▽
「起きろ、美奈子。朝だぞ。」
「…んー……あと、5分……」
「仕方ない。ボンゴレファミリー伝統のお目覚め方をやるか。3、2、1……」
ピタッ
「っぎゃあああああああ!!!?」
「お目覚めか。」
「り、リボーン!起こすのにいちいち、心臓に電気ショック与えないでよ!」
「良かったな、無事目が覚めて。たまにそれっきり目覚めない奴もいるからな。」
「……それ絶対、ショック死してるんだよ。」
リボーンの起こし方に顔を青褪めながら、美奈子はベッドから起き上がった。このまま寝ていたら、待っているのは死、のみだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
「というかお前、そんな流暢に話せたのか。」
「へっ?!あっ…家族とか、親しい人には話せるよ。リボーンとも…結構普通に話せる、かも。」
「そうか。」
リボーンはフッと口元をゆるめる。そして、どこからかスケジュール帳を取り出して、美奈子に見せた。
「今日の予定だぞ。」
「予定?……朝、転校生の紹介。それから球技大会。卓球は午後から。……あっ!そうだ。卓球!!!」
「まさか、俺が手を加えなくても選手に抜擢されるとはな。さすが、俺の生徒だぞ。」
「ど、どどどうしよ…っ」
美奈子が頭を抱え込む。球技が大の苦手である彼女は、未だに腹を括れずにいた。
何とかならないかな?!とリボーンに救いを求めるダメミナに、リボーンは「これも、ミナを立派なボンゴレファミリー10代目のボスにするためだぞ」と言って、彼女を平然と突き放すのだった。
球技大会「転校生を紹介する。イタリアに留学していた獄寺隼人くんだ。」
ざわっ
「ちょっと!超格好良くない?!」
「おまけに帰国子女よ!」
(わわわ、獄寺くんだ!本物!!)
今朝、リボーンから転校生が来ることを聞いていた美奈子は、その転校生が"あの獄寺隼人"だということに勘付いていた。もちろん、優花も同じだ。
赤Tシャツに、首から下げるネックレス。銀髪、鋭い目付き……明らかに不良の見た目をした彼は、その整った綺麗な顔立ちで、多くの女子達のハートを一瞬にして奪っていた。
そして、
(ヒィッ!や、やっぱり……私睨まれてる!!!)
ボンゴレ10代目ボス候補である沢田美奈子に、殺意のこもった目を向ける獄寺隼人。彼が日本に来た目的は、彼女が10代目になる人物としてふさわしいかどうか見極めるためなのだ。
ツナのように机を蹴り飛ばされることはなかったが、その後のSHRの時間も、美奈子はずっと殺気を感じていた。
予想はしていたものの、実際こうもずっと睨まれ続けるのは精神的につらい。美奈子は目に涙を浮かべ、助けを求めるように優花の方を見た。しかし、優花は「(ファ・イ・ト!)」と口を動かすだけで、決して助けてはくれなかった。
(うう……獄寺くんめちゃくちゃ怖いよぉ…。)
ポンッ
「っ!!!」
「よお、沢田。」
「…や、山本……くん。」
「ハハッ、呼び捨てでいーぜ?なんかそっちの方がしっくりくるし。」
SHR後。球技大会の開会式を行うため、生徒達は校庭へと移動しはじめる。そんな中、美奈子に声をかけてきたのは、クラスの人気者であり、卓球ダブルスでペアを組むことになった山本武だった。
彼は朝から爽やかな笑みを浮かべて言った。
「今日は一緒に頑張ろうぜ。」
「…う、うん。頑張る、けど……っで、でも……私、球技とか本当に全然ダメで…。その、すごい足……引っ張っちゃうと、思うの。」
「ああ、大丈夫だって!俺がちゃんとフォローしてやっから。沢田はもっと肩の力を抜いて、落ち着いていこうぜ。な?」
「あ……う、うん。そう、だね……。」
「そんじゃ、また後でな!」
変わらず、爽やかな風を吹かせながら去っていく山本の後ろ姿を、美奈子は困惑した表情を浮かべながら見送った。
着々と迫っている試合に不安が募る。どうしようと悩んでも、解決策は何も浮かんでこなかった。
「……もう。こうなったら、」
「”逃げ出すしかないとミナは思った”。」
「うん。それしかない…!」
「”だけど、そんなことしたら自分のことを気にかけ、優しい言葉をくれた山本を裏切ることになる”。」
「問題はそこなんだよね……って、リボーン?!」
「ミナの心の声だぞ。」
いつの間にか肩に乗っていたリボーンは、メガホンを片手にそう言った。
「わざわざ声に出して言わなくていいよ!」と美奈子が涙目で叫ぶと、リボーンは肩から飛び降り、華麗に地面へ着地してから言った。
「女なら、逃げるより死を選べ。」
「そ、そんな無責任な…!他人事だと思って…っ」
「やるだけやって力尽きた者を、笑う奴はいないぞ。」
「……っ、」
リボーンはそれだけ言うと、またどこかへ行ってしまった。なぜ、リボーンが学校にいるのかとツッコミを入れる余裕もなく、美奈子は誰もいない廊下で1人立ち尽くした。
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