「こっちに来て。」



聞こえてくるのは、幼い女の子の声。その声は、私を林の奥へと導いていく。

ねえ、『こっち』ってどこ?


林の奥へ進めば進むほど、辺りは薄暗くなってくる。なんだか不気味だ。だんだん大きくなっていく女の子の声を頼りに、私はまた一歩足を前へと踏み出す。……が、誰かに後ろから服の裾を引っ張られ、そこに踏み止まる。

振り向くと、そこには幼なじみが眉間に皺を寄せて立っていた。


「おい。何処へ行くつもりだよ。」

「わかんない。でも、呼ばれてるから。」

「はあ?……誰に。」

「女の子。聞こえるでしょ?『こっちに来て』って声。だから、行かなくちゃ。」


私がそう言うと、幼なじみはさらに皺を濃くさせた。どうしてそんなに不機嫌なんだろう?彼は私の手を握ると、先ほど歩いて来た方に足を向けた。


「………母さん達の居るとこに戻るぞ。」

「え?でも、声が。」

「こんな林の奥に女の子がいる訳ねぇだろ、バァカ。……それに、確かこの先は崖だったはずだ。」


それだけ言うと、幼なじみは私の手を引いて歩き出した。私もそれに従って歩を進める。

少し気になって後ろを振り返ると、遠くの方に女の子が立っていた。その女の子は、私を睨みながら口を動かす。


「もう少しだったのに。」


そう聞こえた。彼女の後ろには、なにもない。……そっか。幼なじみの言うとおり、あの先は崖だったんだ。

もし、彼が来てくれなかったら、私はあのまま崖から落ちていたに違いない。途端に恐ろしくなった私は、幼なじみの手をギュッと握りしめた。すると、幼なじみもそれに応えるかのように強く握り返してくれる。なんだか、少しだけ恐怖が和らいだような気がした。



林を抜けると、当然の如く。幼なじみに叱られた。そして、もう二度とこの林には入らないと約束させられた。だからそれ以来、私はこの林に入ったことはない。

……でもね。真くん。この林の前を通るとき、必ず聞こえるんだよ。あの女の子の声が。


「こっちに来て。」



『こっち』って崖の向こう側のことかな?

それともー…


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