「花宮ー。携帯鳴ってたよん。」

「あ?」


休憩中。部室にタオルを忘れ、取りに行っていた原が戻ってきて開口一番にそう言った。その手には、しっかりと花宮の携帯電話が握られている。花宮は面倒くさそうな表情を浮かべつつも、原から携帯を受け取り、着信履歴を確認した。


ーーーなまえからだ。 

花宮はチッと舌打ちをする。今、霧崎第一では幽霊騒動で持ちきりだ。もしかしたらなまえの身に何かあったのかもしれない。……それが杞憂に終われば良いのだが。
とりあえず掛け直すか、と携帯を操作していると、僅差で掛け直すより先に携帯が震えだす。どうやら、メールが来たようだ。差出人は予想通り、幼馴染から。花宮は躊躇なく、それを開いた。



差出人:みょうじ なまえ
件名:やばい
――――――――――――――
死の鬼ごっこなう
たすけて



「………はあ。」


花宮は思わず溜息が着いた。幼馴染の体質には昔から悩まされてきたが、今回も見事に巻き込まれてしまったらしい。
これが赤の他人であれば、「ご愁傷さま」と言って嘲笑するだろう。いや、赤の他人でなくとも花宮は簡単に見捨てるはずだ。ーーー1人例外を除いて。


「だから、お前はもっと注意力を持てって言ってんだろ。バァカ。」


花宮はそう呟いてから、「スタメン集合!」と声を上げた。休憩していたバスケ部員の視線を一斉に集めた花宮は、動じることなく言葉を続ける。


「次の練習試合のことで話があるから、少し時間を貰えるかな?それ以外の部員は休憩が終わり次第、メニュー通りに進めてほしい。」


部員達の大きな返事を聞いてから、スタメンを連れて体育館を後にする。因みに寝ていた瀬戸は、古橋がちゃんと起こしてきてくれたようだ。部室に入ると、ずっと黙っていた原がついに口を開いた。


「で、話って?さっきの電話と何か関係あんの?」

「……電話?ああ、またみょうじさんの身に何かあったのか。」


察しの良い古橋に、花宮は隠すことなく「ああ」と肯定する。山崎以外のスタメンは、既になまえと接触済みのはず。なまえを探すなら人数は多いほうが良いだろう。なにより、こういう類のものは古橋がいれば百人力だ。

花宮はさっきのメールを彼らに見せた。


「鬼ごっこ…?何かに追われているのか。」

「それって、昨日出たって噂になってる白い幽霊に??」

「それはわからないが…。花宮、みょうじさんと連絡はとれないのか?」

「ああ、何度もかけてみたんだが繋がられねぇ。」

「それ、結構やばいんじゃね?」


人事のようにケラケラ笑う原を尻目に、古橋は「探しに行くなら、俺も手伝おう」と申し出た。続いて、原も「まっ、俺も幽霊見たいし行くわ」と軽い調子で言う。悪趣味だな。

花宮は二人に礼を言ってから、ふと窓辺に立つ瀬戸に目を向けた。先程から黙りであったのは、てっきり寝ていたからだとばかり思っていたのだが、どうやらずっと起きていたらしい。
そんな外ばかり見てどうしたんだと尋ねるより早く、その彼の視線の先ーーカーテンの間から垣間見る暗闇に気が付いた花宮は目を丸くした。


「ーーーなんで、夜になってんだよ。」


「まだ17時前だよな?」と言いながら、携帯の時間を確認すれば、16時44分という不吉な数字。花宮の言葉に、古橋と原も窓の外に視線を向けた。


「花宮。体育館の電気も消えてる。ボールの音も部員の声も聞こえないよ。」

「……完全に俺達も捲きこまれたな、怪奇現象に。」

「まじかー。どーすんの、花宮。」


原の声に、三人の視線が花宮へと向けられる。花宮は、携帯をポケットにしまうと、窓に手を添えた。


「とりあえず、あそこへ行ってみるか。」


真っ暗になった校舎で、唯一灯りのついている教室を見ながら花宮はそう言った。

prev next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -