だ!北斗先輩かっこいい〜☆」


どうやら、隣りに座る男子生徒二人は、スバルと北斗のファンらしい。二人は『Trickstar』のライブを見て大興奮し、その内の一人は感動のあまり涙さえも流していた。


(はは。僕もなんだか鼻がつーんとしてきたよ…。)


でも、絶対に泣くまい、と七星は唇を噛みしめる。ステージ上では、ちょうど北斗がソロを歌っているところだった。自分を型に嵌め、周囲に遠慮しているせいか、少しぎこちない印象を与えていた彼も、今ではのびのびとしていて、笑顔を見せる余裕すらある。これが、双子の言っていた特訓の成果というやつなのだろうか。


「……やるじゃん、北斗。」


ポツリと呟いたそのとき、自分と同じ色の瞳が、こちらに視線を向けた。


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