07


「七星くんと呼んでもいいかい? 氷鷹くんだとお兄さんと被ってしまうからね。」

「わかりました。それで、僕に何かご用ですか先生。……ひょっとして、“あの噂”に関することですか?」

「ああ、七星くんは察しがいいね。実は今学院中で広まっている“あの噂”の真偽を確かめてくるように、と上から言われていてね。全く……確かめるも何も、あんなデマ信じる方がどうかしてると思うが。」

「…先生は僕を信じてくださるんですか?」

「もちろんだ。大体、私はきみに媚を売られた覚えもないし、我が学院の入試だって公正に行われている。なにより、大事な教え子がその噂を否定しているんだ。教師である私が信じてあげなくてどうする。
……しかし、大丈夫なのかい? 先輩に目をつけられたり、いじめられたりはしていないか。この学院にそんな生徒がいると考えたくないが、例え悪意がなくても人は簡単に相手の心を傷つけてしまうものだ。私はきみのメンタルが心配だよ。」

「それについては大丈夫ですよ。両親があんな人達なので……これまでにも何度か“こういうこと”はありましたけど、僕は赤の他人にどう思われようが、別になんとも思いません。それに、僕は独りじゃない。兄も友人も僕のことを信じてくれていますから。」

「そうか。七星くんはいい友人たちに恵まれたんだね。……だが、警戒するに越したことはない。もし何かあれば、どんなことでも遠慮なく先生を頼りなさい。いいね?」

「はい。ありがとうございます、先生。」




グレーテルに迷いはない07




「七星くん、衣更くん大変だよ!明星くんが…!」

「……え?」

「おはよう、真。スバルがどうかしたのか?」
 

いつもより遅い時間に登校してきた真は、息を切らしながら七星達のもとへ駆け寄ってくる。その顔色はすこぶる悪く、七星はざわざわと毛が逆撫でされる感覚を覚えた。


「今朝、登校中に他校の不良に絡まれてーー」







「本当に大丈夫なのか、明星。」

「もう、ホッケ〜もみんなも大袈裟だよ!こんな掠り傷くらいでさ〜。」


スバルはそう言って、絆創膏が貼られた腕をブンブンと振り回す。いつも通りの笑顔を見せるスバルに、七星達はほっと胸をなでおろした。


「でも、本当によかったよ。明星くんが不良に絡まれて怪我を負った〜って聞いたときは、僕、本当に心臓が止まるかと思ったんだからね?」

「あははっ、俺も裏路地に引きずり込まれたときはさすがにやばいかもって思ったよ〜。でも、偶然通りかかったガミさんが怖い人達、みーんな追い払ってくれたんだ! ガミさん、ヒーローみたいですごくかっこよかったな♪」

「……なあ、その掠り傷ってのは引きずり込まれそうになったとき、抵抗してできた傷なんだよな。スバル、本当にその不良達に心当たりないのか?
おまえをそこまでして襲おうとした理由が、“たまたま目に止まったから”だとは、どうも思えないんだよなぁ、俺。」


真緒が目を細めながら、スバルに問う。どうやら北斗も彼と同じ考えらしく、二人分の探るような視線を浴びたスバルは、居心地悪そうに目を逸らした。その先で不安げに揺れていた、北斗と同色の瞳とばっちり目が合う。

一瞬動揺したように動きを止めたスバルは、すぐにへらりと笑みを浮かべ、困ったように頬を掻いた。


「う〜ん。でも俺、本当に何もわからないんだ。 きっと夢ノ咲学院の制服着てたから、アイドルだしお金もたくさん持ってるって思われたんじゃないかな?」

「ーーっ、」

「なるほど……ってことは、もしかしたら僕達も狙われるかもしれないってことだよね!? やっぱり、最近何かと物騒だし、防犯ブザーとか持ち歩いてた方が良いのかな〜?」

「まあ、持っていて損はないだろうが、……?どうした七星、顔色が良くないぞ。」


七星の様子がおかしいことに気づいた北斗が心配そうに尋ねる。しかし、七星はなんでもないよと首を振り、先生に呼ばれているからと言って、そのまま逃げるように立ち去った。呼び止める声には聞こえないフリをして。

ドクン、ドクンと動悸が高まり、全身の血が冷えわたる。ずっと感じていた嫌な予感は、気づけば確信へと変わっていた。


(間違いない。あの反応……明星は僕を庇ってる。きっと明星が襲われた理由は、僕と何か関係があるんだ…!)


目があったとき、まるで“七星は関係ない”とばかりにスバルは笑った。そして、決して襲われた理由を人に話そうとしなかった。それは、きっと仲間想いの優しい彼のことだから、七星が傷つくことを恐れて、真実を明かさなかったのだろう。


大切な仲間が危険な目にあった。下手したら、大怪我を負わされていたかもしれない。

それも全部、自分のせいで。


「僕は、一体どうしたら…!」



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