だん、だん、だん…


はっきり聞こえるボールの音。中に誰かがいるのだろうか?いや、普通こんなところに人はいないはず…。え、じゃあなに?
考えてすぐ頭に浮かんだのは、”れ”から始まって”い”で終わるもの。でも、私は首を横にぶんぶんと振って、その考えを追いやった。

や、やだなー。こんな真っ昼間からゆゆ、幽霊なんて…出るわけないじゃない!きっと、恥ずかしがり屋のバスケ部員とかがこっそり練習してるんだ。うん、そうに違いない。

私は、そう自分を信じこませて、差し込んだ鍵を横に回した。ーーいや、違う。実際は回そうとしたんだ。

でも、


「なにをしているんだ。」

「っ、ひゃあ!?」


突然、背後から声をかけられ、私はビクッと肩を大きく揺らす。さっきから、心臓に悪いことばっかりだ。

慌てて後ろに振り向くと、そこには黒髪で無表情の男子生徒がいた。目を丸くして固まる私に、彼は「驚かせてすまない」と少し申し訳なさそうに謝った。
とりあえず、普通の人間のようだ。良かった。私は胸をなでおろす。未だに心臓はバクバク鳴っているけど。

あれ?ってかこの人、どこかで……あっ!前にバスケ部を見学しに行ったときに、真くんと一緒にいた人だ!
ってことは、彼もバスケ部員か。やっぱり、バスケ部の人って背が高いな。威圧感がすごい。そんなことを考えていると、その先輩は相変わらず無表情のまま口を開いた。


「で、体育倉庫に何か用か?」

「あ、はい。次の授業が体育で、バレーボールを出しておくよう先生から言われてて、それで……。」

「そうか。」


その先輩は私の説明に頷くと、私が途中で手を離してしまったため、差し込まれたままの状態の鍵に手をかけた。そして、ガチャッと鍵を回す。
思わず、私は「あっ!」という声を漏らすが、その先輩は特に気にした様子もなく、そのまま扉をゆっくり開けた。

私はごくり、と唾を飲み込む。けれど、扉の向こうにあったのは、なんの変哲もない只の倉庫であった。中に人なんてどこにもいないし、ボールは綺麗にカゴに仕舞われている。私は、ほっと息をついた。
そういえば、あのドリブルの音もいつの間にか消えてるし……やっぱりあれは気のせいだったのかもしれない。きっと、静かで不気味だーとか思ってたから幻聴でも聞こえたんだな、きっと。

中に入った私は、バレーボールがたくさん入った車輪付きのカゴを押しながら、倉庫を出た。よし、これで任務完了だ。
すると、それを確認した先輩は倉庫の扉を閉め、鍵を閉めてくれた。……あれ?


「えっと、先輩も倉庫に用があったんじゃ…。」

「いや、特に用はない。」

「え?じゃあ、どうして此処に…?」


その質問には答えず、先輩は私に言った。


「お前は1年だな。」

「え?あ、はい。」

「そうか。これから大変だろうが頑張れよ。」

「は?えっと、あの……なんの話ですか?」



意味がわからない、と首を横に傾ける私。けれど、彼はそれ以上何も喋ろうとしなかった。言葉数の少ない人だ。
その人は私に鍵を返すと、背を向けて歩き出した。どうやら、校舎の方に戻るらしい。はっとした私は、慌てて先輩の後ろを追いかける。こんなところに一人はごめんだ。



「あ。」



すると、何かを思い出したのか。急に立ち止まった彼は、私の方に顔を向けて言った。


「体育倉庫には一人で来ない方が良いぞ。」

「?どうしてですか。」

「頭をボールの代わりにされたくないだろ?」

「……。」


それが一体どういう意味なのか。私は怖くて聞くことができなかった。だが、なんとなく意味を察してしまった私は、素直に首を縦に振る。

もう体育倉庫には一人で行かない。私はそう心に決めたのだった。

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