休日。何だか突然、アイスが食べたくなってしまった私は、近くのコンビニへ行こうと家を出る。すると、庭で掃き掃除をしている真くんのお母さんを見つけた。


「おばさん、こんにちは!」

「あら、なまえちゃん。こんにちは。これから何処かへお出かけ?」

「はい!……って言っても、近くのコンビニなんですけどね。」


私がそう言って苦笑を浮かべると、おばさんもくすくすと笑いだす。流石、真くんの母だけあって、女の私でも惚れ惚れしてしまう容姿だ。羨ましい。
そうして、暫く世間話をしていると、おばさんは「あ!そうだわ」と思いだしたように言った。


「なまえちゃん。ちょっと、頼まれごとを引き受けてくれないかな?」

「?」


一体何だろう。私は首を横に傾ける。おばさんは「少し待っててね。」と言って、一度家に戻ると、すぐに緑の手提げを持って出てきた。


「真がお弁当忘れて行っちゃったのよ。悪いけど、学校まで持って行ってくれない?」

「……なるほど。わかりました!これは、私がちゃんと真くんに届けておきます。」

「ごめんね。せっかくの休みなのに…。」

「いえ。どうせ、暇でしたから!」


って言っちゃったけど、仮にも華の女子高校生が休日に暇ってどうなんだろう。なんだか虚しくなってしまったけれど、これが真実なんだから仕方ない。私はおばさんから緑の手提げを受け取ると、学校目指して歩き出した。


(それにしても……真くんでも忘れ物することってあるんだなぁ。)


いつも完璧を装う真くんだけれど、やっぱり彼も普通の人間だったんだね。そんな失礼なことを考えながら、私は住宅街を歩く。
ふと空を見上げると、青空に真っ直ぐかかる飛行機雲があった。……なんだか今日は、良いことが起こりそうな気がする。

ご機嫌の私は、手提げをユラユラ揺らし、鼻歌を口ずさみながら、学校へ向かった。




現在の時刻は11時45分。どうやら、まだバスケ部は練習中のようだ。邪魔しちゃいけないと思った私は、体育館の外にある水道に寄りかかって待機することにした。

体育館の中からキュッキュッと、バッシュのスキール音が聞こえてくる。……そう言えば、小学生の頃はよく真くんとバスケしたなぁ。昔のことを思い出し、私はフッと笑った。

あの頃の真くんは本当に可愛くて。でも、やっぱり今と同じ意地悪で。なかなかシュートが入らない私を『そんなシュートじゃ、一生入らねぇよ。バァカ』って嘲笑ったんだっけ。
……でもその後、泣いてしまった私に真くんはコツを丁寧に教えてくれて。それから、シュートが入るまでずっと練習に付き合ってくれたんだよね。

そんな不器用だけど、本当は優しいところも変わってないんだよなぁ。


暫くそこで、ぼーっと突っ立っていると、突然バンッ!と大きな音を立てて体育館の扉が開いた。どうやら、部活は終わったらしい。
私が慌ててそちらを見ると、部員と思われる人達が数人が体育館内から出てきた。そして、水を飲みに此方へ向かってくる。


(真くんは…やっぱり中かな?)


体育館の中に入るのは流石に気が引けるし、都合良く彼が出てくるとも思えないから、渡して貰えるよう部員の誰かに頼んだ方が良いよね。
そう考えた私はちょうど近くに来た、なんだか怖そうな顔をした人と前髪で隠れて目が見えない人に声をかけた。


「あ、あの!」


だがしかし。それは、どうやら人選ミスだったようです。

prev next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -