「なまえちゃん?入らないの?」

「うん、ちょっと…。」


バスケ部が使う体育館の前で、なかなか中に入ろうとしない私に、首を傾げるはーちゃん。
バスケ部はもう既に練習を始めているようで、バッシュやボールの音が体育館内から聞こえてくる。きっとこの中に真くんもいるはずだ。やだ、今すぐ帰りたい。

そもそも、どうして真くんに会いたくないのかというと。別に彼のことが嫌いなわけではない(苦手だと思うことはあるけれど)。
……ここだけの話。私は、真くんがどういうバスケをしているのか知っている。計算されたラフプレーで誰かを傷つけ、多くの恨みを買っていることも全て。
当事者である真くんから直接聞いたわけではないけれど、何年も彼と一緒にいる私は嫌でもそれに気づいてしまった。

でも、私は何も知らない振りをしている。真くんのやっていることを知っても、彼を叱ろうとか、改心させようとか、そういう気は全く起こらなかった。ただ、自分には関係ない、と現実から目を背けるだけ。
知っているくせに、見て見ぬ振りをするなんて最低だ、と言われるかもしれない。私も間違ってると思う。けれど、これから先も真くんと仲の良い(?)幼なじみでいたいと思うし、それを真くんも望んでいると思うから。

これで良いんだって自分にそう言い聞かせながら、私は申し訳無さそうに口を開いた。


「はーちゃん、ごめん。やっぱり私…!」

「あれ、此処で何してんのー?もしかしてマネージャー希望の子?」


渡られた。なんか、チャラそうな人に。

突然の声に吃驚して固まる私とはーちゃん。すると、後ろからやってきたチャラい人は、フーセンガムを膨らませながら私たちの横を通り、体育館のドアを開けた。


「見学したいんなら、遠慮しないで入って良いよー。俺から監督に伝えとくからさ。」

「はっ、はい!ありがとうございます。」

「………。」


チャラい人は、それだけ言って体育館の中に入ってしまった。はーちゃんが「前髪で顔がよく見えなかったけど、優しそうな先輩だったね!」と笑いかけてくる。しかし、私にとって彼の親切は良い迷惑でしかない。これで本当に逃げ場を失ってしまった。恐らく、彼が先程言った“監督”というのは真くんのことだろう。


(仕方ない。人生諦めが肝心だよね…。)


とうとう諦めた私は、重たいドアを押し開けた。そして、はーちゃんと一緒に体育館内に足を踏み入れる。そのとき、


「ーーっ!」


ぞわり、と一瞬背筋に悪寒が走った。けれど、今は暖かい春の季節なわけで、それはとても不釣り合いなことのように思えた。……おかしいな。私は首を横に傾ける。
けれど、隣りに立つはーちゃんは特に変わった様子もなかったので、きっと自分の勘違いだろう、と私はそれを特に気にとめなかった。

後々、後悔することも知らないで。

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