▽
「ねえ、沢田美奈子さん。ちょっといい?」
「………え。えっ!?優花ちゃん!!?」
「……はあ。その様子じゃ、自分の自己紹介のことで頭いっぱいになって、私や他の子の自己紹介はちっとも聞いてくれてなかったみたいね。」
山本武の自己紹介を聞いたとき同様、目を大きく見開いた美奈子に、私は溜息をついた。
入学式の日なんて授業も昼食もないし、あっという間に放課後だ。
クラスメート達はさっそく新しい友達を作り始め、わいわいと騒がしくなる教室。しかし、そんな教室が居心地悪いのか、さっさと帰ろうとしていた美奈子を私は呼び止めた。
理由は、彼女が本当に私の知る美奈子なのか確認したかったから。…まあ、あの反応を見る限り、ほぼ間違いなく本人だと思うけどね。
しかし、どうやら美奈子は私を見て混乱してしまったらしい。頭を抱え込み、ぶつぶつと呟きだした。
「ど、どうして優花ちゃんが…。私、さっき山本を見て、前世のことを思い出して……ひょっとしたら私、『リボーン』の世界に転生しちゃったのかもって思ったんだけど…。そしたら優花ちゃんが此処にいるのはおかしいし……これはもしかして、夢?」
「…かもしれない。でも、それならすごくリアルで長い夢を見ていることになるね。お腹も空くし、痛みも感じる。それに、私には黒川優花として12年間生きてきた記憶がある。」
「わ、私にもある…。沢田美奈子として生きてきた記憶が。」
不安げにそう言った美奈子に、私はコクリと頷いた。
そして、私はここじゃ話しづらいから学校近くの公園へ移動しようと提案した。まだ明るい時間だし、公園にはきっと人がいるだろうけど、ここで話すよりはずっとマシだと思ったから。美奈子も同じことを思ったのか、素直に私の言うことを聞いてくれた。
新しい友達と会話するのに必死なクラスメート達は誰一人、教室を出て行く私達に興味を持ったりしなかった。
そうしてやっと公園に着くと、私達は隣同士で空いていたベンチに腰を下ろした。予想通り、公園には遊具で遊ぶ子供たちがいてたいへん賑やかだ。少し離れた此方にまで、その楽しそうな声が聞こえてくる。
対して、私達のいるベンチには異様な空気が漂っていた。私は「何か飲む?」と自動販売機を指差すが、いらないと美奈子は首を横に振る。相変わらず不安げな表情の美奈子に苦笑を浮かべながら、私はさっそく先程の話の続きを始めた。
「私もさっき、あんたを見て思い出したばっかなんだけどさ。多分、あんたの考え通り、ここは『家庭教師ヒットマンREBORN!』の世界だと思うよ。だって此処は並盛だし、クラスに山本武も笹川京子もがいるしね。」
「や、やっぱり…!私達、転生しちゃったんだね…あの世界に。」
「うん。それも多分、ただの転生じゃないよ。」
「……え?どういうこと?」
私の言葉に、美奈子は首を傾げる。
そう。私の予想が当たっていれば、これはただの転生じゃない。ずっと気になってたんだ。……彼女の苗字を聞いたときから。
「ねえ、あんたの両親の名前は?」
「私の、両親の名前…?」
"沢田家光"と"沢田奈々"
「っ!!?え、私もしかして綱吉ポジション?!」
「やっぱりね。あんた、"沢田綱吉"に転生しちゃったのよ。……多分、私も"黒川花"に。」
「うそっ?!え、ほんとに…?」
突然のことに驚きを隠せない美奈子。私だって、まさか入学式にこんな衝撃の事実を知ることになるなんて思ってなかったよ。
まあ、"黒川花"はヒロインの親友ポジだし。普通に生きてさえすれば、この世界でこれから起こるであろう、マフィア絡みのさまざまな事件に巻き込まれる確率は低い。主人公に成り代わってしまったこの子よりかは、幾分か余裕があるかな。
って言っても、この世界で普通に生きるつもりなんて更々ないんだけどね!
「どどどどうしよ…!」と涙目で助けを求めてくる美奈子に、私は笑顔で言った。
「ま、頑張れ10代目!」
「まだ10代目になってないよおおおお」
美奈子の声は、公園中に響きわたった。
入学式
prev / next