08
「……お兄さん達、俺になんの用?」
「おうおう、睨んだ顔もかっけぇな。さっすがアイドル様〜!そのきれいなお顔で儲けた分の金を、惨めな俺たちにも恵んでくれねぇ?」
「はは、いいなソレ♪ まっ、そのご自慢の顔を目も当てられない醜い有様にしろっつーのが、今回の依頼なんだけどな〜。」
「なあ、オレンジ頭。なんで、自分がこんな目に合わなきゃなんねーのか、理由を知りたくねぇか?」
「それはな、おまえが“氷鷹七星とオトモダチだから”だよ。」
「……ナッセ〜が何か関係してるの?」
「ああ。そいつと関わってしまったばかりに、おまえのアイドル人生は今日でおしまいってわけだ。かわいそうにな〜。」
「くくっ。恨むなら、オトモダチの見る目がなかった自分自身を恨めよ?」
「…………。
例え、ここで俺のアイドル人生が終わったとしても、俺はナッセ〜と友達になったことに後悔なんてしないよ。」
グレーテルに迷いはない08
「氷鷹北斗くん、今少し時間あるかな。きみの弟くんのことで話があるんだ。」
その言葉を聞き、自分が呼び止められた理由を察した北斗は、形の良い眉を顰めた。振り向いた先にいたのは、七星の担任教師だった。
「それで先生、俺に話とは一体なんだ。」
人気のない空き教室へと連れて行かれた北斗は、自分の親と同じくらいの年齢だと思われる、その教師をじっと見つめた。一対一で話すのはこれが初めてになる。
温厚篤実で多くの生徒から慕われているようだが、果たしてこの教師は自分たちの味方だろうか。もしも、七星を少しでも悪く言おうもんなら、問答無用で敵と見なそう、と北斗は決意を固める。ここ最近、七星を悪く言う輩が多いため、彼は弟へと向けられる悪意に対してかなり敏感になっていた。
北斗の鋭い視線が突き刺さる中、七星の担任は「きみも知っていると思うが…」と言いづらそうに口を開いた。
「この学院には七星くんの悪い噂が広まっている。」
「ふん、無実の浮き名だ。七星は悪いことなど何一つしていない。」
「私も始めはそう思っていた。けれどね、七星くんが他校の……あまりいい噂を聞かない生徒達とつるんでいるところを見たという者が教師含め、数人いてね。どうやら噂の全てがデマ、というわけではなさそうなんだよ。」
「!なっ……嘘を言うな。」
ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった北斗に対し、教師は「こんな嘘をついて、私に何の得がある?」と冷静に問いかけた。
「北斗くん。私はね、七星くんは本当に心優しい少年だと思っているんだ。だから、きっとそんな連中とつるむことになったのには何か理由があると思うんだよ。」
「理由…。」
「ああ。もしかしたら、七星くんはきみにも言えない何か大きな悩みを抱えていたのかもしれない。日頃のストレスが溜まって自暴自棄になってしまったのかもしれない。彼らと縁を切りたくても、切れない状況下に立たされているのかもしれない。」
「………。」
「もちろん、どれも私の憶測でしかないが…。どのみち、このままにしておくわけにはいかないだろう。教師が生徒の友人関係に口出しするのもどうかとは思うが、七星くんはアイドルだ。そんな連中とつるんでいたら、きっとファンを悲しませてしまう。それに、もしかしたら彼や彼の友人に危害が及ぶ可能性だって十分ある。」
「!」
教師の話を聞いて、ふと脳裏を過ぎったのは腕を怪我したスバルの姿だった。今朝、登校中に不良に襲われたというスバルは、たまたま彼らの目に止まったのが自分だったんだろうと話していた。
しかし、もし、その不良というのが七星がつるんでいる連中、もしくは七星がつるんでいる連中に敵意を持った人間だったとしたら…?
北斗はゴクリと固唾を呑む。そういえば、あのときの七星はどこか様子がおかしかった。それは、もしやスバルが襲われた理由に、何か心当たりがあったからではないだろうか。
「北斗くん。生徒にこういうことを頼むなんて、不甲斐ない教師だと思われるだろう。でも、私は、七星くんを救ってあげられるのは、彼が一番信頼を置いている北斗くん、きみだけだと思うんだ。だから、」
どうか、他校の不良達とは縁を切るよう説得してほしい。
教師から必死な血相で頼み込まれた北斗は、戸惑いを見せながらもその首を縦に振る。大切な弟を救い出してあげたいという強い気持ちが、却って彼の冷静な判断力を鈍らしてしまったことに気づかぬまま。
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