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「聞いた? **先生、辞職したらしいよ。」

「えっ、なんで?」

「それがさ。氷鷹七星の悪い噂流してたの、全部**先生だったんだって。他にも氷鷹七星が孤立するようにいろいろ仕向けてたらしいんだけど、生徒会長に全部バレて、断罪されたって話よ。人って見かけによらないよなぁ。」

「あ〜。やっぱり、あの噂ってガセだったんだ。でも、どうして氷鷹七星? **先生、あいつになんか恨みでもあったわけ?」

「それなんだけど、氷鷹七星の母親って、あの大物女優じゃん? **先生はデビュー当時からその人の大ファンだったらしくてさ。母親そっくりの七星を見て、どうしても自分だけの物にしたくなっちゃったらしいよ。」

「は? なにそれ。気持ちわる…。え、じゃあ、もしかして氷鷹七星を孤立させようとしたのは、自分だけが唯一の味方であるかのように見せかけて、自分に依存させようとした、とか?」

「おっ、正解。実際、もう誰も信じられない!って泣いてる氷鷹七星に優しい言葉を投げかけて、そのままおいしく頂こうとしたところを生徒会に取り押さえられたらしいよ。生徒に手を出そうとするなんて、ほんと最低な教師だよなー。
ちなみに、氷鷹七星が泣いたってのは全部演技。それはそれは悲劇のヒロインさながら庇護欲をそそる名演技だったって演劇部の部長も絶賛してたよ。特にか弱く純情そうな顔から一転、虫けらを見るような侮蔑の目はトラウマもんで、**先生ももう二度と手を出そうとしないだろうってくらいの怯えようだったらしい。」

「え、それはちょっと見たかったかも…。でも、噂の真偽が明らかになってよかったよな〜!」







「七星、すまん…!」

「………。」

「俺が間違っていた!教師なら嘘をつくはずがないという先入観に囚われ、まんまとあいつの言葉に翻弄されてしまった。誰に何と言われようと、俺はおまえの味方であるべきだったのに…。本当にすまなかった!」

「……いいよ、謝らなくて。全ては終わったことだ。それに、おまえは弟の将来を心配して、あんなふうに言ってくれたんだろう?」

「七星、」

「でも、俺は今までのように、おまえに全幅の信頼を寄せることはできないから。みんなには本当に申し訳ないけど、『Trickstar』を辞めさせてもらうね。」




グレーテルに迷いはない10




「いよいよ、運命の瞬間だ。準備はいいな、おまえら? もう引き返せない、決戦の火蓋は切って落とされている。犬死の覚悟で特攻し、大将首をあげよう。俺たちにはそれができる。信じて突き進もう、『Trickstar』。」

「ホッケ〜ったら、また表情がカチコチになってるよ? 笑って笑って〜、楽しもうねっ♪」

「あぁ、楽しんだもん勝ちだ。俺も覚悟を決めたよ。どうせ居場所がなくなるなら新天地を目指そう。」

「僕も、みんなの足を引っ張らないように頑張るよ!無駄な努力なんてないって、言い張ってやる!」

「よし、では移動を開始しよう。講堂まで少し距離がある。急がないと間に合わんぞ。」


そう言って、教室を出る北斗の後ろを、他のメンバーもぞろぞろと着いていく。あんずもそんな彼らに続こうと足を踏み出した、そのとき、「あー!忘れてたっ!」と突然スバルが声を上げ、あんずの方へと振り返る。そして、ビックリして変な体勢で固まっていたあんずの前に、彼はある物を差し出した。


「転校生にこれを頼もうと思ってたんだ!」

「………?」

「明星くん、それって『S1』のチケットだよね…? でも、転校生ちゃんにはこの前渡してなかった? 舞台に一番近い、最前列の特等席チケット。」

「うん。『校内アルバイト』で受付をやってるしののんにこっそり頼んで確保してもらってたやつなんだけど、実はもう一枚用意してたんだよね〜☆」

「ふむ。『S1』は一般客優先で座席が用意されるため、生徒がチケットを入手するのは難しいし、料金もかなり高額なはずだが…、どっから金を出したんだ、どケチのくせに。」

「俺はケチじゃないよ!お金は好きだけど、使ってナンボだからね。それに、あんずの他にももう一人、どうしても俺たちの活躍を一番近くで見てもらいたい子がいるんだ♪」


スバルはそう言うと、あんずの手を取り、その手に『S1』のチケットを握らせた。澄んだ瞳がまっすぐあんずを見つめる。
どうか、その子を連れてきてほしい。スバルからの切実な願いを聞いたあんずは、意を決した様子で力強く頷いた。







「あら、おいしそうなチョコクッキーねェ♪ もしかして、七星ちゃんの手作りかしら?」

「なるちゃん。うん、そうだよ。この前、シュークリームを作る機会があったんだけど、それからお菓子作りにハマってしまってね。たくさん作ってきたから、なるちゃんも貰ってくれると助かる。」

「あら、いいの?ありがとう。食後のデザートにいただくわねェ♪ ……と、忘れてたわ。七星ちゃん、さっきから呼ばれてるわよォ?」

「え?」


なるちゃんこと、鳴上嵐が指差す方へ視線を向ける。そこには教室の出入り口で、こちらをじっと見つめるあんずの姿があった。
もうすぐ『Trickstar』の出番のはずだが、こんなときにわざわざ隣りのクラスに出向くとは、一体何の用だろうか。気が進まないが、せっかく来てくれた女の子を門前払いなんてできるはずもなく、七星は渋々席を立った。


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