その次の日。真くんは、バスケ部の朝練があったため、普通の生徒より早い時間に家を出なくてはならなかった。
だから、昨日の夜に『明日、一緒に登校できない』とだけ書かれたシンプルなメールが私の元に届いた。真くんって意外と律気だよね。それを確認した私は、『了解』という文字だけ打って、すぐに返信する。絵文字も使わず、可愛げも見られない簡単な文だけど、これが私たちの通常のやりとりなのだ。今更、真くんに媚びを売っても仕方ないし。

そもそも、私たちは一緒に行く約束なんてしていない。けれど、昔から真くんは毎朝私の家に迎えに来て、私の支度が終わるのを待っててくれるのだ。そして、一緒に登下校する。気づけば、それが当たり前のようになっていた。
もちろん、中学生になってからは部活の朝練があるため、一緒に行く機会はめっきり減ってしまったのだけれど。それでも、朝練のない日に彼は必ず家にやってくる。なんでだろう。


(はっ、もしかして一人で登校するのが寂しいのかな?)


そんな考えが一瞬頭に浮かんだが、すぐに慌てて掻き消す。今考えていたことが、もし真くんにバレたりでもしたら、きっと私は半殺しされてしまう。
たまに彼は、読心術を心得ているのではないかと疑ってしまうような行動をとるから怖い。もしかしたら、このドアを開けた先に彼が待ちかまえているかも…。やだ、何それ怖すぎ。どんなホラーだ。

恐ろしいほど綺麗な笑顔で、立てた親指を地面にくいっと向ける真くんを容易に想像してしまった私は、顔を真っ青にしながら急いで家を飛び出した。だが、当然そこには誰もいない。私は、ふうっと息を吐いてから、まだ慣れていない通学路を一人で歩きだした。

桜の花びらは昨日と変わらず、ひらひらと蝶のように舞っていた。





「あ、おはよー!なまえちゃん。」

「おはよう、はーちゃん。」


教室に入ると一番に挨拶してくれたのは、昨日仲良くなったばかりのはーちゃんだった。私が自分の席に着席すると、彼女は身体ごと後ろに向ける。席が前後だと座ったまま、お喋りができて楽だなぁ。
私たちは昨日、結局決められなかった入部する部活について話し始めた。まあ、私はどこにも入らないつもりだけどね。


「それで結局、はーちゃんはゴルフ部のマネージャーに決めたの?」

「うん。バスケ部と迷ったんだけど…。バスケ部ってマネージャー志望の子たくさんいたからさー。」

「…ああ、なるほど。」

 
昨日見学したときにいた、明らかに真くん目的の女子達を思い出し、私は苦笑を浮かべた。どうやらそのミーハーな女子達を見たはーちゃんは、自分の必要性を感じられず、バスケ部の入部を断念してしまったらしい。うん、賢明な判断だと思う。
大切な友達が悪魔(真くん)の手に堕ちることを恐れていた私は、彼女の話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。


(でも、まあ…マネージャーとかすぐにやめそうな子達ばかりだったけどね。)


マネージャーは応援ばかりしてれば良いわけじゃないし、結構つらい仕事も多いから。ああいう男目当てで入る子達は、すぐに音を上げてやめちゃうんだって真くんが前に言っていた。

彼が昨日言っていたように、マネージャー不足はこれからも続くんだろう。大変だな、と他人事のように考えていると、はーちゃんが「1限目、委員会決めだね。なににする?」と別の話題を私に振ってきた。そういえば、昨日先生がそんな話してたっけ。私は「やっぱり楽なのがいいよねー」と笑いながら言った。

ちなみに、その日のおは朝占いで私は最下位であった。

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